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砂の冒険者④

※盗賊の会話文を《》に変更しました


※タイトルを統一して数字で分けました

 

 

 見張りの男のレベルから察するに、実力は俺たちに分がある……しかしここは相手の住処であり、攫われた子が人質にでもされたら最悪だ。


 ここは堪えてくれラルフ――


《へへへ、じゃあ俺はヨーイと代わってきまさぁ。あいつ昨日かなり飲んでたから見張り役にならないと思いますし》


 声が近付いてくると同時に扉が開け放たれ、先ほどまで扉の前に立っていた男が現れた。


 幸い、扉の裏側にいた俺たちに気付いていないようだ。


 男が扉から手を離し、ゆっくりと閉まりはじめたと同時に――一気に男との距離を縮め、装備していた盾を大きく振りかぶる。


『青吉、水で受け止めてくれ』


 盾の面ではなくフチで一撃!


 後頭部を盾で殴られた男は直後に水の塊に捕らえられ、音もなく気を失う。


 盾で殴られた段階ですでに気を失っていた気もするが、倒れた時の音で気付かれるのが一番ナンセンス。念には念を入れさせてもらった。


「扉が閉まる音と合わせたんですね……流石です」


「まあ、たまたまだけどね。それよりも、幸運にも1人をノーリスクで倒せたわけだ、これからの攻め方をキチンと決めて救出にあたろうか」


 俺と青吉の暗殺(殺してはいないが)を見て冷静になったのか、ラルフは柄を握る手をゆるめ、深呼吸を一つする。


「……傷跡から情報を〝盗んだ〟時に見た盗賊団のメンバーは6人でした。4人は道中倒した奴らとこいつ、もう1人は部屋の中にいる男――残りの1人の居場所は不明です」

 

 目を閉じ、何かを思い出すようにそう語るラルフ。


「冷静になってきたな、その調子だ。ダリアとアルデは引き続き、中の様子を監視して報告してくれ」


『うん! わかった!』

『太った男が、鼻をほじってる』


 そこまでの報告はいらん。


「つまり、この部屋に居ないだけで、1人以上はまだ何処かに潜んでいるって事を頭に入れておいたほうが良さそうだな」


「はい。ゲヘロが言っていたペットがその1人という可能性はありますが……最低でも加勢が2人以上追加されると考えておいたほうがいいかもしれませんね」


 となると肝心の攻め方だが、まず部屋の中の盗賊達をどう倒すか……


 もっとも、地の利はあちらだが俺たちは先手が取れるというアドバンテージがある。あらかじめ誰が誰を倒すかを決め、SWATのように一気に突入し沈黙させるのが一番シンプルで良さそうだ。


 自分の考えをラルフと召喚獣達に伝え、この作戦で行くことに決まる。


「交代したはずの男が帰ってこないのを不審に思う可能性もありますし、早めに実行しましょう――では、比較的威力が高く、着弾までの時間が短い技を使える人を選びましょうか」


『ダイキ』


 作戦がまとまりそうなタイミングで、隙間から視線を離さぬままに、ダリアが俺を呼んだ。


『どうした?』


「俺は敵へ急接近する技が使える、威力はそれなりだが、道中の奴らと同程度の強さなら問題なく倒せると思う。召喚獣達の中での適役はダリア、次点でアルデかな」


『あの男がソファから立ったぞ!』

『何か話してる』


「なるほど、この2人ですか」


 冷静さを欠かせるわけにはいかないと、ラルフに分からないように、作戦についての返答だけを口に出し、シンクロを用いて2人から様子を聞き出すことにした。


『これが終わったら、次は孤児院の女だ。って言ってる』

『孤児院の女ってポリーナさんの事じゃ……』


「……!」


 人一倍優しい心を持つアルデが、無意識にラルフの方を振り返ってしまうのは仕方のない事だった。


 アルデの表情を見たラルフはすぐに何かを悟り、隙間の方へと視線を向けた。


 その直後――耳をそばだてる必要もないほどの笑い声と共に、再び奴らの会話が漏れてくる。


《なんせあの女も面白いチカラを持ってるからなあ! 人質にすりゃあラルフの野郎も釣れるし、一石二鳥じゃねえか》


《旦那、ガキどもはどうするんで? 孤児とはいえ騒がれると事ですぜ》


《そんなもんよ、邪魔する奴は誰だろうとぶっ……》



「コロス」



 言うのが先か蹴るのが先か――ラルフによって蹴り壊された扉が木片となり、部屋の四方に飛び散った!


