拭えぬ不安
戦闘訓練は続く。
今度はレベル70相当の格上を設定した。
現れたのは狼の顔をした人型のmobだ。
『パターンCで行きます! 狼人の弱点は光! それと、狼人の魔術師は味方を強化します!』
ベリルの指示に皆が頷く。
俺達は再び同じ工程を経て、対峙する。
「『こっちだ!』」
やる事は一回戦と同じだ。
俺が敵視を一手に集めてゆく。
しかし、今回は多数の強敵が目標。
攻撃の軸となるのは魔法職タイプの三人だ。
『煉獄の炎帝』
『大いなる水の大流』
『ジャスティレイ・テラ』
俺の後方から飛んでくる三つの魔法。
それらは狼人を焼き、飲み込み、撃ち抜く。
かなり硬いと予想される相手には範囲攻撃が軸。
俺達のパーティには火力の高い魔法職が三人いるため範囲攻撃は得意分野。その上、敵全体のHPを均一に削るため、敵視が一気に剥がれるようなことも無い。
『やああ!!』
俺が敵視を最も稼げている対象に向け、アルデが積極的に攻撃を仕掛けていく。
俺は時折全体に挑発を入れて敵視を維持しつつ、目の前の一匹の敵視も維持しながらアルデと二人で迅速に処理する――これの繰り返しだ。
その時だ。
仮想空間から巨大な狼が現れた。
鎖で体を縛られながら暴れる狼。
どうやらある程度削ると現れるボスのようなものも用意されているらしい。
『! パターンDを試します! でも、失敗するかも……』
「いいさ、ここで負けても何も失う物はないよ」
パターンがDに変わると子供達は節約を止め、効率度外視でボスもろとも最高火力を叩き込み始める――俺は何度も剥がれそうになる敵視を調整しながら、五人のMPを見る。
一番消費が激しいのはダリアだが、部長が《分配》によってMPを分け与えながら、他の全員のメーターを均等に保っている。
『流石に硬い』
『攻撃来そうだよ!』
皆が殆どを出し尽くす頃――
大狼のHPが残り6割ほどになっていた。
吠えると同時に鎖が剥がれ落ちてゆき、こちらを恨めしげに睨む大狼が立ち上がる。
『頃合です!』
「ああ、いくぞ皆!」
全員が力を出し切ったのを見計らい、俺は《完全蜃気楼》を発動させ、対象をダリアに設定した。
部長、アルデ、青吉、ベリルが石となる。
ダリアはそれを取り込んで炎に包まれた。
大狼が駆け出した――
その顎が火柱を喰らう直前、
『炎神の矢』
炎の中から緋色の光線が飛び出した。
それは大狼を何度も貫き、HPを大きく削り取ってゆく。
炎の中から現れた美女――ダリア。
炎の羽衣を纏いしその姿は火の女神のよう。
『あとどのくらい?』
「残り25秒ってところかな」
『わかった』
ダリアと短い会話を交わす。
完全蜃気楼の顕現時間は今の俺のMPだと30秒が限界であり、これが解かれると全員が一気に無防備となる。
これは、捨身の必殺技。
しかし、この技で削り切れば良いだけの話。
『炎神ノ玉』
ダリアの体が緋色に包まれ、まるで火の精霊かの如き炎が人型を模した形となる。
背中に現れた無数の球体がマシンガンの如き勢いで大狼を撃ち抜いてゆき、部屋内が衝撃波によってぐらぐらと揺れた。
「倒したか?」
ダリアが着地すると同時に蜃気楼が切れ、五人の子供に分裂する。
見れば大狼が居た場所には何も居らず、ダリアの怒涛の攻撃で削り切ったことが見て取れた。
* * * *
その後、パターンAからFまでを試した俺達は紋章ギルドを後にし、王都にあるレストランへとやって来ていた。
『肉は渡せない』
『わたしの果物取ったの誰ー?』
『戦闘終わりの甘い物は格別だぁ!』
『この魚焼き過ぎだと思う』
次々と運ばれてくる料理に子供達が夢中になる中、料理にも手を付けぬまま、ベリルだけが難しそうな顔で唸っていた。
「どした?」
『……やはりパターンEは外したほうがいいですよね。部長お姉様曰く、通常の戦闘ではかなり危険が伴うそうですし』
そう言った後、再び唸るベリル。
完全蜃気楼を使って部長かアルデをベースにした後、魔王術を使う――これがパターンEである。
未だ未知数の技能である魔王術。
わかっているのは、部長の魔王術は全体に及ぶ強力な睡眠付与であることと、アルデの魔王術は持てる全ての武器を纏って暴れること。
その強力さは海竜神様との試練で目の当たりにしているし、それを聞いて戦術として加えておきたいというベリルの気持ちは良くわかる。良くわかるが、どうしても懸念は残る。
『今は使う時じゃないと思うよー』
部長が俺たちの会話に加わった。
魔王術に関して彼女は深く理解があるようだが、これまで多くは語ってこなかった。
「まだ足りないとか言ってたよね。具体的に、部長とアルデには何が足りないの?」
『わかんないけど足りないよー。足りないまま使ったら、わたしたちの体から何かが抜かれていくの』
使うべきではないってことは分かるんだけどなぁ……更に部長もアルデも俺の指示なく魔王術を使っている事を鑑みても、魔王術に対して深く理解が必要な気がしている。
パターンに組み込むなら尚更だ。
何かいい案が、誰か詳しい人が――
いる。
いるじゃないか、王都に。
「皆、食べ終わったらお城に行くよ」
『ん? なぜだ?』
顔中クリーム塗れのアルデが尋ねる。
かつて部長が進化したくないと悩んだ時、そして部長の内に秘めた力をも見抜いているような物言いをした彼――
〝お前にそれが必要となるのは随分と先の話。しばらくは主と普段通り過ごせ〟
〝久々に面白い奴と会えて良かった。――後少し腕を磨くんだな。そしたらお前にもアドバイスしてやる〟
「王都騎士のフレイルさんに会うためだよ」
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