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巨大迷宮 インフィニティ・ラビリンス ①


 3月1日午前9時26分。


 冒険の町に押し寄せる、溢れんばかりの人人人。

 最前線組なのか、見たこともない(きら)びやかな装備を纏ったプレイヤーから、昨日始めた風の見習い装備に身を包むプレイヤーなどなど、イベント開始を待ちきれないといった様子のプレイヤーで町は大いに賑わっていた。


 所持アイテムはLP回復薬 Lv.5が20個。MP回復薬 Lv.3が10個とLv.4が5個。そして万能薬が10個となっている。

 ダリアには魔力回復の技能(スキル)もあるためMPの減りは激しいが、現状では薬漬けになった事はない。


 まあボス等が相手ならその限りではないものの、どちらかと言えば俺のLPの減少スピードが気になる。

 弾き(パリィ)が失敗すれば相応のダメージが通るし、一見高い耐久も本場の盾役(タンク)と比べればかなりの差が生まれてしまう。


 やはり回復役が一人、()しくは支援型の召喚獣でも増やせれば安定度が増すんだが……。



 ――回復アイテムの確認を済ませ、町中を歩く。

 レベルやログイン時間のバラバラなユーザー達が一様に集結したため、冒険の町はサービス開始日並みの混み具合だ。


 その中には見知った顔もいるようで――


「お、来たなダイキ」


「よ。勢揃いだな」


 ケンヤ達も全員揃ってイベントに参加するようだ。

 今回は別パーティとして行動することになるが、彼らとは迷宮内で会ったとしても戦闘には発展しないだろう。


「おはようございます、ダイキさん。ダリアちゃん」


「おはようございます、雨天さん。なんか、強そうな装備になってますね」


 雨天さんに限らず金太郎丸含めた他のメンバーも全員が装備を一新しているようだ。

 ギルド設立に相当金がかかった筈だが、その後必死に装備を揃えたんだろう。

 今日の為に仕上げてきているという事が、ひしひしと伝わってきた。


 雨天さんは縁なしメガネをクイと上げながら、俺とダリアに笑顔を見せた。統一感のある布製の装備は、俺のサイクロプス装備よりも濃い青色だ。

 同色の髪と職業も(あい)まって完成された格好だと感じる。


「まーねー! ……っといけない。ダイキさんも盾変えたんですね。なんかやけに可愛いデザインですが」


「あはは。無理して敬語を使わなくても結構ですよ。俺は別に気にしませんし」


「……面目無い」


 俯きがちに言うライラさんは、苦笑いしながら頭を掻いた。


 会って数日でケンヤ達と打ち解けたような口調になっていた彼女の敬語には、どことなくぎこちなさが感じられていた。

 ゲーム内なら誰も(とが)める人はいないだろう。

 少なくとも俺は気にならない。


 ライラさんの装備も軽剣士っぽい物から、鎖帷子と、その上にアーマーという騎士(ナイト)のような装備になっていた。

 背中にはなんとも重そうな大剣が背負われており、以前会った時より印象がガラリと変わっているように思える。


「あれ、前まで俺と同じ片手剣だったよね?」


「……うん! でも職業が剣士だとスキルが変化したり技が増えたりするの! 大剣はその派生かなー」


 彼女が話しやすい環境にするため、試しに敬語を使わずに話してみると、ライラさんは吹っ切れたように笑顔を見せる。


