真名解放クエスト ver.アルデ
武器商人の店は驚くほど早く見つかった。
なぜなら骨の被り物をした人物達が、その店を囲うようにして立っていたから――その異様な光景に俺は少したじろいでしまう。
『……』
意気込んでいたアルデは、目の前の建物が――煉瓦で造られたその家が、彼女の記憶の奥底に眠る〝何か〟である事を確信したのかもしれない。
足の動きが止まっていた。
「騒がしいな――」
ギィと、その建物の扉が開かれた。
すると中から現れたのは、質の固そうな髪をした仏頂面の大男だった。
筋骨隆々の体と、傷だらけの腕。
片手には大きな金槌が握られている。
「あぁ?」
そして俺たちに気付いた彼は不機嫌そうに見下ろすと――アルデを見つけるや否や、何かを堪えるようにして唇を強く噛んだ。
「本当にそっくりじゃねえか……」
両膝をつき、涙を流す大男。
アルデを抱きしめようと手を伸ばすも、アルデは怯えたように『やッ……!』と俺の後ろへと隠れた。
「……すまなかったな。怯えさせちまった」
そう言って、大男は少し寂しそうに家へと戻ってゆく。彼の後ろ姿を見た俺は、胸の奥がズキリと痛んだ。
きっと彼がアルデの本当の父親なんだ。
ここに来る前から〝本当の両親と対面した召喚獣達を見る、育ての親である俺〟という未知の心境に、少しだけ怯えていた自分がいた――もしも皆が本当の両親を選んだら、と。
しかしどうだ。
今はそんな不安など、どうでもよかった。
アルデに拒絶された父親の後ろ姿。
その痛々しさに、耐えられなくなった。
「アルデ、今までのこと色々話してあげようよ。事情がどうであれ、あの人はここでアルデを待ってたんだ」
俺は本当の親じゃない。
それどころか、本当の親に放置されて育った男だ。でも、それでも今は〝本当の父親〟の気持ちというのがなんとなく分かる。
『……』
アルデはそれになにも答えなかったが、しっかりと頷いていた。そして俺達は、アルデの父親が戻っていった建物の扉を開いた。
◇ ◇ ◇ ◇
中はお世辞にも広いとはいえないが、長年住み続けているのがよく分かる家だった。
玄関左手には釜戸と金床、剣や斧が無造作に置かれた工房があり、右手には生活スペースが存在している。
「おう。なんだ、来たか」
バツが悪そうに頭を掻く大男。
大きなテーブルの奥に腰掛けており、そのテーブルには他に長い脚の小さい椅子が二つ、置いてあったのが印象的だった。
『父、うえ?』
俺の後ろから顔を覗かせながら、アルデがポツリとそう呟いた。大男は感極まったようにまた唇を噛み締めると、絞り出すように「おう……」と答えた。
アルデが駆け出す――。
アルデは父親に抱きついた。
『話したいこと、いっぱいある』
「おう。全部聞くからな」
ズキリ。と、胸が痛む。
この痛みは、さっきのじゃない。
俺が覚悟していた方の痛みだ。
不意に、服の袖が掴まれたのを感じた。
見ればそこにダリアとベリル、青吉がいた。
ありがとうな――。
心中でそう呟くしかできなかった。
口に出せば別の物が溢れる気がしたから。
部長は気にせず寝息を立てていた。
いつも通りな彼女を見て、俺はどこか安心してアルデ達を見守る事ができたのかもしれない。