スキル習得、装備を求めて
喫茶店内――
アルデの故郷に行く事を決意した俺は、まず初めに花蓮さんへとメールを送った。
霊峰攻略も行っていたし、召喚獣に一番詳しいのもきっと彼女だから。
「お、助かるなぁ」
メールはすぐに返ってきた。
〝真名解放は条件を満たした状態で召喚獣の故郷に踏み入れば、クエストが発生する〟
〝霊峰の麓にある雪の町へは、風の町の東ポータルから出て道なりに進めばたどり着く〟
〝耐寒防具かアイテムが必須〟
要約すると、この三点が記されていた。
一つ目はクリア、2つ目も問題ない。
3つ目だけ対策を済ませる必要があるな。
「その前に、いろいろ準備を済ませてからだな。とりあえずまずやることは、ベリルの残りの三つの技能の習得と、課題である俺のMP量増加のために装備探しだ」
ベリルは現状、攻撃用技能が(自動追撃システムも攻撃用と考えて)三種類、チャージ系短縮技能が一種類、状態異常付与が一種類、弱体化用二種類を持っているから、攻撃用と弱体化用は十分だと考えている。
だから、自身もかなりの攻撃性能を誇るベリルを強化する技能に加え、その他良さそうなのを見繕いたい。
『そうですね。私もめぼしいモノを調べておきました』
各々ジュースを啜る中、ベリルが答える。
心なしか物凄く得意げに見えるのはなぜだろう。
一方、アルデはすっかり元の調子を取り戻しており、青吉にくっ付きながらパフェを堪能中で、俺としては彼女の振る舞いがとてもありがたかった。
「そうなんだ、助かるよ。どんな技能なの?」
ベリルは得意げな表情のまま、なにやら掲示板を確認するようにして読み上げる。
『ええと、《密着》《独占者》《料理術》ですね』
密着、独占者、料理術……?
二つは詳細まで分からないが、少なくとも料理術は要らないと思うんだけどな。
手料理が食べたいのなら、唯一技能を取得する機会のある俺が会得すればいいし、貴重なベリルの枠に入れるのはちょっと控えたい。
密着と独占者の技能を気になって調べてみると、密着には指定した対象と体の一部が触れている限りステータス上昇の効果があり、独占者にはパーティメンバーが二人の場合に限り、ステータスが大きく上がると書いてあった。
前者はまだしも、後者は使えなくないか?
いや、完全蜃気楼の対象をベリルに設定したら独占者も発動するし、体の一部を触れさせれば密着とコンボができると考えるべきか――しかし、使える場面が限定的すぎるな。
無しとは言わないまでも、最善とは言い難い。
「ええとごめん、その三つが本当に必要な技能なの? ……見間違いとかじゃなくて?」
俺がそう伝えると、ベリルは不思議そうに首を傾げた後『確認します』と掲示板に向き直った――そしてしばらくした後、顔を真っ赤にして激しく何かを打ち込み始めていた。
なんとなく、長くなりそうだなと感じる。
ジュースとデザートと掲示板を堪能する子供達を横目に、俺は紋章ギルドで試した数個の技能を引っ張り出し、その中からベリルに適したモノを選ぼうと考えた。
候補は四つ――全て検証込みで有用な技能だ。
《戦場指定の三角形》機人族限定 #active
ピンを飛ばし、指定した三点の範囲内にいる敵対対象の物理・魔法抵抗力を下げ続ける
《属性強化信号》機人族限定 #active
対象の属性攻撃・属性抵抗値を強化する
《砲撃強化》#passive
砲撃系攻撃の威力が上昇する
《思考加速の心得》#passive
思考処理能力に補正がかかる
習得優先順位が高いのは、思考加速の心得と砲撃強化。
思考加速の心得は、俺が持つ空間認識の目と対をなす最強技能であり、脳の演算スピードを上げるというとんでもない性能を誇る。もちろん、ベリルはそれに適応したため候補に残っている。
続いて砲撃強化だが、これは現在の装備である魔導砲へのダメージ補正、そしてチャージ系の二種類の威力まで上がる。かなりお得で、ベリルの火力強化が期待できる。
残すは二種類……か。
「ベリル。一応試してみた結果もあるし、思考加速の心得と砲撃強化は取るべきかなと思ってるんだけど、戦場指定の三角形と属性強化信号のどちらにすべきか迷ってるんだ」
肩で息をするベリルに尋ねる。
彼女は『私もその四種のいずれかが良いと思います』と言いながら、即答してみせた。
『属性強化の方がいいと思います』
「なるほどそうか、参考までに理由も聞いていい?」
『はい。前者はピンを破壊されるとしばらく使えない点と、範囲内にいる時にだけ効果が及ぶので、外に出られてしまうと無駄になる可能性があります。後者は単純に我々の火力担当は属性攻撃が主ですし、あっくんの拡散強化を用いれば一度で済みますから』
彼女の中ではかなり固まっていたらしい。
そして腑に落ちる説明に俺も納得できた。
「ならこの三つで決定しよう」
『ありがとうございます』
よし、これでベリルの技能は完了だ。
続いて俺のMP枯渇問題だが――
オルさんのお店でもいいが、今まで利用してなかった機能もこの際使ってみようと思い、メニュー画面から〝ネットショップ〟を開いた。
「耐寒アイテムはこの〝熱々ガム〟でいいか」
耐寒用の薬などを買い漁りながら、MP増強を検索項目に入れる。そして表示された装備一覧をスクロールしながら、手持ちのお金と性能を見比べていく。
「めちゃくちゃな価格設定もあるな……」
中には999,999,999で売られている物もあり、出品者がプレイヤーであるが故の自由さに少し頭痛がしてくる思いだった。
そんな中、ある〝盾〟が目に入る。
【魔紋章の盾・魔改】製作者:B.B
魂紋章の剣の対となる盾。その剣を振るう者、無限の体力を得る。その盾を構えし者、無限の魔力を得る。その紋章が光る時、十六夜の十三番目の扉が開かれるだろう。夕闇の剣士は唄う、戦場で唄う――
必要レベル60
耐久+250
魔力+200
MP+1500
効果:攻撃を盾で受ける度にMPを吸収する(最大)
分類:片手盾
物凄い効果の盾だ。
説明文の後半は何を書いてあるのか全く分からないが、性能は破格である。
デザインは、上品に輝く黒い金属に銀色の縁取りがされ、縁の装飾は尻尾を噛んだ龍を模している。盾の面の部分には名前の通り紋章が刻まれており、とても美しい。
俺の求める性能が詰まっているが、値段がなぜか《要相談》と書いてあり、その横にアドレスが記されていた。
「得体が知れないけど――どうしよう」
数秒唸ったのち、俺はメールを送る。
手持ちのお金はホームを買おうと貯めていたものがあるため、そこそこの金額がある。ただ性能が性能なだけに、かなりの額が掲示されそうなのは否めない。
返事が来るまでは待機かな――
俺はメニュー画面を閉じ、珈琲を啜る。
いくら経っても冷めない珈琲にVRMMOの有り難みを感じながら、準備が整うまでの時間を子供達とゆっくり過ごしていった。
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