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初心者狩り

 

 場所は変わってナット平原。

 俺は召喚獣達を自由時間と称して遊ばせながら、いつもの木陰でメールの文書を考えていた。

 葉月さんに元気になってもらうため、紅葉さんが企画したフルーツ狩りについてのメール。

 色々と賑やかな方がいいだろうとケンヤ達や銀灰さん達も呼んでみようかと一瞬考えたが、目的が目的なので、予定通り見知った少人数で決行すべきだと考えている――もっとも、召喚士繋がりで花蓮さん辺りは呼んでも大丈夫だとは思うが、そちらは花蓮さんの都合次第だな。


「ベリル、誰と会話してるんだ?」

『秘密ですね』


 ベリルは俺の横で掲示板らしき画面を開き、一心不乱に何かを打ち込んでいる。

 俺に会えない人と絡んでいる……まさか、もう好きな人でもできたのか? 早すぎないか?


「……男の子?」

『大勢のクズですね』


 俺の問いに、ベリルは顔色ひとつ変えずに即答した。

 一抹の不安が取り除かれたはいいが、また別の不安要素が増えたような気がする。

 掲示板は良くも悪くも色々な人が利用しているから、ダメなベクトルの知識ばかり吸収しなければいいが……


 あぐらの中でスヤスヤ眠る部長の背中を撫でながら、ダリア達の方へと視線を移す。

 ダリア、アルデ、青吉は少し離れた所でおままごとをしているようで、離れていても会話の内容はシンクロによって全て筒抜けであるため、役回りも把握済みだ。


 ダリア→おかあさん

 アルデ→おかあさん

 青吉→おとうさん


『青吉さん、私のご飯を作って』

『青吉さん! 私とチャンバラしよう!』

『……』


 大変な妻を2人も抱えて黙り込む青吉を眺めつつ、ここいら一帯の風景をゆっくりと見渡す。

 サービス開始から既に何ヶ月も経っているが、ここでレベル上げに勤しむ初心者プレイヤーは沢山いる。初心者プレイヤーの数は減るどころか、むしろ増加しているように見えるのは時間帯のせいからか? それとも、本当に全体のプレイヤー数が増えているのかもしれない。

 昔俺もダリアを召喚する前はナットラット相手に1人で(アーツ)の練習してたっけな――などと考えながら、再びメールの方へと目を落とす。


 ほとんどの段取りは紅葉さんが行ってくれているから、俺は参加する人たちに確認の意味も込めた挨拶メールを送っていく。

 葉月さんが参加可能かどうかは紅葉さんの方で確認済みであるため、集まってみたら本人不在という悲劇は起きない筈だ。さて、急なお誘いになるが花蓮さんは参加してくれるだろうか……


『ダイキ』


 と、ダリアが強めに俺を呼ぶ。

 おままごとの参加を強要されるのかと顔を上げてみると、おままごとメンバー3人がある一点の方向を睨みつけているのが見えた。


『どうした?』

『あっち、みて』


 ダリアが指差す方向に目をやると、モンスターとの戦闘中の初心者プレイヤー達が、何者かに襲われているのが見えた。


 あれはモンスターではなく、プレイヤーか?


 黒の衣装に身を包んだ〝PK(プレイヤーキラー)〟が、初心者狩りをしている。PKの数は確認できた限り1人。


 PKも一種の楽しみ方だとは思うが、今までの経験上、俺たちに関わってきたPK達に全く良い印象が無い。

 それに、始めて間もないプレイヤーが一方的に狩られているのは、ちょっと見ていて気持ちのいいものではない――とはいえ、召喚獣達をそういう人達(・・・・・・)と関わらせるのは、正直気がひけた。

