思い出の場所
Frontier World Online発売記念に書きました
はじまりの町――ナット平原
多くの初心者達がネズミと格闘する景色を眺めながら、のんびりと横を通過する俺。
肩に懐かしい重みを感じつつ、俺は見上げる形で声を掛けた。
『久々の肩車はどうだ?』
大人しく肩車されているのはダリア。
今は彼女以外、ここにはいない。俺が頼んでダリアとの二人の時間を作ってもらったのだ。
『ちょっと恥ずかしい』
と、無表情でそう呟くダリア。
召喚された頃よりも子供っぽさが抜けた分、精神年齢も上がったのだろうか。最近頭の上は部長の定位置だから、こうして肩車するのは本当に久々な気がする。
『まあたまにはいいじゃん』
『うん』
と、満更でもなさそうな返事。
ナット平原は俺が初めて歩いた戦闘フィールドである前に、子供達と初めて出会った場所でもある。
そして最初に出会ったのがダリアだ。
大所帯となった今、それがとても懐かしく思えてしまう。
『……ご両親のことで悩んでるのか?』
戦争イベント後からダリアの様子がおかしい事に気付いてはいたが、直接尋ねるのはコレが初めて。妹弟達の手前、長女として振る舞うダリアが弱音を吐くことも少なくなったからだ。
『言いづらいこともあるだろうし、将来的に言おうとしてるのかもしれないからさ。ただコレだけ先に伝えておこうと思って』
そう言いながら、目的の場所にたどり着く。
そこは子供達を召喚する時に必ず来ている木の下だった。
俺はその木に手を当てる。
ダリアは黙ってその木を見つめている。
『アルデのお父さんを見て気付いたんだ。〝どっちが本当の親〟とか……関係ないんじゃないかなって。ダリアのご両親も俺達も家族だ。あの時アルデにも伝えたけど、ダリアがどんな選択をしようとも、俺達が変わることはないよ』
それだけ伝えたかった、と言う俺に、
『うん。分かってる』
と、答えるダリア。
ザザァと風に靡く草木の音。
遠くで聞こえる戦闘音、鐘の音。
墓の前に立つアルデを見て俺も決心したんだ――俺が狼狽えるのは、もう辞めようと。子供に不安が伝わるようなことは、もうしないと。
さて、そろそろ戻ろうか。
部長達も早く召喚してやらないとだし。
「戻るか。相棒」
そう言いながら、俺はダリアを見上げる。
ダリアはフッと微笑んだ後、俺の頭をぺちぺちと叩き、それに答えたのだった。
10/29にFrontier Worldのリライト版である「Frontier World Online―召喚士として活動中―」が発売されました。今後ともフロワーをよろしくお願いします。