水の町の守り神
上から見た限り、現在毒沼にいるポイズントードの残りは全部で15体。
『緑色になってから出直して』
『色で不合格なのか』
気に入っていたカエル達にも容赦のない攻撃を加えていくダリア。ポイズントードの紫色とマダラ模様がお気に召さないらしい。
俺たちのパーティーはこのエリアの適正レベルをふた回り以上も上回っているため、以前は目前まで迫る勢いだったポイズントード達も、周囲5メートル以内に入る前には倒されてしまっている。
その範囲はダリアとベリルの射程圏内である。
格上のポイズントードを倒すたびにベリルのレベルアップが発生しており、今やレベルは18。そして、技の威力もレベルアップにつれ増していき、見るも哀れな特攻攻撃を見せる自動追撃システムにも変化が見られた。
『左から四番目をお願いします!』
『敵モンスター発見。攻撃ヲ開始シマス』
ベリルの指示に、自動追撃システムは口をパカパカさせながら応え、指定された位置にいるポイズントードへと突進を開始する。
直撃――そして起こった小さな爆発と、煙を上げ戻ってくる自動追撃システム。
『目標沈黙。少シ休憩シマス』
『こら! すぐにサボろうとしないでください!』
煙を上げながら肩の上に着陸しようとする自動追撃システムを叱るベリル。
スキルレベルが上がった影響か、発言もかなり自由になってきているが、攻撃手段は単なる突進から爆撃突進へと変わってきている。
自動追撃システム自体にLPなどは存在しないが、彼? 自体の耐久値も上がっているらしく、この爆撃突進には合計三度耐えることができるようだ。
『アルデー、紫ヌルヌルが近くまで来た』
『任せて!!』
部長の言葉を受け沼を駆け出すアルデは、ダリアの魔法から逃れたはぐれポイズントードに接近――スパイラル・ランスで撃破した。
皆の減ったMPはすぐに部長が回復させており、俺がやることといえば部長のMP残量を見て回復薬を飲ませてやることくらいである。
強敵と戦う時にこそ光る盾役という役割は、こういう時に仕事が無くなる。四姉妹の動きを見る目的とスキルレベルを上げる目的から《空間認識の目》を常に発動しているが……奥にいるであろうフィールドボスとの戦闘まで、俺だけいらない子状態だ。
まさかフィールドボスまで圧勝なんてことは……考えられるな。
「あれ――そういえば」
俺はふと、起こりうるはずの変化が起こっていない事に気付く。
「ベリルが進化していない? それに、能力解放も無い?」
『はい? 進化?』
レベル10で進化するはず……いや、今まではレベル10で全員が進化していたのに、ベリルだけは今までの姿・種族名だった。
機人族ならではの特徴なのかは不明だが、これはどうやら調べる必要があるな。
*****
超巨大なポイズントードが沼に沈んでいき、塞がっていた道が現れた。
適正レベル30のボスに対し強化と弱体化をキッチリ使い、ダリアとアルデの最高火力による一撃で潰す。ボスには哀れの一言しか浮かばない。
「いや、本当に楽勝だなんて」
『ダイキ、何もしていない』
今回は回復薬を飲ませる仕事すら無かったため、それを知るダリアがジト目を向けてきている。人聞きの悪い娘だ。
「……よし、先に進むぞ」
『……』
盾役の仕事とは云々など、話したところで言い訳である。ここは強引に先に進み、願わくば手応えのある敵が出現することを祈ろう。
しばらく進んでいくうちに辺りの気持ちの悪い紫色の沼はなくなっていき、舗装された道と背の高い木々、そして奥には見渡す限りの〝水〟が確認できる。
水の周りは海のように砂浜となっており、途中にある朽ちた建物がうまい具合に日陰を作っていた。
ここはもしや……噂に聞く〝水の町〟の入り口か?
「とはいえ、参ったな。ベリルに水は天敵なのに」
『はい。動かなくなってしまいます』
先に進もうにも、今は機人族でも安全に水の町に行く術を知らない。そもそも、機人族が水に当たるとどんな現象が起こるかすらよく調べていないのだ。
ひとまず掲示板で調べるまでの間、四人には遊んでいてもらおう。
「よし、ここで一旦休憩しよう。俺は調べるものがあるからそこにいるけど、普通に砂浜で遊んでていいからな」
『砂! いこう』
『日向ぼっこー』
俺は砂浜の途中にある朽ちた建物を指差す。そして休憩と聞くや否や、ダリアが砂浜へと走り出した。
頭にはちゃっかり部長が乗っている。
いつの間に移動したのか……。
『ダイキ殿! 青吉を遊ばせてもいい?』
「いいけど、海に出したら逃げちゃわないか?」
『青吉が拙者の元から逃げるわけないぞ!』
青吉からしてみれば、広くなったとはいえ水槽の中よりも海で泳いだ方が気持ちいいと思うが……まあアルデが承知しているなら良いか。
俺はアイテムボックスから青吉の水槽を場所指定で砂浜の上に置いた。アルデはそれをヒョイと持ち上げると、何食わぬ顔でダリア達の方へと走っていった。
三女、怪力すぎ。
「ベリルは三人のほうで遊ばないのか?」
掲示板でそれらしいのを探している俺の横で、ベリルがちょこんと覗いている事に気づく。
『私はこっちのほうが気になるので』
「そ、そうなのか。まあいいけど……」
そのまま俺はベリルを横に置きながら、日陰で掲示板を流し見ていた。
やはり調べてみると機人族が水の町に入る時の注意点などの先人達の知恵がしっかり書き込まれており、ベリルにもそれを読ませながら、やるべき事や必要な物をメモしていく。
「機人族召喚獣が進化しない理由も調べておこうか……」
水の町へと行く方法などを一通り調べ終わった後、今度は機人族召喚獣が進化しない理由を調べていく。
――そんな中だ、異変が起こったのは。
《エクストラクエスト発生! エクストラクエスト発生! 対象プレイヤー名【ダイキ】 このクエストを受け直すことはできません!》
アラームにも似たけたたましい音と共に現れた〝エクストラクエスト〟の文字と、同時に海の方で巨大な水柱が上がるのが見えた。
『た、た、大変だーー!! 青吉より大きな青吉が出たーー!!』
慌てた様子で海の方を指差すアルデにつられそちらに視線を向けると、海を泳ぐ青吉の後ろに、20メートルはあろうかという巨大な竜が現れたのだ。
姿形は確かに青吉に似ているが……まさか?
【エクストラクエスト:海竜神の子】推奨Lv.??
クエスト内容不明
発生条件
《海竜》の懐き度を最大まで上げる
職業が《召喚士》である
報酬:不明