大戦争イベント最終日②
短めですが、キリがいいので
軍師ベリル:これから簡潔に作戦を述べます
軍師ベリル:役割に沿って参加・行動してほしいです
軍師ベリル:大勢の方に参加してもらえると、それだけ作戦の成功率が上がります
つらつらと流れるベリルのチャット。
普段から掲示板に常駐していた彼女のタイピング速度は凄まじく、その姿を見た王国軍プレイヤー達のどよめきは更に増す。
「ガチで召喚獣がチャット打ってる……」
「あの子お人形さんみたいで可愛い」
「打つの鬼速い」
「こんだけ賢い召喚獣ならお飾り軍師ってわけでもなさそう」
「敵兵士も同じ機械だからAIの裏突けるとか?」
勝手にベリルの出来ることに尾鰭がついているが、彼女に注目してもらうことが重要な今、黙っていた方が吉だろう。
軍師志望:その作戦だと後半厳しいぞ
軍師ベリル:決行時間は残り30分辺りです
軍師志望:リスクの方が高くないか?
軍師ベリル:リターンの期待値は高いです
軍師志望:要の部分どうするの?
軍師ベリル:紋章の方々が適任だと思います
全体チャットでは他の軍師プレイヤーから様々な質問・指摘が飛んできているが、ベリルは素早く的確にそれに答えてゆく。
伝えられた作戦は単純かつ大胆。
皆が作戦とその本質を理解するのに少しの時間があれば足りたし、内容自体も難しくはなかった。作戦参加率さえ上がれば、十分に機能すると予想できる。
ここまでは想定通り――
でも、もう一押し、追い風が欲しい。
簡潔かつ的確な内容で、王国軍プレイヤー全体に作戦自体は伝わったとみていいだろう……しかし、未だ遺恨を残している、アリスさんの前でダンマリを決めたプレイヤー達や納得のいかない軍師志望プレイヤー達がどう出るか、だな。
軍師ベリル:後半30分のための前半2時間半とまで言えます。ここでできれば逆転もしたいです
軍師志望:了解。前半はそれでいこう
軍師志望:マスターの横どう?
軍師ベリル:私のための場所だと確信してます
カタカタカタッ……!
軽快に文字盤を叩いていたベリルの動きが止まる――と同時に、各場所から歓声や雄叫びにも似た声が湧き上がった。
「名無し召喚獣ちゃんキタ!!」
「分かってたけど完全にバレたな」
「うおおおお勝たせるぞ!!!」
「異論大アリだったけど無くなったわ」
「他の軍師沈黙で草」
「なによりも士気上がってるやん」
先程までは荒らすようなコメントも多く見られた全体チャットも、ベリルの動きが止まったと同時に急に統率が取れ始めていた。
あの一瞬で何かあったのか――?
「おいベリル……」
『作戦決行する自信が失せました』
「え? こんなに士気上がってるのに!」
『違うんです、つい、はぁ……』
赤面して俯くベリル。
なにやら本人は意気消沈している様子だが、この不思議な追い風によって王国軍プレイヤーの団結力が徐々に固まっていくのを感じた。
ベリルは最後の力を振り絞るように、両手の人差し指を使って、ポチポチと力なく文字盤を叩く。
軍師ベリル:今日1日を私にください
待機場が歓声で大きく揺れた。
同時に、残り時間のカウントダウンが終わり、王国軍は最高まで高まった士気を提げて戦場へと駆け出したのだった。