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ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー13』

 

 ボスの消えたその部屋は、歓喜の声に包まれた。


 突破不可能だった凶悪な罠もナルハとマリー様の活躍により無効化することに成功。Oさんが言ったように、俺たちの完全勝利だ。


「す、すごい。こんな歴史的瞬間に立ち会えるなんて……!」


「レイドダンジョン楽しいです!! 経験値もこんなに!」


 レイド初参加の2人も、言葉にし難いこの達成感に酔いしれている様子。

 撃破と同時に得られた経験値やお金は、鏡の兵士で得られた量を大きく上回っていた。

 俺のパーティーでは平均して3つ、エミリさん達はさらに多い回数のレベルアップエフェクトが発生している。

 鏡の兵士戦後と同様、しばらくはボーナス割り振りとアイテムルーレットのため自由時間が取られるだろう。


 俺は足元に集まるダリアとアルデ、そして頭の上の部長を撫でながら笑顔を向けた。


『皆お疲れ様。一瞬ヒヤッとする場面があったけど、なんとかなって良かった良かった』


 無事にボスも倒せた事だし、暗い雰囲気にはさせないよう陽気に振る舞う。


『ナルハに感謝』


『拙者だって! マリーくらい心配したんだぞ!』


 ダリアは少しだけ機嫌が悪そうに腕を組みながらナルハの方へと視線を向け、アルデはプンスカと怒った様子で俺を揺さぶっている。

 あの状況、可能であれば一度だけ無敵になれる《偽りの鉄壁》を使いやり過ごす事も考えたが、(アーツ)はおろか指一本動かせないとは……今思い出しても恐ろしい罠だった。


『わたしの魔王術を使えばよかったのにー』


 のんびりした口調でそう語る部長。

 今回の戦闘で俺は一度もダメージを受けていない。

 つまり部長はこの戦闘中、ただじっと俺の頭の上に待機していた事になる。

 俺が罠に捕まった時も全く動じず、最後まで沈黙を守っていたのは流石である。

 ただ寝てただけの可能性もあるが……


『どんな技か把握できてないだろー。それに、もし部長に何か良くない効果が及んだらそっちの方が嫌だしね』


 俺自身、魔王術がどんな技能(スキル)なのかもまだ把握できていないのだが、花蓮さんからの忠告もある、少しも調べないまま無闇に使うのはやめておきたい。

 俺の返答に対し部長は『んー?』と不思議そうに唸り、言葉を続ける。


『そんなの大丈夫なのにー。使っちゃダメなのもあるけどねー』


 じゃあダメじゃないか――と、つい反射的に答えそうになる。

 使っても大丈夫なものと、ダメなものがある……部長はそれを理解しているのだろうか?

 稀に召喚獣達が自身の過去について語ることがある。

 魔族と竜族のハーフであるダリアも、骨の被り物で顔を隠していたアルデもそうだった。

 ダリアは自分の口で多くを語っていたし、アルデに関しては召喚した際に持っていた不思議な刀も手がかりの1つだ。

 進化が嫌という悩みこそあったものの、自身の過去に関する何かを見せなかった部長。

 ここに来て遂に、彼女の過去にまつわる何かを掴んだような気がした。


「宴でもしたい気分だけど、先はまだあるわ。今回の報酬もルーレットでパパッと配ってどんどん進みましょう!」


 アリスさんの提案に、皆も大きく頷いた。

 大量のお金・経験値に加え、今回は初個体撃破報酬もある。鏡の兵士の報酬よりも豪華であると期待せざるを得ない。



【奇怪な大鎌】#撃破報酬

トラップマスターが使っていた大鎌。柄のマーブル模様は三種の属性を表し、思いがけない効果を発揮することがある。


筋力値+97

器用値+50

魔力値+29


○ランダムで火属性・水属性・雷属性の属性付属効果。

○ランダムで50%・100%・150%のダメージボーナス。


必要筋力100


分類:両手鎌


 