 ゲヘロと部下の盗賊達は、襲撃してきたラルフを見て驚愕の表情を浮かべている。


「ダリアは左の男を頼む! 俺は奥の男をやる」


 誰を担当するかまでは決めていなかったが、ラルフが向かう相手は、聞くまでもなく明らかだった。


「『疾風・隼斬り』」


十文字、火の鳥クロス・ファイアバード


 相手が武器を抜くよりも早く、高速の剣が胸元に叩き込まれる――そのまま壁へと打ち付けた直後、二本の閃光が盗賊のLPを削り取った!


「ナイスカバー、ベリル」


『ありがとうございます』


 振り返ると、俺のすぐ後ろまで来ていたベリルが、煙の立ち込める二丁の魔導砲を腕の中にしまっている所だった。ダリアとアルデ組も問題なく終わらせられたようだ。


 問題は……


「これはこれは、ラルフの坊主じゃないか。俺に育てられた技、ちゃんと今でも磨いてるんだろうなあ?」


「……」


 二本の短剣を叩きつけた状態のラルフと、それを巨大な斧で受け止めているゲヘロ。見るからに力が拮抗している。



【盗賊団長ゲヘロ Lv.35】#BOSS



 恐らくラルフは筋力と筋力で戦うようなタイプではない。不意打ちが失敗に終わった時点で、体勢的にはゲヘロが有利だ。


『竜の息吹』


 体勢的には……だが。


 脇から食らいついた、半透明の青の竜によって壁へと打ち付けられたゲヘロ。


 流石にレベルの差が影響してLPはそこまで減っていないものの、起き上がったゲヘロは、やられた2人の仲間と、自分よりも格上の存在に囲まれていることをしっかりと認識したようだった。


「ありがとう青吉君。ダイキさんもすみません、俺……」


「過程がなんにせよ、作戦成功したんだから許すよ――さて、これで6対1だよな?」


 先ほどまで見せていた余裕の表情が一変、ゲヘロは焦った様子でチラチラと出口の方へ視線を向け、少女に繋がっている鎖に手を伸ばす。


「残念だったな。人質作戦も使えないぞ」


「ぐ……」

 

 畳み掛けるように、俺は今しがた解いた拘束具をゲヘロの前に投げ震える少女の前に立った。


 ――その直後



「だ、旦那ぁ! 助けっ…………!!!?」



 悲痛な叫び声と共に、奥の扉から人が飛び込んできた――いや、吹き飛ばされてきた。


 泡を吹いて気絶する盗賊の顔を見たラルフは、ハッとした表情で俺に視線を向けた。


「ダイキさん、こいつが居処の分からなかった盗賊です!」


「じゃあゲヘロのペットとやらはまだ残ってるって事だよな。しかしこのパワーはなんだ?」


 見れば盗賊の男が着ていた金属製の鎧が、何かの形にひしゃげている。


 この形……剣でもなければ斧でも、槍でもない。これは――


(ツノ)?」


 答えを導き出したと同時に、奥の部屋からは重々しい移動音と、床に爪が食い込む音とが近付いてくるのが聞こえた。


「お、おお! いいタイミングだ《キメラ》! こいつらを食え!!」


 現れたのは赤色の目を持つ〝化け物〟。


 キメラと呼ばれたソレは、体をボコボコに肥大させた獣だった。特徴から見て熊に近い生き物だが、そのいびつな形故に、およそ自然の生物とは一線を画している。


「あ……あぁ……!」


 あまりの恐怖に、エルフの少女は腰を抜かしてしまっている。


「得体の知れない相手に近接を送り込むのは悪手か……アルデは部長と一緒にこの子の警護にあたってくれ! ダリアとベリルは戦闘準備、青吉はサポートとゲヘロの見張りを頼む!」


 素早く指示を飛ばし、盾を深く構えて化け物の前に立つ――いままで何体ものモンスターを相手にしてきたが、ここまで気味の悪い生物は初めてだ。



【謎の生物 Lv.35】#BOSS



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