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海竜神

 

【海竜神 Lv.???】#SPECIAL BOSS


 なぜかレベルは不明だったが、そんなものはもはや必要なかった。


 格が違う存在。

 戦わなくても分かるほどに。


 今まで戦ってきたどの敵よりも強い重圧がパーティ全域にのしかかる。

 俺やベリル、アルデと部長もその規格外(・・・)をただ見上げるのが精一杯で、とても敵う相手ではないことを感じとっていた。


『――海中で我の子が見えたが……なぜだ? 見覚えのない子だな』


 耳ではなく、頭の中に直接響く低い声。

 間違いなく、あの竜の声だ。

 巨大な竜は、目の前で固まる青吉を見下ろしながらその黄色い瞳をゆっくりと細めた。

 俺たち全員を観察している。


『幼い頃にお主らが攫ったというなら辻褄が合うが、どうだ?』


 そして――再び放たれた重圧。


 ベリルは震える身を寄せてくる。


『あ、青吉は拙者の……』


『なんだ? はっきりと言え』


 明確な〝死〟を前に落ち着いて話しなどできるはずもない。勇気を振り絞ったアルデだが、うまく言葉が出てこないまま巨竜に一喝されてしまう。

 先ほどまで聞こえていたはずの波の音や木々の揺れる音が一切聞こえない。

 恐怖と緊張がこの空間を支配していた。


 そんな中、巨竜の圧に唯一気圧されず平然としている者もいた。


『お城作りの邪魔なんだけど』


 ダリアである。


 足元には、近年稀に見る超大作のお城が完成しつつある。


『お主……ほう、これはまた面白いものを見たな』


 ダリアに目を向けた巨竜が一瞬――動揺したように見えたが、直後、ダリアの存在に興味を持ったように語り出す。


『我の圧に耐えるか。これもお主の親の影響か? やはり、手強い手強い』


『ダリアの親は、あそこに固まってる人だけど』


 どこか嬉しそうに語る巨竜に対し、ダリアは一切怯むことなく俺の方へと指差した。


『青吉はこーんな小さい頃からアルデがとても可愛がって育てた。ダリアも、部長も、全員で育てた。お前は親じゃない』


『言うじゃないか』


 ダリアの言葉を受け、巨竜は驚いたように唸ってみせる。その後、再び青吉へと目を向け、興味深そうに頷いた。


『我が子にこんなにまで敵意をむき出しにされたのは初めてだな。余程、そこの小さいのを信頼しているらしい』


 見れば、青吉は震えるアルデを庇うような形で巨竜と対面していたのだ。

 俺たちへの威嚇を解いたのか、ここで初めて体の自由が戻ってくる。

 俺はすぐにベリルを抱え、砂浜へと駆けた。


「あなたが海竜神か?」


 マイヤさん達から聞いていた、水の町の守り神。そして青吉達海竜族の親。

 既に最初の頃の威嚇状態には戻らなかったが、それでも海竜神は俺に疑いの目を向けている。


『お前がこやつらの親か』


「はい。召喚士のダイキと申します」


『召喚士……なるほど』


 ポツリと呟く海竜神。


 その直後――まばゆい光を放ちながら巨竜のシルエットがみるみるうちに小さくなり、人の形へと変化していくのが見えた。


 人にも変身できるのか……?


 光の消えた場所に立っていたのは、青色の着物を着た青髪の女性。竜人族のアリスさんと同じような角が耳の部分に生えており、青の尻尾も見えている。


「脅かしてすまなかったな。元より、我が子のこんな態度を見せられては威嚇する必要も無かった。お主らは我が子を攫う者とは違うようだ」


 人間の姿になった海竜神は妖艶な笑みを浮かべ、未だ警戒心むき出しの青吉へと手を向ける。


「お主らに来てもらいたい場所がある。この子は少し預からせてもらおう」


 その直後――青吉の体が、先ほどの海竜神の時同様の光に包まれ、ちょうど魔石サイズの宝石へと姿を変えた。


『あ、青吉ッ!!』


「落ち着け、とって食ったりせんよ。ましてやこの子は我が子。少し預かると言うたろう?」


 動揺するアルデを制止しながら、今度は海の方へと手を向ける海竜神。


「我の住処は機人に毒だろう。町の民が驚くかもしれんが……背に腹はかえられぬ」


 そう言い、その手を振る――と


「海が、割れていく……」


 まるで奇跡を見せられているようだ。

 はるか下に小さく見える町までの道が、一瞬で現れたのだ。

 海竜神は何食わぬ顔で道を歩き出す。


「ほれ、早くついて来い。他の我の子らがこの〝溝〟に落ちたら困る」


 青吉を連れ去られたまま帰るわけにもいかず、俺たちは海竜神に言われるがまま、水の町へと続く道を歩き出した。

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