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砂の冒険者①

※第222部「名付けの儀」と第223部「掲示板#21」の間に新しく「契約の儀」というお話を追加しました。しおりがズレている可能性があります、確認してみてください。

 

 仕事から帰ってログインした俺は、懐かしい場所へと足を運んでいた。

 ザッザッと砂を踏みしめながら、道無き砂漠を歩いていく。


『今日はどこにいくの?』


「ん? 今日は昔の友人に会いに行こうと思ってね」


 隣を歩くダリアの質問に、俺はある少年の顔を思い浮かべながら、はるか前方に見える町に目を向けた。



【ストーリークエスト:冒険者の手引き】



 今日の目的はこれである。


 本当は水の町のクエストをそのまま進めてみたかったのだが……青吉を連れてレベルの高すぎる場所に行くのは気が引けたため、レベリングも兼ねて、先に砂の町のストーリークエストを進めようと考えた。


 ここに出てくるサンド・デビルもかなり高レベルなモンスターなのだが、奴らの弱点属性である水属性を操る青吉には戦いやすい相手と言える。


 それにここは以前、港さんとレベル上げで何度も通った場所である。モンスターの行動パターンや技の種類、レベルも全て把握済みだ。


「皆、いつでも戦闘できる準備だけはしておいてほしい。いつ出てくるか分からないからね」


『はい』


 俺の言葉にいち早く返事をしたベリルは羽を展開させ、自動追尾システムを起動させた。


『追尾システム起動……オヤスミナサイ』


『こら! 起きたばかりでしょう!』


 相変わらず仲のいいコンビである。


『俺はなにをしたらいい?』


「青吉は最初、お姉さん達の動きを見て戦い方を覚えるんだ。魔法はダリア、武器の扱いはアルデを参考にするといいよ」


『あねさまと、ママ……わかった』


 買ったばかりの防具と武器を身に纏った青吉。どこからどう見ても〝着せられている感〟の強いその佇まいがとても可愛らしい。


 そして一人称が〝俺〟なのもまた、ませてる感じでちょっと可愛い。


『あ』


 何かに気付いた部長がピクリと身を起こし、気配のする方へと視線を向けた直後――砂の中から二体のサンド・デビルが現れた!


「さっそく来たぞ! 青吉は俺の近くへ、アルデはまだ待機。距離のあるうちにベリルとダリアが応戦!」


 俺が指示を出すよりも早く、ダリアの体の周りには無数の黒い塊が浮遊しており、宙に浮くベリルは両手に付けた巨大な銃口をサンド・デビルに向けていた。


 真っ先に突撃していった自動追尾システムがサンド・デビル二匹の間にザクリと埋まり――地鳴りと共に連鎖爆発を起こした!


 サンド・デビル二匹のLPが三割ほど減少している。


『システムヲ再構築シテイマス……残リ6秒……』


 自動追尾システムは、ぷすぷすと煙を立てながらフラフラと戻ってきた。


『長いです!!』


 ベリルは自動追尾システムの回復を待たずして、両手の銃口から二発の光線を吐き出した! 同時に、ダリアの魔法もマシンガンのように連続して射出されていく。


 連続して起こった砂煙でサンド・デビル達の姿が確認できない――と焦っていたが、足元の青吉からけたたましいほどのレベルアップ音が流れてきていることで、戦闘の結果を知ることができた。


「一切近付けさせる事なく撃破か……」


 遠距離組が優秀すぎると、俺たち近距離組の仕事が何もなくなってしまうのが悩ましいところだが――これも、ベリルと青吉のレベルが姉達に追いつけば少しは解消されるだろう。


 これから先、召喚士のクラスクエストを終わらせたり、イベントに向けた全体のレベル上げと親密度上げ……そして真名解放と固有武器の取得――と、やる事はてんこ盛りである。


 もっとも、明日は紅葉さんと約束したフルーツ狩りの日であるから、恐らく丸一日、戦闘はお休みになると考えられる。今日は少しだけ召喚獣達に頑張ってもらおう。




*****




 1時間近く砂漠でレベリングをした後、俺たちは改めてストーリークエストを進めるべく、砂の町を歩いていた。


 久しぶりに来てみた感想だが、やはりこの町だけ、他の町に比べても顕著に貧しい印象を受ける。


 道の脇で痩せ細った男が横になっていたり、路地裏でこちらの様子を窺うようなギラついた瞳が浮かんでいたり……


『パパ、砂の町ギルドってどの建物だ?』


「確か右手奥に見える大きな建物がそうだよ。ギルドに入ったら特に、俺の側から離れないことな」


 俺の言葉に、青吉は素直に頷いてみせる。


 その体は進化の影響で少しだけ逞しくなっており、アルデと並ぶともう姉と弟が逆転して見える。


 幼い顔立ちのアルデと違い、海竜神様(母親)譲りの顔立ちをしている青吉。身長が伸びるスピードは、恐らく四姉妹の誰よりも早い。


『ママ、俺の側から離れないでね』


『はいはい〜!』


 ツンツンした物言いとは裏腹に、アルデとしっかり手を結ぶ青吉。アルデはどこか嬉しそうな様子でついて行っている。


 青吉が色男すぎる……


『わたしはごしゅじんの側を離れないよー』


『よし、手を繋いであげるから自分で歩いてみよう』


 今日も平常運転な部長に手を差し出すと、部長はのそのそと俺の頭の上から降りていき、ダリアの頭の上へと移動した。




*****




 入り口を抜け中に入ると、まずはじめに目に付いたのが、建物のあちらこちらに貼られている〝お尋ね者〟の人相絵。


 数名の顔の上にはナイフが刺してあるのが印象深い。それが意味するのも分かる。


 何処かで見たことがありそうな顔もあったが……はて、誰だったか?


