大戦争イベント最終日⑥
戦場で黒の靄と黄金の光が拮抗する。
俺達の前に立つナルハとマリーの登場に、王国側のボルテージが高まってゆく。
帝国側のパワーアップに連動して王国側も助っ人登場とは粋な演出してくれるじゃないか。
「ナルハ、マリー。来てくれたの――」
「僕の力を皆さんにも!!」
ナルハはまるで俺達の事など見えていないかのように、剣を掲げて声高らかにそう言った。それに連動し王国兵達が雄叫びを挙げ、帝国兵達にぶつかってゆく。同じようにマリーも俺達には気付く素振りも見せぬまま敵兵の群れに駆けていった。
「二人はイベント進行役のみってことか!」
その姿を嬉しそうに見つめるOさん。
確かに二人がいちいちプレイヤーに反応してたらキリがないし、少し寂しいが腑に落ちる。
「でもこれは嬉しい、誤算ですね。ステータスもかなり上がってます。王国兵達もこの光の中なら120%の力が出せるようですね」
善戦する王国兵達に混ざり、ヘルヴォルが本来の一騎当千の動きに戻っている。帝国側のパワーアップはナルハの力で±0になったと考えていい。
帝国兵士が前面に出てる今なら――
「青吉。いけるか?」
『まかせて』
完全蜃気楼
ダリアは赤・部長は黄・アルデは緑・ベリルは白の魔石となり、青吉の中へと入っていく。
大人の姿になった青吉は、前髪を乱暴にかき上げながら帝国兵士達をボーッと見つめた。
パンッ! と、両手を前で突き合わせる。
『海竜侵攻』
青吉を中心とした地面が深い蒼に染まり、そこから水の竜が天高く伸びてゆく――竜は敵陣の真ん中へと飛び込むと、まるで水に潜ったようにしてスルンと消える。
一瞬の静寂――そしてそれは起こった。
ドンッ!! という激しい音と共に巨大な竜が地面から飛び出した! 竜は多くの帝国兵と帝国プレイヤーを巻き込む形で空へと飛び上がり、大量の雨を降らせて雲に溶けていった。
目に見えてポイントが入る。
今ので何人倒した?
『どんどん行こう』
振り返る青吉が不敵な笑みを浮かべていた。
◇ ◇ ◇
side――レオ
状況はすこぶる悪い。
各地から敗北の知らせが届いている。
女神像を獲られたのが響いている。
相手の軍師に一本取られたのが原因だ。
あまりにも大胆な作戦。それでいて、作戦を悟らせないためにあえて捨てた前半戦を見るに、豪快さと我慢強さを併せ持つ曲者といったところか。
「一見無茶な作戦を形にした団結力も素晴らしい」
1日目2日目と王国軍には見られなかった統率力がここにきて集約されている。おおかた紋章のマスター辺りが鼓舞したのだろうが、よくぞ腐らず立て直せたものだ。
「逆転の手立てはあるんですか!?」
煩いぞ。
浸らせてくれ、この作品に。
敵軍師が描き切ったこの作品に。
「そうも言ってられんか……」
「何を言ってるんですか?」
「いやいい。レベルの低い奴等が守る像を狙う。執拗に粘着して倒す様を見せる。カバーに来る奴等の綻びを突いて中央へ」
「わかりました!」
伝令が作戦を掲示板に書き込む。
さぁ見せてくれ、次はどんな動きをしてくれるんだ。
「報告!」
「なんだ?」
「敵が早々に撤退していきます!」
PvPにおいて「相手を粘着し殺し続ける」のは基本中の基本。特に初心者は昂った感情そのままに動くためコントロールしやすい。
しやすいのだが……
「空いたのは近距離攻撃全般、弓強化、支援系か」
撤退があまりにも素直すぎる。
最初から決めていたとしか思えない。
となると、ごく限られた像にしかまともな駒を配置してないということになる。奴らが守るのは盾役強化・回復強化・召喚強化と女神像のみ、か。
最前線で暴れるあの召喚士達すら囮で、女神像奪取後はただただ守りを固めるのが相手の狙い。
大きく囲ってから潰す大胆な攻め。
その後女神像の死守だけを目的にした我慢強さ。
清々しいほどに割り切った作戦だ。
こちらが小細工すれはするほど、単にこちらの時間が少なくなるだけ。女神像一点特攻の時に攻めきれなかった時点で負けていたのかもしれない。
まあいいさ。
勝ち負けは副産物でしかない。
「一矢報いてくるか」
狙う首はただ一つ。