三人組集結
BBさんは床の道具を蹴飛ばしながら進んでいき、俺たちが座れるスペースを確保するとお茶とお茶菓子を出してくれた。お礼を言うや否や子供達がそれをぱくついた。
「そのうち馬鹿共も帰ってくるよ」
「すみません、ご馳走になります」
BBさんは「来たついでに」と溢しながら、その辺の山に落ちていた分厚いカタログを渡してきた。
「これは?」
「うちの商品。大半がネタだけど」
そう言って軽薄そうに笑うBBさん。
パラパラとめくってみると確かに「攻撃力は高いが振るうたびに所持金が半分に減る大槌」や「見た目は剣だけどれっきとした杖」など、バラエティに富んでいる。
しかし稀に魔紋章の盾に負けず劣らずの性能を誇る装備も並んでおり、彼女は浪漫だけでなく職人としても一流であることが窺える。
「この服とか子供達用に買いたいくらいですね。かなり性能高いですし」
「おーーお目が高いね。残ってるのは赤と青と白だけど、どれにするの?」
「三着よろしくお願いします」
「おお、羽振りいいねぇお兄ちゃん!」
俺が見つけたのは、ベトナムの民族衣装である〝アオザイ〟で、生地の上に右肩から左膝まで龍の刺繍が施されているもの。これは未だしっかりとした装備を持っていない青吉用とダリア用、白はアルデかベリルに着てもらおう。
俺はホーム建設用に貯めていたお金をここで放出する事に決めている。大規模なPvPイベントも控えているし、必要経費と割り切ろう。
「こういう所に性癖でるよね」
「そういう趣旨はないです!」
ニヒルな笑みを浮かべるBBさんへ強く否定していると、工房の扉がギイと開いた。
「いやぁー森の精霊大量大量! これを王都の貴族に売り付ければ儂の借金も――って誰?」
愉快に笑う老人アバターが俺達を不思議そうに眺めている。
身長は120ほどで、それでいて筋肉質。
たっぷり蓄えられた髭はドワーフ族を彷彿とさせる。背中には何本もの矢が刺さっており、毒のエフェクトが定期的に表示されていた。
「私というかキューちゃんの客だよ」
耳をぴょこぴょこさせながら俺たちを紹介するBBさん。ドワーフはそれを聞き、興味深そうに俺達を眺めた。
「ほお、珍しい。儂はハナクソじじい、よろしくな」
『名前が酷すぎますね』
「よ、よろしくお願いします」
ベリルの鋭いツッコミが冴える。
恐らく出会ってきた中で一番酷い名前ではないだろうか? 呼び辛すぎる。
「私は召喚士のダイキです。そして右からダリア、部長、アルデ、ベリル、青吉です。一度に覚えるのは大変かもしれませんが、よろしくお願いします」
「ほーん、そうかそうか……って、あ!」
ハナさん(呼びにくいため)は俺達を二度見して、アルデの元へ歩み寄った。
「儂の店で金魚すくいした嬢ちゃんだろ? どうした、あの魚、死んだか?」
『なっ……青吉はここにいるぞ!』
必死に反論するアルデ。
ハナさんには伝わらないのだが、本人には伝わったようで、青吉は《人化》のスキルを解いた――
「狭い狭い狭い!!」
「海竜?!」
部屋いっぱいに、竜の姿となった青吉の体が詰まった。
それも一瞬、澄まし顔で元の大きさに戻る青吉。BBさんとハナさんは目を丸くした。
「おいあの時の小魚がこのイケメン君なのか? しっかし海竜とは……まあ確かにあの辺で漁をした気もする」
「お陰で海竜神様に襲われそうになったりで大変でしたよ……」
「だっはっは!! まっさか海竜に抱かれる日が来るとは! じじいは迷惑掛ける天才だなほんと!」
腰を抜かすハナさんと、爆笑するBBさん。
「でもあの時の出会いがあって青吉とも会えたので、感謝の気持ちしかないです」
俺がそう伝えるも、ハナさんは「じゃああの時一緒に取れた黒の魚は……」などと、目を¥の形にしながら何か呟いている。
しばらく笑い転げていたBBさんは、涙を拭く仕草をした後、足を崩して座り直した。
「いやーそれにしても金魚を海竜に育て上げるとは天晴れ天晴れ。なかなか貴重な体験談を聞かせてもらったし、じじいの迷惑料ってことで色々見繕ってあげるわ」
「えっ本当ですか?」
「まぁうちは金儲けしたいがためにやってるわけじゃねえし、価格もその場のノリで決めてるからね。タダの時もあれば10億取るときもあるし」
そう言いながら、BBさんは手慣れた動きでトレード画面を開き、防具と武器の両方を一人ひとつずつ行き渡るように並べていく。
「いや、流石にこんなには貰えないですよ」
「そう? じゃあ一応100万くらい貰っておこうかな。タダより怖い買い物は無いって言うもんね」
そう言いながら、BBさんは破格の値段で子供達の装備を揃えてくれた。そしてその中には、元々目的としていたあの盾も含まれていた。
再び工房の扉が開かれる――
そこに居たのは、黒髪の竜人族。
チェーソー型の剣を肩に担いでいる。
竜の戦士、九曜さんだ。
「お! 来てたのか。ちょうどいいや、そこのお嬢ちゃんに――というか、アンタに頼みたい事があったんだけどいいか?」
挨拶や自己紹介など抜きに、自分の用件を言う九曜さん。彼が指差す先にいるのはダリアで、彼の金の瞳は俺に向けられていた。
「あ、え、なんです?」
「この嬢ちゃんの真名を解放しに行く時に同行したいんだよ。おいB! 今回の買い物代金無料にしてやれ、それで手を打ってもらいたいから」
九曜さんに対し、BBさんは肩を竦める。
「もうあげちゃったしなぁ」
それを聞いた九曜さんは呆れたようにため息を吐いた。
「交渉って言葉知ってるか? 俺はたった今交渉材料を失ったんだぞ。お前にはガッカリだよ」
「私が作った装備を自分の取引に出すな。それ言うならさっさと帰って来なかったキューちゃんが悪いやん。はぐれ天使のソロ狩りなんてやめときゃーいいのに」
「連戦無敗の名持ちmobだぞ? 戦わずにはいられないだろ。返り討ちにあったけどな!」
そのまま言い争いへと発展する二人。
俺達はそれを眺めながら、終わるまでの間、ハナさんとお茶を啜って待つことになった。
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