戦争の終わりと
勝利した王国軍は歓喜の渦に包まれた。
2日目にして大敗を期し、3日目も途中まで厳しい状況のなか腐らずに頑張った成果だ。
軍師志望:キタアアア!!!
軍師志望:まじまじ??やばい!!
軍師志望:この作戦で勝利は気持ち良すぎる
軍師志望:でしゃばってすまんかった!
軍師志望:軍師ベリル万歳!
軍師志望:ベリルたん!!!
怒涛の勢いで流れるチャットやら周りの歓声やらで何がなにやら分からないが、ベリルの作戦を完遂させてやれたのは素直に嬉しい。
『嬉しいです。ほんと、それしか言葉が出てこないです』
喜ぶプレイヤーと兵士が入り混じる戦場跡地をボーッと眺めながら、ベリルはポツリとそう呟いた。
「良くやったよ。ベリルも、皆も良くやった」
作戦を考えたベリル、圧倒的な強さで勝利に貢献したアルデと青吉、そしてダリアも部長も能力的にも年長者としても支えてくれた。
これは後日お祝いしなきゃだな。
軍師ベリル:みんな本当にありがとう
ベリルの書き込みが続く。
軍師ベリル:誰が欠けても勝てなかった
軍師ベリル:そういうレベルでの勝利でした
軍師ベリル:私は今日という日を忘れません
軍師ベリル:みんなと戦えた時間を忘れません
軍師ベリル:最後にひとこと…
勝利へと導いた軍師の言葉を皆が注目している。ベリルはフゥと深呼吸したのち、最後の一文を入力した。
軍師ベリル:みんな大好き
その瞬間、ワァッと歓声が轟いた。
勝利の瞬間に勝るとも劣らないその歓声はおよそ数分にも及び、ベリルはその歓声を噛み締めるように、浸るように、胸を抱き目を瞑って聞いていたのだった。
驚くべきというか、戦場には帝国軍にいたプレイヤーも入り乱れており、彼等もまたイベントに満足し対戦相手に握手やフレンド登録などを交わしている姿も見られた。
これは本当の戦争ではない。
どこか胸にグッとくるものがあるな。
「無事勝てましたねお疲れ様、です」
「やはり勝利の男神である僕のチームが勝つんだよね!」
花蓮さん達やOさんも挨拶に来てくれた。
二人は最後、ナハトさんに足止めを食らっていたとのことで、その勝敗については語っていなかった。皆でひとしきり話し込んだ後、二人はまた別の方へ別れていった。
「や。お疲れ様」
「ベリルちゃんほんと天使だったよ!!!!お姉さんもスキ!!!!!そんでダリアちゃん!!!!!褒めて!!」
「やあアルデ。元気か」
続いて銀灰さん、アリスさん、ナデシコさんがやって来る。例の如くダリアはアリスさんに抱き上げられ、ナデシコさんはアルデと拳を合わせて語らっている。
「女神像防衛は中々キツくてさ。あんまりポイント稼げなくてごめんね」
「いえ、紋章の方々無くしてこの作戦は実現しませんでしたから」
「うちのマスターも〝ベリルちゃんを勝ち軍師にするんだ!〟って燃えてたし、まぁこっちには絶対防御もいたからなんとかね」
横でベリルも『ありがとうございました』とかしこまっており、俺が伝えると銀灰さんは笑顔でそれに頷いた。
「最後も本当に助かりました。全く気付かなくて……」
「やっぱり来たかって感じだったね。1日目の動きから警戒はしてたし、ダイキ君達のポイントの伸びは特にすごかったから」
「個人的にレオをブチ倒したかったしー」
と、ダリアを抱きしめながら微笑むアリスさん。そのままアリスさんが召喚獣達全員を連れ去ろうとするハプニングもありながら、紋章の三人とも別れた俺達。
時間的にもかなり遅いので、余韻もそこそこにログアウトかなと考えていた頃、そのプレイヤーはやって来た。
「いやーすっげぇ奥の手見せてもらった」
それは竜の戦士――九曜さんだった。
チームは負けたのに、この人もまた晴れやかな顔をしていた。得意げに鼻を鳴らすアルデ。
「厳密には一対一じゃなくてですね……」
「んなことはいいよ。勝負の内容に満足してるし、ああいうバチバチの試合は大好きよ」
ニカっと無邪気に笑う九曜さん。
そして何か思い出したように「そうそう」と続け、今度はダリアに視線を向けた。
「ひとつ良いこと教えとこうと思ってな。俺がなんでこの嬢ちゃんの真名解放クエストに同行したかったか、その理由なんだけどさ」
そう言いながら、片手を竜のソレに変化させながら「続けても良い?」と確認する九曜さん。しばらく悩む俺に『いいよ』と告げるダリア。
俺が頷くのを確認した九曜さんは、
言葉を選ぶようにして語り出す。
「すげー昔、竜化解放クエストの時に幻界で、多分だけど嬢ちゃんの父親に会った」
ダリアの父親? 幻界で??
竜化といえば竜人族の代名詞とも呼べる最強の技で、それ関連のクエストとなると竜絡みだと想像がつく――ならばダリアの父親は竜、ということになる。
九曜さんは続ける。
「しかも単なるNPCとは訳がちげえ。とまぁ、俺から言えるのはここまでかな。真名解放は手探りからはじまるって聞くし、一応な」
そう言いながら九曜さんは「俺も連れてってくれって約束、考え直しといてな!」などと言い残し、溶けるようにログアウトしていった。
俺はダリアを見下ろす。
ダリアは俯き、何も話さなかった。