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会社と装備購入

 

 新人の背中を見送っていると、缶コーヒーを持った同僚が声をかけてきた。


「ほんと、お前の指導は独特だな」


「はあ? 皆と変わらないだろ」


 新入社員がミスをするのは仕方のないことであり、再発防止のために指導するのは上司の役目である。その役目が今回たまたま俺だった。


「キツく言ってやるのが一番効果的だと思うけどな。俺が新人の時はよく怒鳴られたけど、ミスしないように努力できたし」


「いやいや、ミスの部分をずっと責められるのは嫌だろう? 俺は出来なかったことを怒るのではなくて、出来た部分をまず褒めようと考えてるよ」


「やっぱ変わってるわ、真似できん」


 まあ、人の考え方など違って当然だが。


 肩をすくめる同僚は、その後、俺のデスクからひょいと何かを手に取った。


「んで、話変わるけどダイキお前――子供いたのか?」


「……」


「 〝一緒に寝てくれない娘の心理〟って……これ、育児本だろ?」


「全力で忘れろ」




*****




 心命(しんめい)の店内は、装備を求めてやって来たプレイヤーで賑わっていた。

 中でも目につくのは、重そうな鎧や武器を装備した屈強そうな男性プレイヤー達。オルさんの作る装備がどんな層に人気なのかが窺える。


 山賊のような格好をしたプレイヤーとの話を終えたオルさんが、こっちに来いと手を振ってくる。


「こんばんはオルさん。大繁盛ですね」


『久しぶり』

『やっほー』

『武器の人!!』

『装備屋さんですか?』


「おう! 最近は波も落ち着いて固定客が定期的に来てくれるようになってるぜ」


 照れ臭そうに笑うオルさんは、召喚獣一人一人に挨拶していき――まず最初に、アルデの所で視線を止めた。


「あ、アルデちゃん。見本用に飾っておいた武器がいくつかあるんだけど……欲しいか?」


『え! 欲しい欲しい!!』


 その提案を装備コレクターのアルデが拒むはずもなく、大きくバンザイし、言葉を聞くことができないオルさんでも分かるほどのリアクションを見せた。


 「そうかそうか」と満足そうに頷き、さっそく店の奥へ向かおうとするオルさんに待ったをかける。


「とてもありがたいのですが、アルデ一人だけに装備をあげるのは困るというか……そもそも今日は客として来たわけですし」


「おう、そうだな! なら全員にあげるからな!」


「いえ、そういうことじゃ……」


 と――その後、何度かのやり取りの末、オルさんは正常な状態へと戻る。


「――すまんすまん、今日は四女ちゃんの武器購入で来たんだったな! つい浮かれちまったぜ」


 そう言いながらオルさんは表情を職人のソレに変え、真剣な眼差しでベリルを観察していく。


「四女ちゃんは機人族だったな。またまた端正な顔立ちで……この子の戦闘ポジションは?」


阻害役(ジャマー)攻撃役(アタッカー)ですね。まだ戦闘させていませんが、ダリアと一緒に遠距離から敵を弱らせたり、倒したりできればと考えています」


 俺の返答に、オルさんは「なるほどな」と頷く。


「遠距離型なら剣や斧はダメだな。かといって魔法が使えないから杖もダメとなると……〝魔導砲〟はどうだ?」


『まどうほう……!』


 オルさんの口から出たロマンたっぷりの単語にアルデが目を輝かせる。


「魔導砲ですか?」


「色々と有名な生産職プレイヤーが最近見つけた新しい武器のカテゴリーでな、魔力を弾として撃ち出す武器だ」


 説明を分かりやすくするため、オルさんはパネルを操作し、カウンターの上に筒状の機械をゴトリと置いた。

 ダリアとアルデとベリルは『見たい見たい』と、背伸びをして顔を出している。


 名前から連想できるように、かなり重々しい見た目の武器だ。筒状のそれが二本、銃口の広さが部長の頭くらいある。


「……かっこいいですが、女の子の武器としては少しゴツすぎません?」

 

「馬鹿野郎! 女の子がゴツい武器使ってるのがいいんだろうが!」


 俺の言葉に、とんでもないと反論するオルさん。


 そして肝心のベリルの反応だが……


『いいですね』


 ご満悦のようだった。

 俺が間違っているのか?


