魔王術 強欲
※アルデが父親を呼ぶ時の名称をお父様→父上に変更
未実装のラスボス達が仲間になりました。が、書籍化決定しました
家を出ると、住人達が大きな円を作るようにして集まっていた。その中心には、どこから持ってきたのか、使い込まれた鎧と骨のお面を被るデモンさんの姿があった。
「おう。なんだ、来たか」
アルデに拒絶された後のセリフを呟くデモンさん。
しかし今回は、どこか嬉しそうな声色に聞こえた。
デモンさんはお面を指差し語り出す。
「これは魔族を模したお面だ。洞窟の先にある雪の町の住人は多くが獣人族だが、禁忌を侵した者達の中にも獣人族は多くいた。同じ種族だと思われたくないから――そんな理由で、外に出る時俺達はこれを被るんだ」
デモンさんが大剣を構えた。
巨人族が扱う大剣は、普通の人間には取り扱えないほど太く、長く、そして重い。
デモンさんの前までやってきたアルデも、同じようにして刀を構えた――親子だからか、その構えは寸分違わず同じだった。
「まず魔王術をモノにさせる。それからお前の真の名前を教える――真の名前を知ったお前は母親のおまじないが解け、本来の種族に戻るだろう。その時に魔王術を制御できていなければその欲求は更に強くなる……だから先に魔王術の制御をする必要があるんだ」
デモンさんは、真名解放に来た俺達に〝魔王術の制御〟を優先させた理由を語った。
思えば不思議だったんだ――。
ベリルの機人族が進化しない理由は、人工的に造られたという設定があるから。
青吉が進化しない理由は、以前王宮騎士の召喚士であるフレイルさんが語っていたように、完成された種族という設定があるから。
部長は魔王術発現と共に種族が変更された――しかし、進化レベルに達しても、魔王術を発現しても、アルデの種族名と姿形は〝小人族〟のまま固定だった。
そういう種族と言われればそれまでだが、フレイルさんはアルデに関して何も言っていなかったことも引っかかっていた。
アルデの母親は魔族だった。
姿を変えて小人族になっていた。
本当の種族ではないから、進化も姿の変化も起こらなかったのだとしたら――まじないが解けたアルデの種族は、小人族ではなく〝魔族〟なのだろう。
「真の名を得たお前は色々変わるだろうが、魔王術を制御できたなら、きっと適応できるだろう――さて、そろそろはじめようか」
語り終えたデモンさんがアルデとの距離を一気に詰めた。振り下ろされた巨大な剣を刀の腹で受け、地面に体をめり込ませるアルデ。
『なんのっ!』
体格差を物ともせず弾き返すアルデ。
バランスを崩したデモンさんに追撃する。
しかしそれは巨人族の間合いであり、小さいアルデの足では数十歩駆けても縮まらない距離がある――その間にデモンさんは体勢を立て直すと、横薙ぎの要領で大剣を斬り払った。
再び刀の腹で受けたアルデは吹き飛ばされ、民家の中へとはじき飛ばされた。
デモンさんが叫ぶ!
「お前には高貴な魔族の血と、屈強な巨人の血が流れている!! 力比べで負けるな!! 刀の力を使いこなせ!! 欲望を解き放て!!」
崩れた民家で黒の靄が爆発する。
瓦礫の中から現れたのは、背中に自らが所持する武器全てを円のようにして浮かせた、骨の鎧に身を包むアルデであった。
海竜神様の時に見せた、強欲の魔王術が発動したアルデの姿――制御は? できたのか?
『倒す。倒す。倒す。奪う。奪う』
呪文のようにそう呟くアルデ。
デモンさんの表情が曇ってゆく。
黒い靄を纏いながら弾けるようにその場から飛び出すアルデ。そのまま刀を乱暴に大剣へとぶつけると、二人の間に黒色の雷が走り抜けた。
「呑まれるな、帰ってこい」
苦しそうにデモンさんが説得する。
刀が淡く光ると共に、アルデの体に纏わりついていた黒の靄が吸い込まれてゆき、体の鎧も消えてゆく――そして意識を取り戻したアルデは休むことなく、戦闘を続けた。
激しい打ち合いの音が町に響く。
『魔王術の制御が未熟だと、その強い欲求に理性が勝てなくなる。暴走が止まらなければ死ぬだけなんだー』
珍しく起きていた部長が、デモンさんとアルデの戦闘を眺めながらそう呟いた。
俺はこれを聞かずにはいられなかった。
「部長は毎日寝てるけど欲求に負けてるってことなのか?」
『うるさいなー』
俺の言葉に不機嫌そうにそう答える部長。
そして、自分が寝続ける理由を語り出す。
『魔王術発動中はその欲求に常に突き動かされる。だから、普段からその欲求に慣れていかなければ、突然強い欲求に駆られるから危険ってことだよー』
普段から寝るのを我慢していたら、魔王術を使った時にその欲求に慣れていないために制御が利かなくなる――という事か。
俺の腕の中にモゾモゾと降りてきた部長は、心配するような顔(に見える)でアルデを見つめている。
『普段から慣らせられなかった分、それを抑え込むには、自分の意思が働いた相当な〝欲〟で押さえつけるしかないかなー』
部長が語る最中も、アルデは黒い靄に包まれて自我を失っては、また刀によって意識を取り戻すのを繰り返している。
「相当な欲?」
『たぶんアルデの欲求は、お父さんの姿を見てたからか〝武器を欲しがる〟って感じだと思うなー。暴走したその欲求よりも、たとえば〝寝たい〟みたいな自発的な欲求が勝れば制御できる、かも?』
自発的な、欲求――。
「アルデ!!!」
俺は叫んだ。
アルデは振り返らないが、
俺の言葉を聞いている。
「帰ったら甘い物食べたいだけ食べさせてやる! たくさん楽しい場所に連れていく! 負けるな、もっとワガママ言っていいから!!」
俺の言葉に、腕の中の部長は『ちょっと違うんだよなー』とか溢しているが、武器が欲しいという欲求を上回りそうなものなんて、これくらいしか思い浮かばなかった。
『……ダイキ、殿』
アルデは体の半分が靄に包まれながら、今度はしっかり俺の方を見た――そして刀を両手で握り、雄叫びを上げる。
『うっ……おおおおぉぉぉぉおおお!!!』
黒の靄を押し除けるように、黄金の光がアルデを包み込む。背中の武器達も黄金色に輝くと、部長とデモンさんが同時に呟いた。
『制御した』
光に包まれるアルデ。
魔王術スキルが勝手に表示されたかと思えば、そこに書かれていた文書が黄金色に書き換わってゆく。そして刀もまた、同じように勝手に表示され、奥義の欄に文字が浮かぶ。
【魔王術 強欲(完全解放)】
〝主人達と一緒にいたい〟という強い欲求によって強欲を完全に制御したことにより、自我を失うことなく使用することができるようになった。使用者が所持する武器全ての筋力値を、装備武器に付与することができる。
顕現時間:15秒間(再使用時間15分後)
【解放霊刀 黒波】
武器と所有者の心が一つとなり、真の力を解放した刀。巨人と魔族の血を引く個体名〝アルデ〟固有の武器。
個体名〝アルデ〟のみ使用可能
筋力値+1400
魔力値+150
特殊固有技:巨人の煌劍
分類:両手刀