大戦争イベント①
あと二話ほど説明回が続きます
昼休みの屋上――
「なーんか、スッキリした顔してんな」
ニヤニヤしながら肩で突く謙也。
「俺そんなに顔に出てるかなぁ。成田部長にもすぐ見透かされるんだけど」
頬を揉みながらそう尋ねる俺に、椿も似たような笑みを浮かべながら答える。
「普段が仏頂面だから余計にね」
「ひっでえの」
盛大に笑う二人。
謙也が続ける。
「まぁ成田部長は大樹の親みたいなもんだし、その辺は俺達よりも敏感なんだと思うぞ。そういう存在って貴重だよ」
成田部長と俺の関係は、ゲーム内でのダリア達と俺の関係に良く似ている。だから部長の立場になって考えると、俺に対して色々気遣ってくれているのがよくわかる。
謙也の言葉に、俺は無言で頷いた。
謙也は笑顔で煙草に火を付けた。
「ま、大樹の話は置いといて、いよいよ今日から始まる〝大規模PvPイベント〟について話したかったんだよ!」
「そんなこととはご挨拶だな」
まあまあと謙也。
俺と椿は聞く姿勢になる。
「イベントは明日から2日おきに開催されて、時間は19〜22時の3時間。その間ならいつでも参加・退出自由ってのがスケジュールな。そんで参加条件は〝王宮騎士の鎧を着て王都にいる〟か〝帝国兵士の服を着て帝国にいる〟のどっちか。初日は18時から2つの国で事前説明を兼ねたイベントもあるらしい」
謙也はイベント概要をつらつらと語った。
「詳しいな」
「初心者支援ギルドのマスターなめんな?」
その微笑みにはどこか暗いものを感じたが、恐らく何十回と説明して暗記したであろうことが読み取れる。これも初心者支援ギルドの宿命、か。
謙也は二本の指を立てる。
「まぁ今回のイベントはあまたのギルド&有名人が参加予定っぽいけど、大きく〝紋章ギルド〟と〝狩人ギルド〟の頂上決戦とか言われてるな。実際この二つのギルドの誰かがイベント中の〝軍師〟をやるんだろうな」
「軍師?」
「要するに、勝つための作戦を練って伝える司令塔だな。今回は大規模なプレイヤー対プレイヤーのイベントで、一見して自由な大乱闘みたいな印象を受けるけど、多分個人プレーじゃ勝てない。戦争と同じで作戦と何手先もの戦局を見通す頭も必要だろうな」
まぁ紋章はアリスかな?
などと言いながら、煙草を咥える謙也。
俺は難しそうに腕を組む椿に気付く。
「椿は王国側なの?」
「うん。私は紋章ギルド所属だし」
「え? 椿紋章ギルド入ったの?」
驚いて聞き返す俺に、椿は目を伏せ、大きくため息を吐いた。
「あのねえ……チビちゃん達以外のことに関心なさすぎじゃない? 私、元々は大樹と謙也と遊びたいからこれ買ったのにさ、ふたり共やりがい見つけて没頭してるから私放置じゃん」
「すみません」「すみません」
俺と謙也が同時に頭を下げる。
それを見て面白そうに笑う椿。
「うそうそ。私もなんだかんだやりたい事たくさん見つけたし、それやってる最中に色々誘われても断るだろうなぁと思う……紋章に入ったのも深い事情があっただけだし」
椿が紋章に加入したなんて本当に初耳だ――とはいえ彼女の言うように、俺は召喚獣のことばかりで、今日のイベントについても深く調べたりもしていない。
折角ベリルを軸にシミュレーションを重ねたんだ、単純に楽しむんじゃなく、しっかり勝ちにいけるように気持ちを入れ替えねば。
「深い事情って?」
興味深そうに尋ねる謙也。
「変なあだ名で呼ばれるようになって、フレンド申請とか話しかけてくる人増えたから保護して貰おうと思って」
「なんて呼ばれてんの?」
「……貴公子」
「ふぁ!!」
大笑いする謙也に蹴りを入れる椿。
またなんとも椿に似合うあだ名だこと――。
「謙也の新人教育はどう? そこまでイベント概要熟知してるってことは、このイベントにも参加するってことだろ?」
「んあ、そうだね。ライラとクリンなんかめちゃめちゃ張り切ってたぞ。これ王国側と帝国側とで全体のポイントとかもあるけど、個人のポイントもあるからさ、それ競争だーつって」
謙也達のギルドも新規のプレイヤーが増えてどんどん大きくなってるからなぁ。設立メンバーだけで活動してた頃が懐かしいな。
召喚士のプレイヤーもかなり所属していたはずだし、イベント終わった後とかに顔を出して真名解放や魔王術について色々教えてもいいかもしれないな――昔、花蓮さんが俺と港さんにしてくれたように。
「大樹は最近なにしてたんだ?」
「ん? 俺はアルデの両親に会ってた」
「一人だけなんかやってること違う……」
不敵な笑みを浮かべる俺に「なんか笑ってるんですけど……」と気味悪がる二人。
と、思うだろうが、召喚士にとって両親に会うイベントがどれほどパワーアップに繋がるのか――イベントの結果で教えてやろうじゃないか。