ダリアの親
四季の楽園――湖のほとり。
俺たちは親子水入らずで大戦争イベントの慰労会を開いていた。といっても、それぞれ好きな料理を王都で買い漁ったものをただ飲み食いするだけである。
「あんまり遠くまで行くなよー」
『わかってるー!』
元気にそう言い青吉の手を引くアルデ。
木陰では部長が気持ち良さそうに寝ており、その傍で掲示板と睨めっこするベリル。
俺はというと、ボーッと座るダリアの隣で一緒になって湖を眺めていた。
〝すげー昔、竜化解放クエストの時に幻界で、多分だけど嬢ちゃんの父親に会った〟
九曜さんの言葉を思い出す。
慰労会中こそ普段通りに振る舞っていたダリアだが、あの一言を聞いて以降、時折りボーッと虚空を見つめる時間が増えているように思える。
思い返せば、ダリアは最初の頃から竜属性魔法を使いたくなさそうにしていた節もある。両親のどちらかが竜族と仮定し反りが合わなかったのかなと考えた時期もあったが、今回の件でそれが確信に変わった。
ダリアは竜と魔族のハーフ。
これは前から分かっていたこと。
九曜さんの言う竜がダリアの父親ならば、母親は魔族ということになる。ちょうどアルデの家の事情と同じ、違う種族同士で結ばれている。
『あねさま元気ないね』
いつの間にか傍まで来ていた青吉が心配そうに呟いた。俺はただ「だな」と答える。ダリアは聞こえていないのか、ひたすら湖のほとりを眺め続けていた。
『あの人の言ってたこと多分本当だよ』
唐突にそう切り出す青吉。
「え?」
そうか、青吉はダリアと同じ竜族だ。
何かの事情を知っている可能性がある。
「どうしてそう思うの?」
俺の問いに青吉は真剣な眼差しで答えた。
『初めて会った時から、あねさまには本能で逆らえないって分かったから。だから、あの人の言っていた存在はあねさまの親で合ってると思うんだ』
本能で逆らえないと分かっていた。
というのはどういう意味なんだろう。
〝ダリアのことは?〟
〝あねさま! わかる、ます!〟
海竜神様との〝名付けの儀〟の時、はじめて喋った青吉は、何故かダリアにだけ敬語を使おうとしていた。
その時点で何かを知っていたから?
『竜は序列が絶対。上の序列の竜には本能的に逆らえない。俺は海竜。序列としては上から三番目』
飛竜の巣でレベル上げをしていた時にアリスさん達もそんな説明をしてくれた。俺は黙って頷き、青吉はそのまま続ける。
『竜もどきの飛竜達は一番下、属性が扱えるようになる五色竜は四番目、属性を司る僕ら五属竜は三番目。竜種を束ねる五大竜が二番目』
つらつらと語る青吉。
あれ、五大竜が二番目?
「待って。以前アリスさん達から聞いたのはその四つの位だけだったぞ? 頂点は五大竜って……」
俺の疑問に青吉は答える。
『でも考えてみて、ダイキパパ。竜を束ねる存在が五匹もいたらきっと成り立たないよ。一匹一匹がすごく強いんだから』
戦争の時みたいにバラバラになるよ。
そう付け加えた青吉。
確かにイベントの1日目と2日目は、アリスさんが立ち上がり、ベリルの作戦があった3日目に比べるとバラバラだった。方向性を示す大きな存在――王国軍だとアリスさんの存在は重要だったんだ。
つまり……?
「つまりもう一つ上にいる?」
更に一つ上の位があるのか?
五大竜達を束ねる存在が。
『竜族の王、竜王がいる。それで、あねさまはその竜王のこどもだと思う』
竜王の子供……?
凄まじい強さを持つ青吉や、その親たる海竜神、インフィニティ・ラビリンスの奥にいた黒竜よりも上の存在。
『俺はあねさまを見た時に、五大竜よりももっとずっと上の気配を感じたんだよ。それは怖いママも感づいてた』
思い出すのは水の町での会話。
〝それは町を守るためだよお姫様〟
あの場は単なる茶化しかと思った言葉には、そういう意味が含まれていたのか。あの発言の後、ダリアがしばらく黙っていたのを覚えている。
『分かることはこのくらい。怖いママなら何かわかると思うよ』
『青吉! はやくはやくーー!』
アルデに呼ばれ青吉は湖へと戻っていった。
ダリアは相変わらず湖を見つめていた。しかし、その瞳は湖を映していない。




