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水の町

 

永らくお待たせいたしました。

色々あって更新ができませんでした、詳しくは活動報告を読んで見てください。


また頑張ります。

これからもよろしくお願いいたします。

 

 海底に栄えた巨大な町――水の町。


 周囲に結界のような何かが張られているのか、ドーム状に空気の塊が存在しており、町の中までは水が入ってこない不思議な状態になっている。


 プレイヤーや町に住む人々も普通の洋服を着て生活しているようだ。


 建物は全てが白い石材で造られており、その統一感も相まって、今まで訪れたどの町よりも美しく、そして平和に思えた……パニック状態となっている町の人達を除けば。


 恐らく、割れた海が原因だろう。


「本当は正規の手続きを踏まねば町に入ることを許されないのだが……我は例外だ」


 人々が慌ただしく動いている中で、それをやってのけた張本人たる海竜神様は、どこ吹く風と涼しい顔をしている。


 町に来ていたプレイヤー達は状況が理解できていないようで「謎の超美人NPC降臨!」とか「何かのイベントか?」などと言いながら、視線を海竜神様とNPCとの間で行ったり来たりさせているのが見えた。


 海を割ったのは流石に目立ったが、ただ町中を歩くだけでもこんなに目立つとは……。


 四姉妹を連れているだけでも目立つため、注目が集まることに関しては既に諦めている。


「海竜神様は普段、こうして人前に出ることはあるんですか?」


 俺の質問に海竜神様は遥か昔のことを思い出すように、懐かしむような表情で答えてみせた。


「我は多くの時間を水の中で、竜の姿で過ごしているからな。人の姿になったのは――これが三度目だったか?」


 あいにく水の町のストーリーは進めていなかったから予備知識がない。


 海竜の寿命がどの程度なのかは不明だが、人のそれよりも膨大であることは明白。海竜達の親である海竜神様は、水の町ができる前から存在している可能性もある。


 今日のことは町の歴史にも刻まれるだろう。


『この町の近くに住んでいるのはなんで?』


「それは町を守るためだよお姫様(・・・)。我らが守っている理由は……少し前に、ある女と約束を交わしたからだ」


『……』


 お姫様呼ばわりされたダリアはなぜか不機嫌な顔になり、そのまま黙ってしまう。

 それにしても海竜神様や他の海竜達が町を守る理由が人間との約束とは。


「あなたと約束を交わしたその人は、なんという人物ですか?」


「エリローゼだ……美しい娘だった」


 俺の質問に、海竜神様は懐かしむように遠くを見つめながら、ポツリとそう呟いた。


 エリローゼ。


 若かりし頃のナルハと共に行った英雄遺跡。そこにあった像の一体に、半人半魚の女性がいたことを、俺は覚えていた。


「……八英雄の? 舞姫と呼ばれた方ですよね」


 舞姫エリローゼと直接約束を交わしたのだとすれば、確かに懐かしむのも無理はない。


 彼女は100年前に活躍した英雄だから。


「そもそもこの町の結界はあやつが人間と人魚の共存を願い作ったもの。我らは別の方法で結界を通ろうとする者をただ排除する存在だ」


 足取り軽やかに、淡々と語る海竜神様。


 特別な存在である海竜神様なら、ストーリークエストでも語られない部分まで、全て知っているような気がしてならない。


「エリローゼ様は、不法入国者を恐れていた……ということですか?」


「そうだ。あの娘は魔法使いとしての素質もることながら、特に先のことを見通す力に長けていたのだよ。舞姫が危惧していた種類の侵入者(・・・)は未だ見ていないが……あの男が居るかぎり、それも時間の問題よ」


 意味深な言葉を呟いた海竜神様はチラリとベリルの方へと視線を向け、すぐに興味を失ったように逸らす。


 着いたぞ。


 海竜神様の言葉につられ、俺たちも足を止め、その建物を見上げる。


「これは……」


「我の家――になるか? もっとも、玄関(・・)から入るのは初めてだが」


 白色の岩が幾重にも重なってできた洞窟と、入り口に建てられた祠。

 祠の前には新鮮な魚や野菜を使った料理が山のように並べられ、なぜかその場所に一人、小さな女の子が祈るように座っていた。


 海竜神様はその女の子の方へと視線を落とす。


「――我は野菜を好まんと言うたろう。アリル」


 俺たちが近くまで来た事にも気付かず、祈りを続ける少女。海竜神様は困ったような口調で声をかけた。

 女の子は「はっ!」とその身をビクつかせながら辺りを見渡したのち、ゆっくりと振り返った。


「え? ……か、海竜神様ぁ?!」


「この姿で会うのは初めてだな。客を入れたいのだが通してくれるか?」


 アリルと呼ばれた少女は驚倒しそうになっているが、御構い無しにスタスタと祠に向かっていく海竜神様。


「そ、その者達は誰ですか?! ぎ、魚人族でもない人間が海竜神様に招かれるなんて……」


 少女は魚人族だった。


 といっても、ヒレのようなものが耳の部分に付いているだけで、その他は人間と大差のない見た目をしているが。


 海竜神様よりも明るい青色の髪を振りまきながら、混乱する頭で俺たちに視線を向けている。


「此奴らは我の大事な客人だ。海を割った件も含め、驚かせてすまなかったな」


 と、海竜神様は優しい口調でアリルちゃんに言い、祠の奥に進んでいく。


 未だ俺たちに驚愕の表情を向けてくる少女に頭を下げつつ、手招きする海竜神様の後を追った。

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