石の町とイベント告知
全ての建物が石をくり抜いて作られた無骨な風貌の町、石の町。
町には既に多くのプレイヤーの姿があり、冒険の町や風の町と遜色のない賑わいを見せている。
「……やったな」
「……やりましたね」
ボロボロになりながらも、たどり着いた町に感動し好奇の目も憚らず、俺たちはボス討伐に手を叩いて喜んだ。
年甲斐もなくとは思ったが、皆で一つの事を成し遂げる事は何歳になっても嬉しいものだな。
クリンさんに至っては感極まって泣きだしてしまっていた。
ともあれ――流石はフィールドボスといったところか、全員がもれなくレベルが一つアップしている。
熱が冷め止まぬ前に、俺はアイテムボックス内にあるストーンゴーレムの素材をケンヤにトレード申請を送り、並べた。
お、MVP報酬も貰えていたのか……ボスドロップなら結構値打ちがあるんだろうな、高く売れるといいが。
――これも当然渡しておく事にする。
「本当にいいのか? ……って、持ちかけたのは俺だし変な話だが」
トレードの品々を見ながら、ケンヤはさも申し訳なさそうに頭を掻く。
「ああ。別に無欲ってわけじゃないけど、貴重な体験もできたし満足してるよ。そこそこ金も貰ったしな」
今回は俺が手伝う形だったが、またどこかのタイミングで彼らに助けを求める事があるだろう。
その先行投資として受け取ってもらいたい。彼らのギルドホームも早く見たいからな。
「ありがとうございます、ダイキさん、ダリアちゃん。ギルドホームが完成しましたら、是非いらして下さい」
「ダイキさん助かりました! 感謝しっぱなしです……」
「ほ、本当にありがとうございます。金太郎丸の事も、助けてくれて嬉しかったです!」
皆から感謝されるのはくすぐったいものがある。
引き受けた事を最後までやり通してこその人助けだと思ってるし、彼らが目標を持って諦めなかった結果だと思う。
何はともあれ、無事にボスを討伐できてホッとした……。
「あ、そうそう。クリンさん。ちょっと金太郎丸を元の姿に戻してみてくれませんか?」
「は、はい! 金太郎丸!」
クリンさんの一声で小熊だった金太郎丸は元の姿へ……いや、更にでかく逞しく進化した姿になっていた。
茶の体毛に覆われた額と手足を覆う金属だけでも、より力強いイメージを受ける。進化というよりも《強化》といった変化の仕方だ。
元々鋭利だった大爪も、金属で更に凶悪さが増している。
「えぇ!? どうしたの金太郎丸!」
進化という概念を知らなかったのであろうクリンさんは、いい意味で変わり果てた金太郎丸の姿に心底驚いていた。
誰だって驚くな、俺だってダリアが金属の鎧に包まれたら驚くだろうし。
「クリンさん、差し支えなければ金太郎丸のステータスを見たいのですが」
動揺しながらも了承してくれたクリンさんのステータスを覗き、金太郎丸のステータスを開く。
名前 金太郎丸
Lv 10
種族 武戦熊
筋力__65
耐久__48
敏捷__29
器用__22
魔力__16
召喚者 クリン
親密度 16/100
――やはり進化の境目はレベル10か。
ともあれ、ステータスもえらい事になってるな。盾役としても活躍できそうな心強い数値になっている。
「これは、どんな……?」
「召喚獣に設けられた第二ステージ。進化です」
興味深そうに金太郎丸を見る雨天さんを始め、ケンヤ達にも紅葉さんという前例を用いて説明する。
二人に共通するのは《召喚獣のレベルが10になった》事であり、これが進化の条件だという線が濃厚だと付け加える。
続けて、クリンさんに魔力解放等のアクションが起こせるか否かを聞くと――
「え、えっと……解放? っていうのができるみたいですね。私の筋力を1/4にまで減らして金太郎丸を強くできるみたいです!」
金太郎丸が更に強化されるとなんとなく把握したのか、クリンさんは嬉しそうに文章を俺に見せてきた。
進化によるステータスアップに伴い、何らかの条件を満たしたという事か……しかし、解放にはやはりリスクが伴うようだ。
項目は違えど俺がダリアにMPの3/4を支払っているのと同じだ。
「クリンさんにも対価が発生するとは……。てっきりダリアに限って大食いなのかと……いてて!」
暴れるダリアが体でそれを否定する。
ともあれ――ダリアの進化に伴い、俺の支払う対価も変わってくるのだろうか?