 中央にある大きな石の掲示板には、数える程しかない依頼書が寂しそうに貼られていた。

 王都では人をかき分けなければ見られなかった掲示板の前に、人は誰も立っていない。ちらほらいる冒険者も、やる気のなさそうに机に突っ伏している。


 備え付けられた木の机と椅子は所々が折れたり傷んでおり、冒険者はおろか職員もまばら……ギルド内に活気と呼べるものは存在しなかった。


 砂の町ギルドの内装も外装と同じく砂色の石でできており、受付NPC曰く、砂の町の建物は砂漠の砂を固めて造られた物がほとんどだという。強度は通常の石材よりも軽く、脆い。


「行方不明者の捜索任務? ええ、依頼は来ていますが……正直に言いますと、個人が依頼主の場合、報酬が期待できない場合がございます。もう1人の方にもそうお伝えしたのですが、彼はそういう人(・・・・・)なので……」


「そうですか」


 申し訳なさそうに頭を下げる受付NPCに、返答に困った俺はごまかすように頬を掻く。


 ストーリークエストに記載してあった内容は、砂の町ギルドで『行方不明者の捜索』任務を受けるというもの。

 俺としてはクエストが進みさえすれば、報酬は別に重要ではないのだが――貧困がここまで深刻とはな……


 恐らく何かの施設、または別の町からの直々な依頼等の報酬なら期待ができるのだろうが、これでは余計に依頼の遂行率も下がるだろう。


 なにか打破するイベントが起きれば話は別なのだろうが――



「こらアカネ! これから兄ちゃんは仕事だって言ってるのに、まったく」


「だってお兄ちゃん、アカネがエド兄に勝ったら遊んでくれる約束だったじゃない!」



 そんな時だ、ギルドの扉が荒々しく開かれ、1人の青年と少女が入って来たのは。


「ダメだ今日は! 大人しくシスターの所帰れ! 帰ったら遊んでやるから」


「い・や・だ!」


 まるで活気のないギルドには不釣り合いな程騒がしい会話。彼等の登場に他の冒険者達は「またか」といった表情を見せ、再び机に突っ伏した。


 青年の方は額に黄色いバンダナを巻き、その上に防塵ゴーグルを着けている。両方の腰に二本の短剣を差しており、防具は身軽な革製で、よく使い込まれているのが分かる。

 アカネと呼ばれた少女はツギハギのある汚れたワンピースに身を包み、必死に青年にしがみついている。


 受付の人は青年と少女を見るなり「今日もお元気そうで」と、微笑を浮かべていた。


「こんにちはラルフ君、いまちょうど貴方が受けた依頼を一緒に受けたいという方が来てますよ。名前はえっと……」


 受付の人が書類に目を落とすと同時に、俺は青年に向けて声をかける。



「久しぶり、大きくなったな」



 砂の町のストーリークエストなら当然、メインとなるキャラクターは彼――ラルフ。


「え? ……えっ?!」


 俺の事を胡散臭そうに見つめていたラルフの表情がみるみるうちに変わっていき、アカネちゃんを制止する手も止めて、大粒の涙を流し出す。


「あれ、お兄ちゃ……?」


「い、異人様!!」


 ラルフは一瞬にして俺との距離を詰め、まるで有名人にでも出くわしたかのように、輝く瞳で両手をとった。


「やっと会えた! 異人様、俺あれから頑張って腕磨いて冒険者になって、ああ、盗みはもうやってません! それと今は……」


 俺の手をぶんぶんと上下させながら、恐らく俺に会ったら話そうと考えていたことを一気に吐き出すラルフ。マリー様との再会時よりも強烈だ。


「お、おいおい、話はちゃんと聞くからさ――それと、アカネちゃんはあのままでいいの?」


 あまりの迫力に気圧されながらも、やっとの思いで俺は彼女の方を見るように伝える事に成功した。

 ラルフはそれに「はい?」と答えながら、いましがた自分が立っていた場所の方へ視線を戻す。


「あ……」


「あたま、ぶった、お兄ちゃんのせいで、お兄ちゃんの」


 そこには力尽きたカブトムシのように、手足を天井へと伸ばしながら、必死に涙を堪えるアカネちゃんの姿があった。


「アカ……」


「お兄ちゃんの……!!」


 ダリアが無言で両耳をふさぐ。


 そして、ギルドが倒壊するのではないかというほどの大絶叫と泣き声が響き渡り、砂の町のストーリークエストが幕を開けたのだった。

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