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砂の冒険者⑤

※2018年5/1〜5/28の間にこの話を読んでいただいた読者様。最新話を読む前にまずこの話を読み返してください。2000字ほど加筆しています。

 


 化け物の角と盾が火花を散らし、甲高い金属音の後に広がる衝撃波が、エルフの少女を吹き飛ばし――反応したアルデが彼女をしっかり受け止める。


「アルデ、そっちは任せたぞ!」


『うん!』


 戦いの余波だけでも、非戦闘NPCにとっては居るだけでもやっとな程。驚異的なパワーをもつ化け物(コイツ)も、それを盾一つで受け止めている俺も、彼女からしたら別次元の存在だろう。


 ふと、自分の足元に目をやると、床の木材が割れ、徐々に押されているのが分かる。


 このレベルの差で力は相手の方が上……となるとパワー極振りタイプか?


 ダリアとベリルが魔法の準備を終え、俺の両脇に現れる。


『デウス・コロナ』


『バルバロイ・メガ』


 灼熱の閃光と真っ白い閃光が交差し、化け物の体を貫いた。


「!」


 LPは大幅に削れた。


 しかし、押す力は弱まるどころか、むしろ強くなっている。ダメージによる怯みが全くない。


「ぐ、ぐぇええ!!」


 ラルフ達(向こう)はすでにゲヘロを追い詰め勝負が決まりそうだ……ラルフの怒りが暴走すれば、ゲヘロの命まで届きかねない。


「『盾弾き(シールド・パリィ)』」


 受け止めていた力を緩め相手の懐に抜けるように盾を滑らせ、0コンマ数秒の間で、盾を天井に弾きあげる!