 一番最初のルーレット対象は撃破報酬で出た大鎌だった。

 説明文を見るに、どうやらボスが所持していたあの武器のようだ。

 戦闘時には気付かなかったが、柄が赤青黄色のマーブル模様となっているのが分かる。

 攻撃の補助として様々な特殊能力が備わっているものの、どれも運要素が強い。

 必要な場面で必要な属性、さらにボーナス150%が引ければかなり強力な一撃が期待出来そうだが――使い勝手は悪そうだな。


 ただ、アルデの武器のレパートリーは多いに越したことはない。

 是非とも手に入れたいアイテムだ。


 アイテムの内容に皆、やんややんやと盛り上がっている中で、花蓮さんが1人、俺たちの方へとやって来る。

 流石の火力を見せ、ボス討伐に大きく貢献してくれた功労者の1人だ。

 近くに召喚獣達の姿は無く、離れた場所で各々が自由な時間を過ごしているのが見える。


「お疲れ様、でした。ダリアちゃんもアルデちゃんも自分の仕事をしっかりこなしてて偉かったです」


 ダリア達と同じ目線までしゃがみ、頭を撫でて笑顔を見せた花蓮さん。

 頭の上で、部長が抗議の声を上げる。


『ねー わたしはー?』


「部長ちゃんが出るまでもなかったみたい、ですね。部長ちゃんが忙しくなる時はダイキさんがピンチの時ですから、それでいいんじゃないでしょうか」


 ちゃっかり撫で撫でをねだる部長の頭を、クスクスと笑いながら撫でてやる花蓮さん。


「花蓮さん、部長を甘やかしたらダメですよ。俺への支援だけじゃなくて、メインタンクをやってくれていたウルティマの回復だってできるんですから」


『だってウルティマにはコーラルがいるもん。わたしだって本気出せばすごいんだよー』


 と、得意げに反論する部長。

 召喚されてから今日まで彼女の本気など数えるほどしか見ていないのだが、確かに本気を出した彼女はすごい。一理あるかもしれない。


 代表してアイテムを持つアリスさんに完全に背を向ける形で居る花蓮さんに対し、ダリアが不思議そうに首をかしげる。


『花蓮はルーレットやらないの?』


「私はアイテムが欲しくて参加しているわけではないのでいいんです。レベル的にダイキさんやその友人の方々へ渡る方が良さそう、ですから」


 ダリアの疑問に、花蓮さんは優しくそう答えてみせる。

 他にも、周りを見ればOさんもルーレットに参加している様子がなく、銀灰さん達紋章ギルドのメンバーも場を盛り上げているだけだ。

 上級者の人達が辞退してくれているお陰で、アイテムが俺たちに回って来る可能性が高くなっている。大人の対応を見た気がした。


『そうだ! ルーレットだけ回して、当たっちゃったら好きな人にあげればいいよ! ルーレット回すの楽しいよっ!』


「す、好きな人?」


 アルデの発言を、花蓮さんは慌てた様子で聞き返す。

 アルデの言う“好き”と花蓮さんが考える“好き”は恐らくタイプが違うと思うのだが、面白そうなのでこのまま話の行く末を見守ろう。


『そう! ……でも、拙者あの武器欲しいから、当たったらその……』


「そ、そういう事ならわかりました。ちょっとびっくりしましたがそういう事なら、わかりました」


 思わず自分の願望がつい口に出てしまったアルデへ、慌てつつもそう答える花蓮さん。

 そのまま彼女は俺の方へと向き直り、チラチラと視線を泳がせ口を開く。


「という事なのでアルデちゃんのためにルーレット回し、ます。当たったらダイキさんに渡し、ますね。渡しますからね」


「ふふふ。ありがとうございます。やったなアルデ、これで確率アップだぞ!」


 彼女達のやりとりがあまりにも可愛らしかったので、つい笑みがこぼれてしまった。

 涙目になりながら言うアルデのおねだりを受けたら、断るに断れないのだ。

 しかし、花蓮さんが参加してくれたとしても参加メンバーが他にもいる時点で安心はできない。ルーレットはボス戦と違い、完全に運頼みだからだ。


「皆、準備はいい?! じゃあ最初のルーレットを開始します!」


 簡易的に設けられたステージの上で、アリスさんが鎌を掲げた。

 それを見たアルデは『すげー! ほしー!』と目を爛々と輝かせ、俺と花蓮さんへ交互に熱い視線を向けた。


「よし。花蓮さん、可愛いアルデのためにも絶対ゲットしましょう!」


「はぁ……頑張ります」




*****




 MVP報酬の授与も終わり、嬉しそうにステージから降りるマイさんを見送りながら、アリスさんは最後のアイテムを大きく掲げてみせた。


「最後はお待ちかねの初個体撃破報酬よ! 正直見るのが初めてのアイテムばかりだったから効果も良く分からないけど、やらしい話、相当の値打ちものである事は間違いないわ! 中でも初個体撃破報酬は特に価値が高いはずよ!」


 素晴らしいステージパフォーマンスに、場が更に盛り上がるのを感じる。


「お、おい雨天! あれゲットしたらオークションに出して“エリア”買おうぜエリア!」


「馬鹿言わないの。1つのアイテムを売ったくらいでエリアなんて高くて買えません。ギルド内の設備強化に使います」


 掲げられたアイテムを前に夢を語るような表情で語りかけるケンヤと、それを軽くあしらう雨天さん。

 ケンヤがマスターなのにギルドが機能しているのは、偏にサブマスターがしっかり者であるからだと証明しているような図である。


「け、ケンヤさんは散財しすぎです!」


「ギルドを改造して可愛いカフェにしたらいいと思うんだよねー。あとパティシエNPCも雇おうよ!」


 なんとなくだが、ゲームを始めてすぐにケンヤとライラさんが仲良くなれた理由が分かったような気がした。


 Seedのメンバーが仲良くもめている一方で俺たちはというと……


『か、花蓮? なにもそこまで落ち込まなくても……拙者は気にしてないよ?』


「なぜ“4”? 数字は1から100まであるのに……ぶつぶつ」


 撃破報酬の大鎌、そして先ほどのMVP報酬のルーレットもことごとく外れてしまい落ち込む――花蓮さん。

 俺も外れ花蓮さんも外れ、アルデが泣いてしまうのではないだろうかという不安もあったのだが、花蓮さんのこの異様な落ち込み様にアルデも泣くどころの話ではなくなっていた。

 取ってあげる約束を果たせずここまで落ち込めるなんて、この人はどれだけ良い人なのだろうか。


「それじゃあ皆さん、最後のルーレット始めます!」


「花蓮さん、今度こそ当てましょう!」

 

 アリスさんの合図と共にルーレットが開始され、俺と花蓮さんの目の前にもルーレットが出現した。


 当たらなければ今度こそ花蓮さんが責任感に押しつぶされて立ち直れなくなってしまう可能性が――さて、数字は何がでる!?

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