水面下の戦い
載せるか迷いましたが、キャラを無駄にしたくなかったので書き上げました。
side――???
熾烈な陣取り合戦が佳境を迎える中、とある帝国プレイヤーがダイキを狙って歩いていた。
「だめだめ。私より可愛さで目立つのだぁめ⭐︎」
縦ロールの金髪にドレスのような衣装。
現在の名前を《xロリスx》といった。
奪った名前はこれで五つ目。
引退させたプレイヤーは数知れず。
空いていた姫の椅子に座ったプレイヤー。
ぷんすかと怒りながらもどこか楽しそうである。
「なぁにあれ。連れてる召喚獣全部が幼女、幼児、小動物って狙ったような可愛さじゃん。まずはオトモダチになってぇ、それからぁ」
思わずスキップするロリス。
周りには彼女の護衛兼親衛隊がいる。
「ろ、ロリスたん。昨日のみ、水着の写真似合ってた」
「でしょ?⭐︎ でもちょーっと攻めすぎ?」
写真に映る美少女の姿。
どうやら彼女のリアルの姿のようだ。
「待った」
不意にかけられる声。
ロリスが可愛らしく小首を傾げる。
「あれれれ? マイヤたんじゃぁん」
天使の容姿を持つ美少女がそこにいた。
日本サーバー最古にして伝説の姫プレイヤー。
嬉しそうにニィーっと微笑むロリス。
複雑そうな顔で対立するマイヤ。
「オワコン姫じゃん」
「性格悪いらしいよな」
「ロリスたんの足元にも及ばないし!」
やいのやいのと騒ぐ親衛隊。
マイヤはかつての自分を見ているようで「頭が痛いぞ」と顔を顰めた。
「私ぃ憧れてたんだよぉ? かつての貴女は輝いて見えたけどアレはだめだよアレは」
「アレって?」
「謝ってたじゃん。なんでそんなことするかなぁ」
やれやれと肩を竦めるロリス。
「謝罪は弱者のすることだよ? 弱者は叩かれて然りの時代だよぉ? 悪くても何しても自分の好きに振る舞うのが自由ってことだよぉ? コレ自由なゲームなんだからさ⭐︎」
「自由は何しても良いって意味じゃないよ」
そう言って巨大なメイスを構えるマイヤ。
ロリスはグーにした両手を口の前で合わせ、怖いなどと言いながら微笑んだ。
「もっとさぁ平和的にしようよ。いくら倒されようが私は辞めないけどねぇ。それに、相手を辞めさせるのに暴力はいらないんだよ?」
5日以内にアイツ引退させるね⭐︎
と、ダイキを指さすロリス。
事実、ロリスに粘着されたプレイヤーのほとんどが1週間以内にゲームにログインしてこなくなっている。
プチンと、マイヤの中で何かが切れた。
「久々にスイッチいれるか……」
マイヤがボソッと呟く。
顔を上げた彼女の瞳の奥には、ハートのエフェクトが光っていた。
「何人もの楽しいゲーム人生を奪ってきた人に容赦はいらないよネ」
そう言いながら何かの画面を見せるマイヤ。
それは誰かのブログ記事だった。
ロリスはプププと笑いを堪える。
「私のブログじゃん。バッチリ読者じゃん⭐︎」
そこには現役女子大生ことロリスの日々の写真が掲載されており、可愛らしい女性の写真が多く載っていた。
「これがアナタだっケ?」
「知ってて読んでたくせにぃ⭐︎」
「そっカ」
ロリスは不思議そうに首を傾げる。
しばらく沈黙するマイヤ。
そして再び話し始める。
「今画像検索技術って進んでてネ。上から加工してようが向きを変えてようガ、少し頑張れば元の写真って見つかるんダ」
次にメッセージのやり取りの画面を開く。
何も話さないロリス。
「アナタが使ってた画像の子に聞いてみたけド、ゲームすらやったことない子だったヨ。アナタの情報全部違うんだけド?」
そこには元画像の本人と思しきアカウントとのやりとりが載せられており、本人はゲームの存在も住む場所も違う高校生だと書かれている。
やりとりは「悪用されている可能性があるため、このアカウントは削除する」という一文を最後に締め括られていた。
しばらく沈黙していたロリスが口を開く。
「……好きなのは嬉しいけど、そこまで言い掛かりつけるのはただただ不快だにゃー⭐︎」
「まぁシラを切るよネ。でも周りの信者さん達はどう思ってるカナ?」
親衛隊の半分はマイヤのでっち上げだと怒っているが、もう半分は疑心暗鬼になり、ロリスの方を見つめている。
「(もう一押しカナ)」
マイヤはもう一枚の写真を見せる。
それはスイーツの映るカフェでの一枚。
置かれたスプーンに小さく人が映っている。
それを拡大、解像度が徐々に上がってゆく。
「このオジサンだーれダ?」
悪戯な笑みを浮かべるマイヤ――そこには携帯片手に写真を撮る男性の姿が映っていた。
ロリスは微笑みを崩さない。
しかしその心境は荒れに荒れていた。
「(はぁ? なんでそこまで調べ上げてんだ? 探偵でも雇ってんのか? いやでも悪用元のアカウントが消えたらもうロリスとしてブログで振る舞えない。いや似てる女なら探せばいる……? それより開き直って〝そういうロールだから〟で押し通す方が後々楽か……?)」
ロリス――本名 木崎エルゴ 46歳男性
アカウントが凍結されてもブログの美女に群がる信者に貢がせれば問題なかった。悪用だとバレるのが一番困るのである。
自分は男性でそういうロールプレイだから。
大きな賭けに出ようとするエルゴの逃げ道さえ、マイヤは徹底して潰してゆく。
「女の子のキャラを使うのはいいヨ。女の子みたいに立ち振る舞うのも〝自由〟だもんネ。でもアナタが他の人の写真を悪用して、さらには罪のないプレイヤーを何人も引退させてるオッサンってことがバレちゃったわけだけド?」
ロリスは「ぐむぅ」と口をつぐむ。
彼のその反応こそが答えだった。
「きっしょ」
親衛隊の一人が呟いた。
彼等は悪用された女性の皮を被った男に貢ぎ、彼の気分で決めたプレイヤーの引退にも加担した。全ての悪事が暴かれた今、彼を好きな者などいなくなっていた。
フッと消えるロリス。
この空気に耐えかねログアウトしたのだ。
そしてこの日以降、ロリスというプレイヤーが再びログインすることはなかったという。
「あー、胃が痛イ」
と、お腹をさするマイヤ。
同族嫌悪で調べていた情報がここにきて役立ったななどと考えながら、最前線で奮闘するダイキ達を見つめる。
「がんばれよ、お人好し」
そう呟くと、マイヤは踵を返し再び戦場へと戻っていった。