大戦争イベント最終日④
side――王国軍、ダイキ
残り40分の段階で、ベリルの作戦は概ね上手くいっていた。いや、上手く行きすぎていて、このあと一波乱ありそうな気がする。
俺たちは最初の二時間を、今まで通り作戦らしい作戦もなく戦い続け、帝国とのポイントの差を埋めながら〝女神像を死守する〟ことを唯一の作戦であるかのように動いていた。
女神像周辺には銀灰さんを始め、ナデシコさんやマイヤさん、そしてアリスさんなど紋章最強戦力が陣取って応戦してくれていた――そして女神像周辺にメンツが揃えば揃うほど、俺たちの本来の作戦が進めやすくなる。
『女神像を守ると見せかけて外周から内へ内へと追い詰める作戦、上出来ですね』
横に立つベリルが得意げに鼻を鳴らす。
「長いけどな、作戦名」
俺たちの目の前には巨大な黒い要塞が鎮座しており、これも作戦の一つであるため、俺たちはこの場で待機を続けた。
「外周から攻める際に反撃で崩される可能性はないんですか?」
横に立つ花蓮さんがベリルにそう尋ねた。
花蓮さんの後ろには召喚獣達がズラリと並んでおり、改めて見ても凄い迫力だと感じる。
『そのためのタンクとヒーラーの三点占拠バフの維持です。外側から攻めてくる人々は先頭にタンクを置き、抱き合わせにヒーラーを置いてます。バフの効果でタンクはより硬く、ヒーラーのお陰で滅多に死にません。そして拠点維持には戦闘に不安が残る初心者さん達が残るため、戦力を維持したまま内側へと攻め続けられます』
無人となった像には初心者を置いて拠点を確保しつつ、タンクを筆頭に休まず女神像まで同時進軍するのが今回の作戦の目玉のひとつ。
中央に固まりすぎた敵戦力を360°から押しつぶす――ただそれだけのシンプルな作戦だが、ハマってしまえばこちらのものだ。
拠点が増えればバフが付く。
勢いに乗ればもう止められない。
「僕らがここに配属されたのも意味があるんだろうねッ? 僕に相応しい役回りなんだろうねッ?」
杖を地面に刺したのはOさん。
またもや派手なアバターに変わっているが、声質と雰囲気は変わらない。
『大いにあります。そろそろ準備が――』
軍師志望:ウェアレス像三点占拠完了
全体チャットが流れるや否や、ほくそ笑むベリルは小さく頷いた。
『ここは帝国領に最も近い拠点です。何故この場所に皆さんに集まってもらったかというと、ここを死守する事で全ての拠点が守られるからです。早い話が、一人も通さずこの場所を守れば完封勝利できます』
俺がOさんに通訳のようにしてそれを伝えると、Oさんは目を輝かせる。
帝国領地から大勢の帝国プレイヤーが湧き出るように現れており、それを見るなりOさんは嬉々として魔法陣を描いた。
「僕らが攻撃と守りの要だなんて燃えるじゃないかッ! ならばこの場所、最高の舞台に彩ろうじゃないか!」
巨大な魔法陣が地面に完成すると、俺たちの体が淡く発光しはじめる――Oさんは杖を掲げた。
「これは範囲攻撃強化の魔法陣だッ! 限定一撃のみだが、それはもう凄く強化されるッ! 最初の攻撃は君達に譲ってあげよう!」
花蓮さんに目配せし、互いに頷く。
花蓮さんはヘルヴォルと武器を重ねて溜めの姿勢に入り、俺は子供達を見下ろした。
「アルデ。皆、頼んだぞ」
『任せて!』
力強く頷くアルデをひと撫でしたのち、ベリルと部長から青吉へとバフを集め、青吉の拡散強化のスキルで全員が同じ効果を共有――そして完全蜃気楼によってアルデの体に4つの宝石が吸い込まれてゆくと、そこには大人の美女となったアルデが降り立った。
アルデは腰に下げた剣を抜いた。
俺は彼女の背中に掌を向ける形で溜めの姿勢を取り、それがトリガーとなって、アルデの刀に黒炎が灯る。
「『主神の鉄槌』」
花蓮さんとヘルヴォルから放たれた巨大な光の柱は、前方にいた帝国プレイヤー及び帝国兵士を消し去った――そしてそれと同時に、アルデの固有技も発動した。
『巨人の煌劍』
ボッと、アルデの全身に黒い炎が広がった刹那、雷の如き速さで、黒色の尾を引きながら敵陣地へと一瞬にして移動し――彼女を起点として風車型に放たれた鋭い斬撃が地面を穿ち、巨大な炎の柱が伸びた。
真名解放を済ませた召喚獣二体による固有技によって、帝国プレイヤー達は一網打尽となった。
軍師志望:女神像奪還成功!
軍師志望:今の一瞬でポイントめちゃ増えた
軍師志望:召喚士やばすぎww
軍師志望:残り8分!いけるぞ!!
俺とOさんと花蓮さんの仕事は、最前線拠点での敵の足止め――残り時間8分、死ぬ気で守り切る!