 ともあれ派生か……全然知らないんだが知ってて当然の予備知識なのだろうか? ちょっと変な汗かいてきた。


「だ、ダリアちゃん。進化したんですね」


「ええ、金太郎丸と同じようにレベル10になった際に進化しましたよ。っていうか、よく気が付きましたね」


「はい……角の反り方とか全然違うので」


 角の反り方!? よく見てるんだなこの子。


 驚いたように聞き返した俺に、はにかみながらクリンさんは答える。


 確かに、角も変化したといえばしたが……。


「……俺、全然気が付かなかった」


 鈍色のフルプレートメイルに身を包んだケンヤがショックを隠しきれない様子でダリアを見ると、ダリアは定位置から身を乗り出してあかんべーをして見せた。


 あ、ケンヤ嫌われたな。


「駄目ですよケンヤさん。女の子は髪型だったり服装だったりの変化に気付いてもらいたい生き物なんです」


「ケンヤ、女心がわかってないなー」


「ふふふ」


 女子からの集中砲火を受け、盾役(タンク)のケンヤが一瞬にして崩れ落ちる。

 前までは揶揄(からか)う側だったケンヤも、いつの間にか力関係が逆転していたようだ。

 女は強し――だな。


「そう言えば、ギルド立ち上げる話はどうなったんですか?」


「はい。ギルド自体の登録と土地の購入は済んだので、後はコツコツお金を貯めて家を建てるだけですね」


 楽しみです。と、クリンさんは白いローブを揺らしながら、腕の中で眠る小熊(金太郎丸町中ver)をひと撫でした。




 露店で会えればと思ってはみたが、紅葉さんやオルさんの姿は見当たらない。

 ともあれ、ここのどこかにいるのは間違いないものの、人が多すぎて判別がつかない。


「あれ。おはようダイキ君。ダリアちゃん」


「おはようございます、銀灰(ぎんかい)さん」


 そこに、複数人のプレイヤーを引き連れた銀灰(ぎんかい)さんが現れた。

 ライラさんよりも金属部分が多い鈍色の鎧と背中に背負う西洋の盾。

 胸の紋章はギルド【Coat(コート) of Arms(オブ アームズ)】の証。


銀灰(ぎんかい)さんもこのイベントに?」


「うん。ギルドの副マスとはいえ一介のゲーマーだ。僕もゲームイベントには極力参加したいよ」


 聞けばCoat(コート) of Arms(オブ アームズ)もギルドのメンバー達を六人ずつに分けてイベントに参加するらしい。


 銀灰(ぎんかい)さんがどの程度のレベルなのかさえ知らないものの、大手ギルドとなれば相当手強そうだ。




 ――時刻は午前9時59分。


 多くのプレイヤーが固唾(かたず)を飲んで時計台を見守る中、時計の針が動き、それは起こった。

 上下に揺れる冒険の町、そしてゴゴゴという大きな地鳴り。時計台が音を立てながら地面へと沈んでいき、石でできたような階段が地下へ伸びていく。



【巨大迷宮インフィニティ・ラビリンスに移動しますか?】


[ Yes / No ]



 目の前に現れた半透明のパネルが迷宮へと(いざな)う。

 ――周りを見ると、早くも多くのパーティが迷宮へと転移していくのが見える。



 行くか。



 迷わずYesを選択すると同時に、転移が始まる。

 石造りの暗い階段を降りていくようなムービーの後に、俺たちは洞窟内に立っていた。



【ここは巨大迷宮インフィニティ・ラビリンスの腹の中。足を踏み入れたら最後、攻略するか死ぬまで出ることはできない。支給された道具を駆使し、道を探し、宝を見つけ、出口を探せ】



