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力の解放、変化は突然に

またまた遅れて申し訳ありません。今後ともよろしくお願いします。

 


 (もや)が晴れ、アルデの姿がはっきり確認できるようになる――と、その場にいた誰もが、その異様な姿に息を呑む。


『これはこれは、揃いも揃って……』


 どこか嬉しげな声色でそう呟く海竜神。


 眼下で己を睨むその〝黒鉄(・・)〟を、興味深そうに見据えている。


『あおきち』


 ノイズの混ざったような、悲しそうなアルデの声。


 全身に黒の鎧を纏い、顔を覆うような形で同色の兜を被っている。


 形は以前アルデが付けていたヤクの骨の被り物とソックリで、しかしどこか禍々しさを感じさせる突起が付いている。


 彼女の背中にぐるりと円を描くようにして並ぶのは、俺がアルデに与えた数種類の武器達。その全てが黒塗りで、緑のオーラを纏っていた。


 それは、まるで羽のようにも見えた。


 もはや先ほどまでのアルデとはまるで別人。両者は睨み合い、動かない。


「魔王って、部長のスキル欄にあるものと何か関係が?」


 部長がこぼした魔王というワード。今のアルデの姿は、確かに魔王のような邪悪な何かに見える。


『アルデのも紛れもなく魔王術。けれど、わたしたちはまだ足りてない(・・・・・)。必ず暴走する』


 俺の問いに、部長は普段の雰囲気とは全く別の声色でそう答えた。やはり彼女は魔王術……あるいは魔王そのものについて、何か知っているように思える。


 アルデが動き出す。


 目標は当然、海竜神!


 浮遊する武器達も、アルデの動きに追従する。


『こんな珍しい相手となら是非とも全力で戦いたい所だが、制御できないままでは使われるだけだぞ』


 弾丸のように駆け出したアルデに対し、海竜神は少し残念がるようにかぶりを振ってみせた。黄色の瞳に稲妻が走る。


「アルッ……!?」


 攻撃の予兆を察した俺が声を上げるよりも先に、素早く地面を蹴ったアルデが大きく飛び上がり、海竜神の懐に飛び込んだ。


 背中で回転する武器の円に手をかざし、その中から斧と槍を抜いたアルデ。左手に持つ斧を海竜神の鱗に叩き下ろし、右手に持つ槍を一気に突き立てた!


『……!』


 微量だが、明らかにダメージが通っている。


 その証拠に、少しだけ表情を歪めた海竜神の目の色が変わっている――




『……ごしゅじん、あねき、ベリル、なんとか耐えてね』




 部長のその言葉を最後に、俺の視界が大きく歪んでいく。


 音も、感覚も、これ……は?




*****




 自分が地面に倒れている事に気付いたのは、果たしてどのくらい時間が経った後だろうか。俺の横には、俺と同じような形で倒れるダリアとベリルの姿があった。


「いったい何が……?」


 合わないピントに不快感を抱きながら、俺は必死に部長とアルデの行方を目で追った。


 少し先で倒れているアルデの姿が見える。


 その先で、海竜神と対峙する部長の姿が見えた。


『あ、おきたー? ごめんね、やっぱり制御ができなかったー』


 話し方は普段の部長に戻っている。

 海竜神は部長に向けていた視線を、俺の方へと移動させた。


『お主の召喚獣は厄介な才能(・・)ばかりだな。暴れ牛の暴走を止めたこの小さいのもまた、魔王の器。もっともこっちは……』


『お菓子……むにゃむにゃ』

 

 気持ちよさそうに寝息を立てるアルデに呆れながら、海竜神は可笑しそうにそう呟いた。


「いったい何が?」


 なぜ俺たちは倒れていたのか。


 部長が何をしたのか、状況が整理できていない。


『わたしの魔王術だよー。やっぱり皆、寝ちゃったね』


 このねぼすけめ。と、部長は俺たちの事を馬鹿にしつつ、得意げにそう答えた。


 寝ちゃった? それもあの一瞬のうちに……ということは、効き目の早い、強力な集団催眠を促す術ということか?


 自己強化に近いアルデの魔王術、そして部長の魔王術。


 名前は同じだが、その内容は全くの別物だと考えられる。


「魔王術とは欲望の具現化・あるいは全体化。限られた者にしか扱えない、禁術(・・)だ」


 いつの間にか人の姿に戻った海竜神は、部長を抱きかかえながらこちらへとやってくる。


「青吉は……!」


「まてまて、お主もすぐ熱くなるな。もしや、暴れ牛の性格は遺伝か?」


 反射的に柄を握った俺に対し、やれやれと額に手を当てる海竜神。そのまま彼女が指を鳴らすと、水の底から気を失った青吉が浮かび上がった。


 そのまま地面に降ろされる青吉。


 アルデは未だ寝ぼけているが青吉の気配を感じたのか、抱き枕のように抱えて眠りについている。


「最初から殺す気なんて無かったんですね」


「馬鹿め、当たり前だろう。どこの世界に自分の子を殺そうとする親がいるんだ」


 心外だとばかりに怒りを露わにする海竜神。俺も、アルデと同じように怒りの感情で冷静な判断力を失っていたのかもしれない。


 思い返すと、先走りすぎて恥ずかしくなってくる。


 状況把握ができなかったのはベリルも一緒で、ずっと俺の後ろでことの行く末を見ていた彼女が、恐る恐る顔を出す。


『主人様……』


「ベリル、不安にさせてごめんな。色々とトラブルはあったけど、とりあえずもう大丈夫そうだ」


 今にも泣きだしそうなベリルの頭を撫でている間に、部長を抱いた海竜神が俺のすぐそばまで来ていた。


「我の言葉が足りなかったために、混乱させてしまったのは悪かったな。なにせ久方ぶりの会話だ、許してほしい」


「……正直、何が何だかでしたよ」


 ため息と共に、一気に力が抜け肩を落とす俺に、海竜神は笑みを浮かべた。


「我の意図を理解していたのはお姫様だけだったか」


『やめて。その呼び方』


 冷やかすような海竜神の態度に、露骨に不満を露わにするダリア。


 ダリアは青吉が攻撃された時から催眠にかかるまで、ずっと腕を組んだまま動かなかった。海竜神が言うように、俺たちの中で唯一彼女だけは青吉が攻撃されたわけでは無いことを理解していたのだろう。


 この冷静さは昔からだが……なんだろう、海竜神の言葉に引っ掛かりを感じる。


「さて――」


 俺の思考を遮るように、青吉の方へと体を向けた海竜神が口を開いた。


「そろそろ目覚める頃だろう。変化も既に始まっている」


「変化?」


 その言葉につられるようにして視線を動かすと、未だ意識の戻らない青吉の額にいつの間にか埋め込まれた宝石が光を放ち、その体をゆっくりと覆っていく。


 額は海竜神が何かを施した場所……ということはつまり、この現象は海竜神によって引き起こされたと考えるのが適当だろう。


「あっ!」


『あ』


『えっ?』


 その変化は、突如起こった。


『縮んでるー』


 興味津々な様子の部長が言うように、青吉の体を包んでいた光――数メートルにわたる大きな光――が、まるで空気の抜けた風船のように一気に縮んでいくのが見えた。


 やがてその光は別の形となり、光が弾けるとそこには……


『男の子になった』


 少年の姿へと変わった青吉がいた。

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