アルデの気持ち、そして決意
短めですが、キリが良いので
飲み会からの帰り道。
帰りのタクシーに揺られながら、俺は魔王術、真名解放、そして子供達の故郷の事を考えていた。
フレイルさんは真名解放に最も近いのはアルデだと言った。アルデは親密度や固有武器の所持という条件を満たしており、故郷についての見当も随分前に付いていた。
〝あれは高難易度のダンジョン、通称《不落の霊峰ノクトール》。そしてずーっと下にいったあの辺りに、地図には載っていない雪の町が存在する〟
港さんの声が脳内に蘇る――
かつて風の町で紅葉さんと葉月さん主催のイベントに参加した際、山道から見えた雪の山を見ながら交わした会話だ。
〝この町に住む民がかなり特徴的な風貌なんだ〟
見せられた画像には、昔のアルデが被っていたような動物の骨の頭部を被り、何かの儀式をしている姿が写っていた。
あれは紛れもなく、アルデ召喚時の姿。
ただ――
「本当にあの子のためになるのか……?」
運転手にも聞こえない声で呟く。
無意識に口に出たのは、自分への問いかけの意味も強かったからだろうか。
制御ができている様子の部長と違い、海竜神様に向かっていったアルデは暴走していたように見えた。それはベリル指揮のもと、戦闘の訓練をした時にも起こっている。
部長はずっとあの術の危険性を訴えていた――魔王術を制御する力を得なければ、アルデの身に良からぬことが起こるかもしれない。
魔王術を制すには最終進化が必須。
最終進化するには真名解放が必須。
真名解放には故郷に行く事が必須。
故郷には、アルデの両親がいる――
「わからん……」
前髪を握りしめるように掴む。
酒はそこまで入っていないのに頭が回らない――いや、自分自身に良い家族のあり方の知識と経験も無いから、いくら考えようが浮かばなくて当然なんだ。
俺は親の愛を知らない。だから俺は、できる限り子供達の望む事をしてあげたい。
仕事中もずっとその事を考えていた。
アルデが嫌だと言ったら……子供達が嫌だと言ったら、その意見をできるだけ尊重したいと思っている。
けれど、それをしてアルデの身に何かが起きてからでは遅いのも分かっている――だから、連れて行くしかないんだ、彼女の故郷に。会わせるしかないんだ、彼女の両親に。
〝母上に会いたい〟
以前アルデがポツリと溢した言葉。
彼女も自分の母親に会いたがっている。
なら、もう悩む必要もないよな。
「子供に不安な顔なんか見せるなよ、俺」
誰にも聞こえない呟きは、移りゆく景色と夜の闇に溶けていった。
* * * *
ログインしてからしばらく、俺達は目的もなく王都を歩いていた。
『青吉! 武器屋があるぞ!』
『アルデまま、一人で歩いたら危ない』
楽しそうにはしゃぐアルデを見ていたら、なかなか言うタイミングを見失ってしまう――今日は食べ歩きでログアウトでもいいかなとも思えてしまう。
『どうしたの』
手を繋いで歩いていたダリアが俺を見上げた。
左手はしっかりと肉巻きおにぎりが握られている。
「ちょっとアルデに真剣な話をしようかなと思ってね」
『そう。なら早い方がいい』
「なんでだ?」
『あの子もダイキに言いたい事があるはずだから。今日は無理して振る舞ってるけど』
むしゃむしゃと肉巻きおにぎりを頬張りながら、目線をアルデに移して、ダリアが言う。
この子には何もかもお見通しのようだな。
「アルデ」
俺はアルデを呼び止める――
振り向いたアルデの顔は、誰が見てもわかるほど、不安の色が見え隠れしていた。
「昨日から色々考えてたけど、あれこれ言うのは止める。アルデは故郷に行きたいか?」
魔王術の事とか、真名解放とか――
今はそれらを抜きにして、話がしたい。
アルデの気持ちが聞きたい。
『拙者は……』
アルデは少し俯きながら、沈黙する。
青吉が不安そうに手を握っていた。
『ダイキ殿と一緒にいるのがとても幸せだ。皆と一緒にいるのがすごく楽しい。不満なんてひとつもないけど……母上に会いたい。それはずっと感じてた』
俺は黙って次の言葉を待っていた。
ダリアが握る手に力が入っているのを感じる。
『ただ、それを言えばダイキ殿が悲しむと思って、ずっと言い出せなかった。本当の両親に会いたいだなんて。拙者は――拙者は元いた場所に帰りたいわけじゃなくて、母上に会いたい、ただそれだけなんだ。青吉達と離れる気はなくて、皆が大好きで、幸せで、この気持ち、伝わってる?』
泣きそうな顔で見上げてくるアルデ。
口を真一文字に結んで必死に耐えている。
俺は彼女の元へと歩いてゆき、頭に手を乗せた。
「伝わってるさ。俺達もアルデの事が大好きだ」
『ダイキ殿ぉ……!』
アルデを抱きとめながら俺の決意が固まった。
たとえどんな結果になろうとも、俺はアルデを両親のもとへ連れて行くと。
補足
アルデの故郷についての会話は135話の《過去への手がかり》を参照してみてください。
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