大戦争イベント②
常にプレイヤーで賑わう王都は、いつもと違った賑わいを見せていた。
トーナメント以来久々の運営イベントというのもあるが、プレイヤーのほぼ全員が、王宮騎士の鎧を身に着けているのも大きな要因となっているのだろう。
「はぐれないようにね」
『はーい』
全員が元気よくそう答える。
かく言う俺達も(部長以外の)全員が王宮騎士装備に着替えており、イベントを待ちわびるプレイヤー達に溶け込んでいる。
装備を着けていないからといって、召喚獣がイベントに参加できないような仕様は無いと願いたい――が、開始直前に頼み込んで一瞬だけでも着てもらおうと思う。
「あ、奇遇ですね」
「! ダイキサン」
「あれ、なんで片言なんですか……?」
ばったり遭遇したのは花蓮さんだった。
花蓮さんは口の物を急いで飲み込んだ。
両手にたこ焼きと鯛焼きを持っていた。
大きな鯛焼きに跨るようにして飛ぶ妖精が嬉しそうに手を振った。
「満喫中の所すみません」
「全然満喫なんてしてません」
「(両手に食べ物持ってるのになぁ)」
『食べたい』
『甘い物! 甘い物!』
『魚……!』
主にダリアとアルデと青吉が食べ物に反応し、ソワソワしている。花蓮さんは微笑みながらダリアにたこ焼きを、アルデと青吉に鯛焼きをそれぞれ持たせてくれた。
感謝の言葉を伝え夢中で貪る三人。
部長はいつものように寝ている。
ベリルは若干の人見知りを発動させている。
「ちゃんと自己紹介してませんでしたね私は花蓮、です。ダイキさんとは召喚士仲間として良いお付き合いをさせていただいてます」
しゃがみながら自己紹介する花蓮さん。
俺の足元でじぃと見上げるベリル。
『主様のこと好きなんですか?』
「――へ?」
睨むようにしてそう尋ねるベリル。
突然のことに花蓮さんが素っ頓狂な声を出す。
俺は慌ててその場を取り繕う。
「同じ召喚士仲間として好きってことだぞ?」
『ふーんそうなんですか』
「なんでちょっと怒ってるんだ?」
『オコッテマセンヨ』
どうやら今日はご機嫌斜めらしい。
後で花蓮さんがたこ焼き等をどこで買ったのか聞いて寄ったら機嫌も治るだろう。
「すみませんね、年頃なものでして」
「い、いえ」
「おいマセガキぃ! おめえうちの花蓮ちゃんに何メラメラ対抗心燃やしてんだ? あぁん?」
「うちの花蓮ちゃんの愛なめんじゃねえぞ? 自宅のポスターまみれの部屋ぶッ――!!」
いつもの調子で絡んでくる風神雷神は鎧を着た美女によって粉砕され、そのまま動かなくなった。機械の巨人がそれを回収する。
『ベリル気にしないでね』
ベリルによしよしをするダリア。
その光景がたまらなく可愛くて思わず見惚れる俺。
「ダイキさん達もこっち側で安心しました途中から変更もできる仕様でした、ので」
「今の所帝国に行くメリットというか、よく知らないのでそのまま王都側にしました。花蓮さんがこっち側なら心強いです」
そのまま駄弁る俺達。
ふと、花蓮さんがアルデの姿を見て尋ねる。
「あれ、アルデちゃん――真名解放ですか?」
姿が変わったアルデを見て即座に真名解放にたどり着くとは流石に鋭い。アルデは聞こえてないようで、青吉に鯛焼きを分けてもらっているのが見える。
「はい、つい先日。うちで初めての真名解放でしたよ」
「そうですか。恐らくダイキさんも結構悩まれたと思いますので心中お察しいたし、ます」
「そうですね、結構心にくるものがありました」
〝真名解放クエストは途方もなく掛かる時間もそうですがそれ以上に――――いえ、これは私が言うべき事ではないのかもしれませんがどうか答えはよく考えて、です〟
トーナメントの時に花蓮さんから初めて〝真名解放〟について話を聞いた時、彼女は俺にこうアドバイスしてくれていた。俺はこのアドバイスがあったから、よく考えて覚悟を決め挑むことができた。
「花蓮さんのお陰で、アルデとの絆が一層深まった気がします。ありがとうございました」
頭を下げる俺に花蓮さんは微笑んだ。
『5分後の18:00より、王宮にて王から戦争前の激励の言葉があります。イベント参加希望のプレイヤーは〝王宮騎士の鎧〟を身に着けた状態でその場に待機してくださいますようよろしくお願いします。5分後に一斉転移を開始します。尚、王宮騎士の鎧を持っていないプレイヤーは、王宮前の番兵に――』
イベントのアナウンスが流れると、周りにいたプレイヤー達が一気に湧き立つ。かく言う俺も楽しみにしていた側なので、年甲斐もなく高鳴る心臓の鼓動を感じながら転移に備えた。
「イベント前に一つ」
同じように転移を待つ花蓮さんが言う。
彼女の表情は、真剣なものへと変わっていた。
「真名解放を済ませたということは固有の技を会得した、ということ。多人数に対して無双できる力というのは強力さと比例するように〝目立ちます〟。ですから特にダイキさんの場合は連発は禁物、です」
転移が始まるのか、足の部分がモザイクのようにしてポリゴンの塊となってゆく花蓮さんに、俺は力強く頷いた。
目立つということは、この子達が集中的に狙われるということ。だからアルデの固有技は特に場面を選んで使う必要がある――ということだ。
「皆、がんばろうな」
全員がそれに頷くと同時に、一斉転移が始まる。光に包まれるように視界が明転し、ほどなくして暗転、俺達は王宮の中に降り立った。