「『赤の烈光斬レッド・ライトスラッシュ』」


 怯むというより、体勢を崩した化け物に、反撃の剣技をありったけ叩き込んだ――




*****




 戦意を喪失したゲヘロを縛りつけるラルフ。その顔には未だ憎しみの色が見えるが、殺さない道を選んでくれて本当に良かった。


 ラルフはその後、動かなくなった化け物を指差し、冷たい瞳をゲヘロに向けた。


「あの化け物はなんだ。この辺では見たことがない」


 確かに、砂の町付近ではサンド・ワームとは何度も遭遇しているが、こんな異形の化け物と遭遇したことはない。イベントボスと言われてしまえばそれまでだが……


 ゲヘロは「見てくれだけのデカブツが」と悪態を吐いた後、さも興味を失ったように口を開く。


「砂漠に居たんだよ。それを捕まえた」


「だから言ってるだろうが、あんなもん砂漠に居ないんだよ。俺は何年も砂漠で戦ってきたんだ」


「そんなもんは知らん。俺もこんなもん初めて見たさ、それなりに期待もしてたがな」


 この化け物を引っ張り出してきたゲヘロの表情は、化け物の力を信頼し自信に満ち溢れていた……二人ともよく知らないということは、特別な生物だったのだろう。


 ラルフは無言で化け物の亡骸に歩み寄り、そっと手を触れる――と、不思議そうに眉間にしわを寄せ、俺の方へと顔を向けた。


「こいつ、心臓が無いです」


「心臓が無い? じゃあどうやって動いてたんだ」


「無機物にある核もない……なんだ、この生物」


 彼の能力は〝盗む〟力。


 対象に手を触れただけで心臓か核を盗む事もできるのだろうか。それとも、あるかないかの情報のみを盗んでいるのか。


 敵が持っていたら凶悪すぎる能力だ。

 ストーリーの進め方を誤っていたら、彼が敵になっているルートも存在していたのかもしれない。


「ギルドの調査にも影響するな――こいつの情報も調べます」


 そう言ってラルフはまた集中するように手を添え、目を瞑ったまま、記憶をめぐるようにポツリポツリと語り出す。


「これは……なにかの施設? 見たことのない建物で……大きな光と……他にもたくさん……」


 化け物が居た場所の情報を盗んでいるようで、バラバラなピースを丁寧に揃えていくように、ゆっくりゆっくりと言葉を並べていく。


「出口……砂……ッ?!」


 ラルフが警戒するようにその場から飛び退き、まるで信じられないような物を見たように、その化け物を凝視している。


「何かわかったのか?」


「はい。こいつが来た場所が、わかりました」


 ひたいの汗を拭うようにして、ラルフは俺の方へと向き直る。



こいつら(・・・・)、砂の中の施設から生み出されてます」




*****




 盗賊団の身柄拘束、エルフの少女の救出、謎の生物のサンプル採取と、完璧に任務を遂行してきたラルフにギルド職員から称賛の声が上がっていた。

 けれども彼は挨拶もそこそこに、浮かない顔をしたままギルドの扉を押し開け、俺たちの元へと歩いてくる。


「とりあえずお疲れ様。攫われた子も無傷で盗賊団も一人残らず捕獲、おまけにお土産まで持って帰れたんだから上出来じゃないか」


「任務内容に関して言えば満足してます……けど」


 ラルフは腰袋に入れていた化け物の角を取り出し、目を瞑る。


「ダイキさん、この砂の町がどうしてこんなにも貧しいのか知っていますか?」


 唐突な質問に、俺は無い頭をひねって考える。


「やっぱり、周りが砂に囲まれているために作物も育たなければ貿易もままならないからじゃないかな」


「流石ですね。それに砂漠には人食い芋虫も出ますから、来るにも出るにも命がけです。必然的に食べ物の価値は高くなり、人々は飢え、死ぬか犯罪者になるか売られるか……というのが現状です」


『負の連鎖が重なって今の砂の町がある。と、いった感じですね』


 難しい話についてこれず、ベリルを除く召喚獣達は渡したお菓子に夢中である。


「過酷な環境、その環境に住まう魔物……全ての元凶こそ〝砂〟なんです。しかし今回の件で俺は何か重大な秘密に触れた気がしています」


「それは、化け物が砂の中から現れたことに関係してるんだよね?」


「はい。実は砂の町の歴史はかなり浅いんです――」


 そこからラルフは砂の町の歴史について語ってくれた。


 町が生まれたのはそれこそ何百年も前だが、その頃の名前は〝収穫の町〟。あたりが緑に覆われた、それはそれは豊かな町で、毎日新鮮な野菜や果物がお店に並び、人々は活気に溢れていた。


 変化が訪れたのはつい数十年前……地面に巨大な穴が現れたのだそうだ。


「その場所こそ、アジトに向かう途中で見た蟻地獄だと言われています。その大穴からは湧き水のように砂が噴き出し、ものの数日のうちに町は砂に囲まれました」


「それが砂の町の歴史か」


 ラルフはこくりと頷き、手に持つ角へと視線を向ける。


「あの化け物が砂の中から地上に出てくるまでの道中、確かに人工物の中を歩いてきたビジョンが見えたんです。もし仮に……」


 ラルフは言い淀んだ後、一呼吸置いて口を開く。


「もし仮に、町の周辺にいるあの魔物達全てが、この化け物みたく砂の中の施設から出てきたのだとしたら――そこを潰せば、少なくとも魔物の脅威からは解放されるかもしれません」


 確かに、彼の見たものが真実なら、砂の中にある施設をどうにかしなければ、砂の町はいつまでも危険な魔物達に囲まれた過酷な土地のままだ。


 それに、その施設こそ砂を吐き出し魔物を生み出す役割を担っていると予想できる。なんの目的で作られたのかは謎だが……


「これからどうするんだ? そこを潰しに行くなら、俺たちも協力するよ」


「ありがとうございます! もちろん、しばらく準備して精鋭を集めてから出発するつもりです。危険な任務になるかとは思いますが……」


 ラルフがそう答えた直後、俺の目の前に半透明のプレートが出現した。




【ストーリークエスト:砂の中の魔物工場(ファクトリー)】推奨Lv.50


 砂の英雄候補である冒険者ラルフは各町から腕利きの冒険者を募る。参加者には他の町の英雄候補も名を連ねていた。険しい道のりの先、彼らが砂の中で見たものとは――


クエスト参加冒険者[4/6]

ラルフ

ナルハ

タリス

マリー


???[0/7]


報酬:経験値[82705]

報酬:G[74000]





 参加メンバーのラインナップから見て、今回のクエストはトラップタワー後の時系列だろうか? マリー様に関しては、自国の問題も解決してないのに別の町の大きなクエストに参加するとは考えにくいからな。


「またこれも、連戦が予想される……か」


 そろそろ召喚獣達のストレスが気になってきた頃であるし、これに出発する前に色々と寄り道していこうかな。

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