今度はLPを半分に〜とか、流石にちょっと検討だな……。
ギルド設立に急ぐケンヤ達パーティを見送った後、一旦ポータルで登録を済ませ、辺りをぐるりと見渡した。
多くのプレイヤー、NPCで賑わう冒険の町や、豊かな自然と和やかな空気漂う風の町。
――そのどちらとも違う、無骨な戦士達の町。そんな印象を受ける。
町行く人々もNPCを含めて皆が武装し、NPC間でいざこざや喧嘩が繰り広げられ、男達が酒を持ち寄り騒いでいる。
中でも一際異彩を放つのが、巨大な円状のコロシアム。
来るまでのボスが剣闘士を模していたのも、このコロシアムの存在とリンクしていたらしい。
物は試しと、固く閉ざされた入り口の扉の前まで行くと、なにやらパネルのようなものが浮かんでいた。
パネルには侵入禁止を意味する罰印が表示されている。
タップしても、反応はないようだ……。
『イベント情報発信! イベント情報発信!』
突如、パネルから狂ったように連呼される機械音に思わず飛び退く。
先程までバツ印を表示していたパネルに、つらつらと長い文章が並んでいる。
あーびっくりした。心臓バクバクしてるよ。
『二日後の午前十時より、サービス提供一週間を記念し《J.P.サーバー:トーナメント戦》《巨大迷宮インフィニティ・ラビリンス》を開催致します。運営より皆様に一斉送信されたメールの内容をよくお読み下さい。皆様のご参加、お待ちしております。――――二日後の午前十時より……』
パネルから町全体に流れるアナウンスを聞き、釣られるようにプレイヤー達が次々にメール画面を開くのが見える。
俺も例に漏れず、メール画面に届いていた運営からのメッセージを開き、スクロールしていく。
【第一回運営イベント情報】02/28/20:14
サービス提供一週間を記念し、イベントを開催致します。内容は以下の通りです。
《巨大迷宮インフィニティ・ラビリンス》
期間:03/01/10:00〜03/02/10:00
場所:冒険の町時計台前
形態:1PT/6P 死亡時に1時間のペナルティ
内容:冒険の町に突如として現れたダンジョン。内部は縦横35kmの巨大迷路。レベル5〜50までの幅広いモンスター層に加え数多の罠が死へと誘います。また、最後には獲得したポイントに応じた特典が付きます。ライバルを蹴散らしポイントを奪うのも良し、イベントモンスターのドロップを見つけるのも良し、専用マップとお宝レーダーを頼りに隠された宝箱を見つけ、限定アイテムを手に入れましょう。
《J.P.サーバー:トーナメント戦》
期間:03/21/10:00〜03/22/15:00
場所:石の町コロシアム内
形態:個人戦/団体戦1PT/6P/混合戦1PT/2P
内容:王の都を統べるエルヴァンス・ロウ・ダナゴン2世が戦士を集めにやって来ます。戦士達はトーナメント形式で己の実力を王へと示し、注目度を集めましょう。
「盛り上がってきたな」
ダリアを挟むように胡座をかき、石の上でメール内容を読み切った俺は自然と口元が緩んでいる事に気が付いた。
まず迷宮についてだが、縦横35kmともなれば途方もなく広いと言わざるをえない。
その上、迷宮内部は巨大な迷路で高レベルモンスターが徘徊してるともなれば運の要素が強い。
場合によっては最高レベルである《レベル50》のモンスターにエンカウントする可能性もあるわけだな。
そしてお宝レーダーなる存在と、メール文章にある『宝箱を見つけ』という部分。加えて『ポイントを奪う』という部分から察するに、モンスターもしくはプレイヤーに見つからないように行う宝探しだと予想できる。
プレイヤー同士の戦いPvPもそれとなく煽っているな。
PvPは、続くトーナメントなるイベント用のデモンストレーションかな?
――ともあれ、死に戻りのペナルティは痛いが、限定アイテムは是非とも手に入れたい所だな。
そしてトーナメントだが舞台はここ、コロシアムで行われるようだ。
俺にはダリアがいるし、召喚獣がプレイヤーとしてカウントされれば個人戦は勝機がないな。
ダリア抜きではまともな勝負にならないだろうし。本腰入れるなら団体か混合という事になる。
団体戦も1PT/6Pとあるから、俺とダリアの二人だけではフルパーティに勝つのは難しいだろう。
イベントまでにプレイヤーを探して、臨時パーティを組む必要がありそうだな。
そして、俺たち召喚士の本命は混合戦と言える。
1PT/2Pとあるから、個人戦で召喚獣が認められなければこちらに賭けるしかない。
勝つよりなにより、他の召喚士達もこれに参加してくるだろうからそっちの方が楽しみだ。
ともあれ、運営さんもワクワクするイベントを設けてくれるじゃないか。
とりあえず俺たちが出来ることは、この日までになるべく多くレベルを上げる事かな?
ダリアとの連携も磨いていかねばなるまい。
「頑張ろうな、ダリア」
ダークレッドの髪を一撫でし、俺たちは風の町へと向かう。
標的は勿論リザード達だ。多種多様の武器や魔法を使う人型に近い彼らなら、対人戦に近い戦闘も行えるだろうし、経験値も多い。
メールの内容を見たプレイヤー達も我先にとフィールドに出てくるだろうから、モンスターの取り合いも出てきそうだな。
――ああ、今日明日は混むだろうな。
「よし、決めた」
有休を取ろう。