 現れた半透明のパネル。読み終えると同時に消え、本格的にイベントが始まった。


 とりあえずは、さっき書いてあった通り《支給された道具》とやらを出せばいいか。


 確かにアイテムボックス内には見慣れない道具が二つ。

 一つは消費アイテムの【巨大迷宮インフィニティ・ラビリンスの地図】、もう一つが破棄交換不可の【お宝レーダー】だ。


 レーダーが重要アイテムだとして、地図が消費アイテムなのはなんでだろう? とりあえず使ってみないことにはわからないが……。


 地図を選択し使用すると、右下にあったミニマップに変化があった。


 先ほどまでミニマップは冒険の町を表示していたが、今は俺の周囲だけではあるがマッピングされた新しいフィールドを表す地図になっていた。


 ――マップ追加用のアイテムか。確かに消費アイテムならボックス内も圧迫されない。


 ともあれ、表示されるのは俺が回った場所に限るようで、とても地図と言える代物ではない気がしたが、まあいいだろう。自分の足で開拓して地図にしていくと解釈しておく。


 お宝レーダーは首にかけられるように紐が通してあったので、念のため具現化させ、かけておくことにする。



「……誰もいないとは」



 洞窟の中に、俺の声が虚しく木霊する。


 皆が皆、別々のスタート地点に飛ばされたのか、俺とダリアがいるこの小部屋のような場所に他のプレイヤーはいなかった。


 いたらいたで、即戦闘というのも考えられるから幸運といえば幸運だ。


 迷宮内部は不思議と明るく視界は良好。道幅もかなり広くとられているため、戦闘にもそこまで支障が出ないと思われる。


「とりあえず進んでみないと始まらないな」


 ダリアも新しいフィールドにワクワクしている様子で、小刻みに揺れてはしゃいでいた。



 しばらく歩いていると、ミニマップに分かれ道が現れ、視界にもその分かれ道が見て取れる。Y字路ではなくT字路的な分かれ道だ。


 ――こういうギャンブル的というか、運試しみたいな構造は得意だぞ。


 いや、得意ってなんだよと自分でも思ったものの、二択で迷った時に直感を働かせて選ぶケースは日常生活でも多い。

 右にしろ左にしろ、考えて選ぶ場合、様々な心理状態が作用するとされているため法則とかは全部無視だ。


 なんとなくで、左に行ってみることにする。


 ミニマップには一つ奥の道なども映り、所々に行き止まりも用意されていることがわかる。

 まあ、俺たちのスタート地点がそうだったように、誰かのスタート地点という可能性もあるが。


 このイベントの目的は《攻略》とあったから――ボス的な何かを倒す、もしくは最も高価な宝を見つける――このどちらかだと俺は思う。

 無いとは思うが、単純に出口がポンと設置してあるっていうパターンも想定されるが……ナンセンスすぎる。せめてボスとかを付近に配置するのが理想だと思うが……。


 ともあれ、行き止まりがハズレかと言えば否だろう。お宝レーダーというものがある以上、この迷宮のどこかにお宝があり、隠されている。

 宝箱がある場所なんて、ボス部屋、隠し部屋、行き止まりの先の三つくらいだろ。



 ――まあ、偏見だけど。




 その後、いくつかの分岐した道を考えなく歩いていると、ミニマップに初めて見る赤い点が写し出された。

 その赤い点は微妙に動いているため、宝箱の可能性は低い。が、そうなるとモンスターかプレイヤーということになるな。


 《このイベントで死ぬと一時間のペナルティが課せられる》


 宝物を探すのもイベントの内容であるため、ライバルとなるプレイヤー同士手を取り合う事は不可能だろう。

 つまり、プレイヤーと出会えば、ほぼ間違いなく戦闘になる。


 この赤い点。数は一つだけだし、進むとも引き返すともとれない動きをしているな。――まあ、だいたい予想はつくけど。


 気にせず足を進めると、視界の先にゼリー状の小さな何かが道を這っているのが見える。


 鑑定で情報を見てみるか。



【ブルースライム Lv.11】



 ファンタジーで連想する敵ランキングで一位に輝きそうな、ほとんどのRPG系ゲームでお馴染みのスライムが現れた。

 迷宮内に現れるモンスターは5〜50とあったので、こいつは比較的弱い部類のモンスターなのだろう。


 俺が剣を抜くより先に、ダリアが発動した闇矢(ダークアロー)によって貫かれたスライムは、破裂音と共に光を散らして消え去った。


 ――仕事が早いよダリアちゃん。


 ともあれ、さっきの戦闘でアイテムボックス内にはスライムの素材が入っていた。

 今の所、このゲームでスライムと出会ったのは初めてだ。もしかしたら、迷宮限定のモンスターというのもあり得る。

 となれば、紅葉さんやオルさんに喜ばれそうだな。


 そして視界の右上あたりに現れた【獲得P / 00008】というゲージだが、モンスター討伐に伴って増えるゲージなのかもしれない。

 宝物を手に入れても上がるようなら、迷宮攻略の貢献度といった所か。


 なんにせよ、まだまだ序盤も序盤、どんどん攻略を進めていこう。

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