魔王術の制御
王都――城門前
青吉を見た番兵達が一礼する。
以前トラップタワークエストで王様からいただいた〝王都騎士の鎧〟を青吉が装備しているからか、門前払いを喰らう事は無かった。
トーナメント中のイベントで貰った鎧着ておけばマリー様関連で投獄される事も無かったのかな……今となってはいい思い出だ。
一応近くにマリー様が居ないかとうろうろしてみたが、流石に王女であるNPCにはそう簡単に出会えないようだった。
俺達はそのままフレイルさんの自室にたどり着く。
「召喚士のダイキです。フレイルさん、いらっしゃいますか?」
しばらくの沈黙の後に、扉がギィと開き、中からフレイルさんの召喚獣である黒猫のビビアンが現れた。
ビビアンは半分開いた扉の間に座り、こっちをじぃと観察している。
『あ! ビビアン!』
アルデがいの一番に声を上げた。
ビビアンは目を細めて尻尾を動かす。
「おや、久しぶりねアルデ。今日はなんの御用かしら?」
『ダイキ殿がフレイルに話があるんだって!』
「そうだったの。あの件かしらね?」
そう言って、俺を値踏みするように観察するビビアン。
「かなり鍛えてきたようじゃない」
「フレイルさんのお眼鏡に適いますかね」
「それほどの使い手は王都騎士にもそう居ないんじゃないかしら。とにかく、部屋に入って頂戴」
そう言ってビビアンが部屋へと消えた。
俺達も後を追うように部屋へと入る。
フレイルさんの部屋は以前と全く変わっておらず、菓子をむさぼる女騎士――ローズマリーも健在だった。
「もご! もごごご!!?」
『いつも食べてるローズマリー』
ダリアに指を差されあたふたする女騎士。
この緩い感じも久々な気がするな。
そして例によって、テーブルの上に並べられた大量の焼き菓子を囲いながら、俺達は自己紹介も兼ねて歓談していると、入口の扉が勢いよく開かれた。
「おいローズ。てめぇまた俺様の菓子を食ったのか?」
「お、お客さんが来たから出しただけですぅ」
「お客さんだぁ?」
眉間にしわを寄せた強面の男性騎士。
王都騎士にして召喚士のフレイルさん、その人だ。俺達と目が合うなり、フレイルさんは何かを察したように顔付きを変え、向かいのソファに深く腰掛けた。
* * * *
ずらりと並ぶ形でソファに腰掛ける俺達。
その正面に、フレイルさん、ビビアン、ローズマリーが座っている。
「二人増えたのか」
甘い香りの紅茶を啜りながら、フレイルさんは新入りの二人を見た。
「はい、青髪の男の子が青吉で、黄色い髪の女の子がベリルです」
『よろしく』
『よろしくお願いします』
二人が挨拶すると、フレイルさんもビビアンがやっていたように値踏みするように眺めながら、不敵な笑みを浮かべ頷いた。
「おーおー。機人の子はそこそこだが、こっちの青髪のボウズはなかなかのもんじゃねえか」
ベリルの頭に怒りマークが浮かんだ気がした。
俺は慌ててフォローを入れる。
「うちの子達を比較するのは止めていただきたいです。それに、この子はうちの司令塔で戦闘の要なんですから」
ベリルの頭に手を置き、はっきりと言う。
フレイルさんは一瞬ギロリと睨んでいたが、すぐさま下に視線を向けて「底抜けの愛情だな」と笑ってみせる。
俺の太もも部分に何かが触れる。
見ればベリルが服の先をつまんでいた。
俺はそのまま頭を撫でてやる。
「そりゃあ戦闘を見るのが楽しみだな」
満足そうに笑うフレイルさんを、ビビアンとローズマリーが同時に叩き、青吉は不思議そうにそれを眺めていた。
「で――本題に入るぞ」
真剣な表情になるフレイルさん。
今度は部長とアルデに視線を向けた。
「まず問題の二人だが、結論から言うと〝使うな〟だな」
答えは、部長と同じ内容だった。
フレイルさんまでもがそう言うのであれば、やはり使用自体を控えるべきなんだろう。
「やはりそうですか」
「まあ待てよ。俺様が言いたいのは、この二人がその力を完全に制御するには、最終進化を済ませる必要がある――という事だ」
「最終進化、ですか?」
「そうだ。あるだろう、召喚獣の到達点が」
召喚獣の到達点――
つまり、真名解放のことだ。
〝私の場合――それもヘルヴォルの場合に限った事ですが、固有武器の能力解放に伴う特殊固有技の習得と個体の最終進化先解放。それとオマケ的な要素での《幼体化》がありましたね〟
トーナメントの観客席で花蓮さんが語った内容を含めて考察するに、部長とアルデの真名解放を終わらせ、最終進化先を解放した後――或いはその進化先に進化した後ならば、魔王術を制御できるという意味だろう。
〝恐らくトリガーは《個体の親密度上限MAX》と、《固有武器の所持》ですね。あとはクラスの段階も関係しているかもしれませんが――条件を満たした状態でその個体所縁の土地に行けばクエストが受けられると思い、ます〟
花蓮さんはこう語っていた。
個体の親密度に関しては、ダリアからアルデまでが200――つまりMAXの状態であるため第一条件は満たされていると考えられる。
問題はもう一つ。
固有武器なんてどこで手に入れるんだ……
いや、まてよ。
「アルデ。今、武器出せるか?」
『ふえ?』
甘いものに夢中の彼女がリスのような顔で振り返る。
『だせるぞ!』
「じゃあ、アルデが召喚された時に持ってた黒い刀、だせる?」
『これか!』
そう言ってアルデは黒い刀を取り出した。
【尊き刀・黒波】
形こそ美しいが、武器としての性能を持たない鈍刀。謎の金属で造られている。
必要筋力:5
筋力+10
「ほお、珍しいモン持ってるな」
それを見てフレイルさんが目を丸くした。
生まれた時に持っていたこれが、アルデの固有武器なのかもしれない。しかしそうなると、アルデ以外の召喚獣達の固有武器はどうやって手に入れればいいんだろうか。
「コレを最初から持ってる個体は珍しいんだよ」
「他にも例があるんですか?」
「あるにはある。まあコレについては解明されてないことが多いがな。俺様も詳しくは知らん」
そう言って深々と座るフレイルさん。
この辺はNPC的に発言が制限されていると考えて、花蓮さんに聞いてみるのが一番かもしれないな。
「それはそうと、お前自身へのアドバイスがまだ残っている。どうだ、受けるか?」
ニヒルな笑みを浮かべるフレイルさん。
俺もとへシステムメッセージが届いた。
《騎士の訓練場へ招待されました》
王都施設利用パスを使いますか?
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