 以前ダリアに嫌な思いをさせたから尚更そう思う。


 黙ってる俺にしびれを切らしたのか、ダリアが一言『倒しに行こう』と言った。他の召喚獣達も既にやる気のようで、あとは俺の返事を待っているような状態になっている。


 あまり関わりたくないが――


『……わかった。いくか』


 放置するわけにはいかないよな。



*****



 PKは次の目標(ターゲット)を見つけたようだった。

 ナットラット相手にひたすら盾受けの練習をするプレイヤー。彼女はそれだけに夢中になっているためか、この騒動に気付いていない。


「14人目ぇー!」

「!!」


 彼女が気付いた時には既に、PKの剣が振り上げられていた。

 声にならない悲鳴と共に振り下ろされた剣は――介入した俺の盾と拮抗する。


「はあ? なんで邪魔すんの?」

「悪いね、つい」


 PKは妙な模様が刻まれた黒のローブに身を包んでおり、俺はその衣装にどこか既視感を覚えたが、すぐに思考を戻す。

 俺に邪魔されたPKは大きく距離を取ると、俺から視線を召喚獣達へと移し、指で数えていく。


「6対1ってフェアじゃないな」

「それを言うなら初心者対熟練者っていうのもフェアじゃないだろう」


 PKは俺の言葉に「まあ確かに」と、ひどくあっさりとした態度を見せ、その後、何かを閃いたかのような右手で左の手のひらをポーンと叩いた。


「せめて2対1にしよう。それ、全部お前の召喚獣だよな? その中から一番強い奴でもいいけど、お前と召喚獣1匹、これで戦おうぜ」


 この話の通じない感じは、中身(プレイヤー)の実年齢が推測できてしまうのだが……そのルールは正直、俺達には何のデメリットもないんだよなあ。


『いく』

『わかった』


 過去にPKによって何度か嫌な思いをさせられてきたダリアが、瞳を燃やしながら名乗り出る。

 2対1とはいったが俺は多分戦わないから1対1の正真正銘のフェア――いや、実質5対1になるのだが。彼にそれを伝える義理はないだろう。


 完全蜃気楼(フルミラージュ)が発動すると、部長、アルデ、ベリル、青吉の体がそれぞれ魔石のようなものに変わり、ダリアの体に入ってゆき――ダリアの体は轟々と炎に包まれた。



炎獣葬送フレイムベル・オルテマ



 斬りかかってくるPKの足元に巨大な魔法陣が浮かんだと同時に、ゴッ! という凄まじい轟音と共に、天を貫く火柱が伸びた。


「あああああ!!」


 PKの断末魔の叫びは一瞬にして聞こえなくなり、確認する暇すら無かったが、恐らくLP全損による死に戻りが発動したのだと予想する。

 炎が消えるとそこにPKの姿は無く、あるのは呆然と眺めるギャラリー達と、炎を纏った女性――ダリアの姿。


 ダークレッドの髪は腰まで伸び、体つきから顔立ちから〝可愛さ〟が完全に抜けて〝美しさ〟に変わっている。

 目元は鋭く、口元も真一文字に結ばれているため、炎を纏っているにもかかわらず冷たい印象すら覚えるが、ダリアの面影はしっかり残っていた。

 身長は170センチほどあり、俺との身長差は少ししかない。見た目から測れる年齢は20〜22の間くらいだろうか。


 ダリアが炎に包まれた右手を払うと、周囲に発生していた炎が全て搔き消えて、それと同時にギャラリーから拍手が巻き起こった。


「よ、幼女神(おねえ)様……」

「しつこいPK倒してくれてありがとう!」

「レベル高い!! まじ尊敬します!」

「これでしばらくアイツ戻って来れませんよ!」


 PKを倒しただけではあるが、PKはプレイヤーによって倒されると一定時間PK行為ができなくなるという情報もある。仮初めの平和ではあるが、感謝される結果に繋がったのは良かった。


『えへん』

『お手柄だな』


 腰に手を当てドヤ顔をするダリア。

 ちびっ子状態なら何となしにできた頭を撫でるという行為も、これほど急成長されてしまうと正直やり難い。なぜか俺が照れながら、ダリアの頭を撫でる。


 悩みの種も消えた所でおいとましよう――と、踵を返した俺たちへ、1人のプレイヤーから声が掛かった。


「あの、こんにちは。ちょっといいか?」


 少しだけ日本語に違和感を覚えつつも振り返ると、そこにはPKが標的にしていた女性プレイヤーが立っていた。

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