大戦争イベント③
王宮内の演習場らしき場所に、恐らく数万規模のプレイヤーが集まっていた。俺はすぐに子供達を確認し、部長含め全員が一緒に転移したことでひとまず安堵した。
花蓮さんの姿は無い。
転移場所の座標はランダムらしい。
周りにはケンヤやトルダの姿も無い。
流石にこの人数の中から知り合いを探す方が無謀といった所か――。
「よくぞ集まった、王都の有望な騎士達!」
びりびりと会場内が震えるほどの大声量でもって、上から見下ろす形で王様が激励の言葉を語り出す。
そこからはイベントの概要説明だった。
分かりやすくまとめると、
①指定の時間に指定の場所で指定の装備を着けていた者だけが特設サーバーに飛ばされる。特設サーバーは帝国(を模したエリア)と王都(を模したエリア)の二ヶ所と残りは荒野であり、防具にもグラフィックを割かない分動きがより正確に素早くなる。
両国合わせて何万人が参加するかも分からないこのイベント。特に繊細な動きを必要とする技繋ぎなどは、一瞬のラグでも命取りといえる。
つまり今、各国のFrontier Worldサーバーが二つずつ存在していることになる。参加しないプレイヤーも、閑散とした王都を歩けるという新鮮な体験ができるだろう。
②プレイヤーは自由に動けるが互いの国の兵士(100万人)が0となるか、制限時間となるかでその日の戦争が終わる。制限時間は3時間、途中で退出を選んだ人はその時点でその日は完了扱いとなり、3日間の最終的な勝敗によって報酬が変化する。
勝てば多く、負ければ少ない。
単純明快なイベントだ。
③ 死んだものは蘇生を受けるか、2回まで使える蘇生権利を使えばポイントの10%を奪われるだけで済むが〝開始地点に戻る・あるいは60秒間蘇生されずに強制送還となると、50%のポイントが奪われる〟。倒した者は蓄積ダメージの比率がそのままポイントに反映されるため横取りの心配がなく同じ味方同士での争いは起こりにくい。
④蘇生を施すにはリスクもあるが死んだ者が失効したうちの5%分と同じだけのポイントが得られる。回復魔法や強化弱体化も加点の対象となるため、あらゆる職業が活躍できる。しかし耐久値の低い職業はそれだけ狙われるリスクが高いため、単騎で動くのは得策ではない。
これが個人のポイント稼ぎのキモの部分。
基本的には敵国のNPCを倒して減らすイベントであるが、敵国のプレイヤーを倒せばより多くのポイントを奪うことができる。
強く目立つ立ち回りのプレイヤーは、それだけポイントを孕んでいると同義。だから狙われ易くなる――花蓮さんが危惧している事がこれに繋がるわけだ。
⑤フィールドには〝中立〟と〝帝国側〟と〝王国側〟の三種類の拠点がある。フィールド上に存在する石像が目印で、一定時間その石像の近くにいるとそこが自軍の陣地となる。自軍の陣地になると、そこをリスポーン地点として設定したり(その後陣地が取られた場合、復活は初期地点に変更される)陣地に応じて全体強化が付与されたり(自軍の物理攻撃力5%上昇など)回数の制限はあるが拠点間での転移が可能となったりと、石像によってボーナスが変わる。
⑥拠点を占領するには時間を要するが、拠点に入った味方が多ければ多いほど早く占領できる。しかし、敵の兵士が一人でも陣地内にいた場合は占領ゲージは動かなくなる。陣地内にいる兵士は帝国が黄色、王国が青に光るため占領のために排除する必要がある。
このイベントの攻略方法がこれだ。
名目上は戦争とあるが、要するに〝陣取り合戦〟ということになる。
プレイヤー達はこの〝石像〟を自軍の拠点に変えながら敵プレイヤー達を撃破していくのが今回のイベントの全容ということだ。
さらに陣地の数に応じてポイントにもボーナスが付き自軍の兵士が強化される(これは自軍が押しているから士気が高まっているという意味が含まれるらしい)ため、陣地の拡大とその維持は重要となってくる(陣地の守りはタンクとヒーラー必須)。
エリアの簡単な見取り図は――。
こんな感じになっている。
自国から少し離れた所から転々と石像が設置されていて、その中央に巨大な女神像がある――といったフィールドだ。
当然、フィールドは荒野であるため遮蔽物は無いが、この石像群を駆使すれば射線切りなどは可能だと考えられる。
⑦女神の像は集計時に全体獲得ポイントを10%上昇させる効果がある。ポイントで競って時間切れとなった場合、この女神の像を占領していたかどうかは勝敗に大きく関わってくるため重要。
最終的にこの中央の女神像をどちらが拠点にできているかが、集計に大きな影響を及ぼすのだろう。故に中央ほど終盤は激戦区になるとも考えられる。
⑧イベント中はギルドやフレンドといった括りは全て〝王国軍〟と〝帝国軍〟に統一され、軍の全体チャットが適用される。ギルド・フレンドチャットも可能だがそのイベントフィールド内にかぎり、掲示板へのアクセスや王国軍の者が帝国にチャットを送るなどの行為はできない。
この辺はあって無いようなものだが、まぁ純粋に戦略戦を楽しみましょうということなんだろう。
「――以上が、帝国との戦争に関する情報だ! 我が国が帝国に墜ちれば、全ての民も攻撃の対象となるだろう。王都が墜ちれば、他の町も同様に滅ぶことになる。なんとしても帝国を止めなければならない。皆、どうか力を貸してくれ!!」
王の檄で、NPC達が剣を掲げた。
怒号にも似た割れんばかりの歓声。
空気に飲まれ沸き立つプレイヤー達。
真後ろにそびえる巨大な門が音を立てて開いてゆくと、その先に広がる一面の荒野と、遠くに見える石像群――そして帝国。
皆が一斉に門から飛び出すと、門から先数十メートルの所で青色の光がプレイヤー達を阻んだ。それは恐らく、イベント開始時に消える柵のようなものだと判断できる。
『戦争開始まで残り10秒。9、8……』
いよいよだ――。
空気に飲まれ、僅かに震える手。
『作戦通りいきましょう』
『うん、よろしく』
『頑張っておきるぞー』
『ぶっ飛ばすぞー!』
『全員倒す』
ベリルの声に皆がやる気満々で答える。
子供達のやり取りを見て緊張が解れ、
俺は剣と盾を構えて眼前を見据えた。
混戦になった時、きっとベリルだけでは戦況を把握しきれない。俺も一緒になって作戦を練って動く必要がある。
子供達がやられても、霊峰の時みたく動揺するな。落ち着いて再召喚して立て直すんだ――。
『全軍、突撃――!』
適当すぎる見取り図ですみません