「えっと、ベリルが興味津々なので、この武器についてもう少し詳しく教えてください」


「そうか! そりゃいいぞ!」


 オルさんはその後、この武器についてかなり熱く語ってくれた。

 男達がずっと求めていた武器であるとか、肩に担ぐタイプも魅力的だとかの部分をカットし説明を省略すると、当てるのにコツが要るが火力に期待できる武器だという事が分かった。


「しかし、さっきも言ったように、やっと最近出回り始めた武器だから高レベルの物は置いてない。俺でも最大で30レベル相当の物しか作れんが……どうだ?」


 現実的な相談を口にするオルさんだったが、すでに魔導砲の上に手を置いてベリルが俺を凝視している。これは本人の意思を尊重しよう。


「それでは……レベル30相当の魔導砲をお願いします。恐らくそのくらいならレベリングも簡単だと思うので」


「そうか、それならコレ売ってやるよ! 」


 俺の言葉に、オルさんはカウンター上に置いてある魔導砲を指差した。


「恐らく使いこなせるようになるまでかなりの時間が掛かると思うが、全く未知の性能を秘めた武器だ。使って損はないぜ」


 そのまま俺は、オルさんに促されるがまま、ベリルにねだられるがままに魔導砲を購入。上機嫌で手を振るオルさんに見送られながら、心命を後にしたのだった。




*****




「うわああああ!!!」


 多くの露店が並ぶ通りに、悲鳴にも似た絶叫がこだました。道行くプレイヤー達の視線が一気に集まる。


「ど、どうしたんですかマーシーさん。流石にびっくりしましたよ」


 絶叫を上げたのは、召喚獣専用の防具を作る生産プレイヤーのマーシーさん。

 オルさんの時同様に四姉妹が挨拶したところで、彼は頭を抱え天を仰いだのだ。


「僕は今、自分の中で天使と悪魔が殴り合っているのを感じるお……」


『天使は嫌い』


 ぶつぶつ呟くマーシーさんと、不機嫌になるダリア。ベリルは何が何だか、状況が理解できていない様子。


「あの、メールにも書いたように、ベリルの件なのですが」


「ベリルたん! なんと神々しい……しかし僕には幼女神様という唯一無二の存在が……」


『……』


 俺はどこかデジャブを感じながらも、マーシーさんが正常になるまで待つ事にした。


「お義父さん、僕の店にはベリルたんにピッタリの衣装が既にあるお。性能はそこそこだけど、黙ってこれを買ってほしいお」


 落ち着いたマーシーさんは、俯きながら、震える手で俺にトレード申請を飛ばしてきた。




【モノクロディアンドル(召喚獣専用装備)】製作者:マーシー


  白と黒のチェック柄が可愛い衣装。ナイトメアシープの毛とヴァンパイアスパイダーの糸が使われているため、耐久値が高い。



耐久値+25

魔力値+12


分類:全身装備


 


「ディアンドル……民族衣装ですか?」


「うん、ドイツの民族衣装だお。まあ、僕が想像で作った模造品だけど」


 マーシーさんが掲示してきた防具は、ドレスにも似た非常に可愛らしい衣装だった。

 白と黒のチェック柄が細かく編み込まれており、丁寧に仕上げてあるのが見て取れる。


 マーシーさんオススメの一着だし、なにより俺もベリルに似合うと思ったのでこれに決めたいところだが……


「どうだろう?」


『……可愛いです』


 彼女も即決したので迷わず購入、さっそく装備欄から彼女にディアンドルを着せてみる。


「拝啓おばあちゃん。僕は今、天国にいるお」


 正座して固まるマーシーさんはさて置き、着せてみると、彼女の黄色い髪や青の瞳、透き通る白の肌とこれがまたよく似合う。


 人並みな感想だが、お人形さんのようだ。


『着てみると、少し恥ずかしいですね……』


「すごく良く似合ってるよ!」


『自慢の妹』


 なぜかベリル本人よりダリアの方が得意げだが……なんにせよ、これでひとまず武器と防具は問題無さそうだ。


「マーシーさん、素敵な防具をありがとうございました」


 呼びかけてみても反応無しのマーシーさんに一礼し、残る紅葉さんの元へと足を進める。

 メールにはアクセサリーの件とは別に相談したいことがあると書いてあったが……いったいなんだろう?

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