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ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー15』

 

 先頭を行くナルハの足が止まる。


「あの像のような物から嫌な気配を感じます」


 道中に遭遇(エンカウント)した機械の兵士や罠の時とは違う、明らかに警戒した声色で先の空間を睨むナルハ。

 彼の見つめる先にあったのは、見上げる程の大きな門と、その両端に膝をつく2体の像。彼の力を借りずとも、見るだけでも分かる異様な気配を発していた。

 

 赤茶色の扉からは、ちょっとやそっとの力ではビクともしないくらいのはっきりとした重量が感じられる。

 一見錆び付いているようにも見えるその扉の表面は全て歯車で出来ており、複雑に散りばめられた大小様々な形の歯車が規則正しく音を刻んでいる。


「ヒトデみたいな……いや、星かな?」


「あっちは侍に見えるよ」


 ルーイさんとエミリさんの見つめる先には、未だ沈黙を守る2体の像がある。

 片方は、駅前にオブジェとして置かれていそうな菱形のなにか。

 もう片方は、腰に差した2本の刀へと手を伸ばし今にも抜刀してきそうな格好の人型像。こちらは確かに、エミリさんが言ったように侍に見える。


「来たわね……迎撃システムと破壊システム。憂鬱だわ」


「今回の隠しボスは確実に討伐できるメンツが揃っているから全然問題ないね」


 気が重そうにそう語るアリスさんと、対照的に涼しい顔で笑う銀灰さん。

 攻略不可能だった二番目のボス《トラップマスター》を撃破できた時点で、残りのボスは彼等にとって消化試合のようなものなのだろう。

 紋章ギルドの面々だけでなく、花蓮さん達やOさんも特に心配する様子を見せていない。


 しかし、ナルハとマリー様だけはその2体の像ではなく、先にある扉の方へと鋭い視線を向けていた。


「像よりも扉の先。あっちから感じる危険な気配は……冒険者になってから今日まで、僕が感じてきたそのどれよりも――強い」


 見れば、ナルハの足は僅かだが、小刻みに震えているのが分かる。

 隣に立つマリー様もまた、その顔に恐怖の色を貼り付けていた。


「マリー様、あの奥にはまさか……?」


「……うん。あの扉の奥に、アネモネさんが居るよ」


 マリー様は扉へと視線を向けたまま、俺の問いに答えてみせる。


 冒険者になって幾度となく死地に赴いたであろうナルハが感じる、過去最強クラスの危険な気配。同時に、マリー様が「アネモネさんがあの奥に居る」と断言したという事はつまり――このダンジョンのボスというのは……?


「ついに、ここまで来たのか」


 俺の思考を、Oさんの呟きが遮った。

 彼はこのダンジョンを進むにつれ口数も減り、黙々と戦闘を続けている。

 俺たちは以前、彼に連れられ老いた獣人族のアバイドさんの家まで行っている。その後再び、アネモネさんの声を辿ったマリー様の後を追い、俺たちはアバイドさんの家までたどり着いた。


 偶然の一致ではない。


 Oさんは俺たちよりも前にマリー様のクエストを進め、そして俺たちと同じようにしてアバイドさんの家へとたどり着いたのだ。

 そしてOさんが毎日アバイドさんに“懺悔”をしていた理由……それは今、俺が想像している事で間違いないだろう。


「Oさん――」


「ダイキ君! このダンジョン、必ずクリアしようじゃないかッ! なりを潜めていた僕の魔法が火を噴く時が来たぞッ!!」


 俺の声色から察したのか、先ほどまでの悲しげな表情を即座に変えたOさんは、明らかな空元気を見せ、声高らかに笑う。


 誘われて嬉しかったという気持ちも勿論あったろうけど、Oさんがこのダンジョンに参加してくれた本当の理由は――ずっと後悔してきた忘れ物(・・・)を取りに来たんだ。


 


*****




 欠けた部位からバチバチと電流が漏れ、動力を失った菱形が地面にゴトリと落下する。

 2体の隠しボスが撃破された事により、そのボスたちが守っていた赤茶色の扉が音を立てながら開いていく。


「全隠しボスコンプリート完了ね。もっとも、トラップマスター以外のボスはレベルのゴリ押しで問題なく倒せるから最初から心配はしてなかったわ」


 言いながら、アリスさんは持っていた長めの直剣をひと振りし、腰に差した鞘へとゆっくり収めていく。

 流石は日本屈指のギルドのマスターが放つ一撃。

 まだ余裕のあったボスのLPバーを一撃で粉砕するとは、俺たち適正レベル組と火力が段違いだ。


「アイテムの分配は最後にまとめちゃおう。ボーナス割り振りと強化(バフ)の掛け直しが終わったら、このダンジョン最後のボスが待つ部屋に進んでいこう」


 アリスさん同様に、持っていた剣を鞘に収めた銀灰さんが優しい口調で皆に指示を飛ばし、それを合図に、俺たちは最後のボス戦へ向けた最終調整を始めた。

 今回の隠しボス戦で得られた経験値も例に漏れず膨大で、俺のレベルは既に61にまで上がっている。

 これは念願のクラスアップができるレベルである。


「ダイキ君ダイキ君ダイキ君! レベル60って事は新しい召喚獣呼べるよね? よね! 早く私にベリルちゃんを拝ませてほしいんだけど!」


 そして、ハリケーンのような勢いでこちらへやって来るアリスさん。

 彼女が言うように、レベル60はクラスアップができる他に、新しく召喚獣を呼び出すことができる。

 俺としても新しい仲間を今すぐにでも呼び出したい所だが……流石に今、レベル1の召喚獣を増やしたら皆に迷惑が掛かってしまう。

 最速でも、ダンジョンを出た後になるだろう。


「……というわけで、しばらくお預けですね」


「そ、そんな……じゃあダリアちゃんを抱っこしに行こう」


 事情を説明すると、アリスさんは物凄いガッカリした様子でトボトボとダリアの方へと歩いていき――先客と鉢合わせするのが見える。


「あっ……!」


 先にダリアに話しかけていたのはエミリさんだった。


「貴女……ちょっといいかしら」


 そのまま、アリスさんとエミリさんは二、三回言葉を交わした後、2人一緒にボス部屋から元来た道の方へと歩いていった。

 ダリア好き同士で何か通じ合うものでもあったのだろうか?

 本人であるダリアはキョトンとしている。


『ダイキ。新しい子が増えるって本当?』


『え?! 弟? 妹?』


 新しい仲間と会うのを心待ちにしているアリスさんの言葉を聞いていたのか、ダリアとアルデが期待したような表情でこちらに集まってくる。

 アリスさんやマイさん達もだが、勿論この子達の中に新しい召喚獣を虐めるような子は1人もいない。だから俺は安心して召喚ができる。


『早ければ今日にも、かな? 仲良くできるかい?』


 俺の言葉に、ダリアもアルデも頭を大きく縦に振る。


『当たり前』


『いぃぃやったぁああ!!』


 また1人の後輩ができたダリアはどこか得意げな表情を浮かべており、アルデは自分の弟分か妹分が出来ることをバンザイで喜びを爆発させている。


 そしてうちの次女様はというと――


『乗れるー?』


『う、うーん?』


 新しい乗り物が増えるかもと、期待に胸を膨らませていたのだった。

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