ゲーム世界と初戦闘
――ここが冒険の町か、流石に人が多いな。
転送された先は、新たな冒険者が産み落とされる中央ポータル前。そして、そのポータルをぐるっと囲うように賑わう石造りの町、それが冒険の町だった。
ファンタジーの舞台によく起用される中世ヨーロッパの町並みに近い、ゲーム好きの心を擽る風景に思わず見惚れてしまう。道行く人は皆、戦士さながらの鎧だったり、魔法使いさながらのローブを纏っている。
そしてやはりと言うべきか、既にログインしているプレイヤーで町は溢れかえっていた。皆が皆、VRが生み出すリアルでは表しきれない風景に魅了されているようだ。
すれ違った何人かは、既に強そうな防具や武器を装備している。スタートダッシュでフィールドに出たか、所持金で買ったか……。
なんにせよ、こうしちゃいられない。早速フィールドに出てみよう。
視界右下に表示されているミニマップを頼りに町を歩く。ミニマップは、周囲何十メートルかを円状に確認し、建物のマークや敵である《赤点》を教えてくれる。
次々と表示される建物には鶏のマークやパンのマーク、交差した剣や巾着袋のマークがあり、それぞれが店の場所と意味を教えてくれる。
「剣は武器屋だろうな。パンと鶏は料理屋として一括りに出来ないのか? それとも何か別の意味が……」
まだまだ知らない事が多い。試したい事が全て終わったら一軒ずつ回ってみよう。今後必要な知識になるはずだ。
足を進めているとミニマップの奥に門のマークが見え、視線を奥へと向けると、どっしりと厚みのある木の門が佇んでいた。
恐らく、そこをくぐればフィールドに出られるという仕組みだろう。ログイン時に、ポータルから現れたのを考えると、ポータルには場所移動の機能があると推測できる。
はやる気持ちを抑えつつ、門の前へたどり着く。
門の前には中央のポータルの半分ほどの大きさのポータルが設置され、先行くカップルらしき男女がポータルに手を添えると、二人は光の塵となりポータルに吸い込まれていった。
――なるほど、手をかざすと移動できるのか。と、このゲームの仕様をなんとなく把握してみる。
ポータルに近付き、そのエメラルドグリーンに手を添えた。
【南ナット平原へ移動します】
俺の意思が伝わったのか、ポータルが淡い光を放ち、転移を始める。と、瞬きする間に平原へと転送が完了していた。
一瞬だな。
先程まで目の前にあった巨大な門が俺の後ろにそびえ立っている。
サーバーのパンクを防ぐために町とフィールドを隔離してるようだが……門の存在意義がわからん。全て壁で覆うと確かに外観を損なうとは思うが……。
ともあれ、念願のフィールド。そして初の戦闘だ、なんとしても勝利を収めたい。
まだぎこちない動きだが、なんとかメニュー画面を呼び出し、アイテム欄から見習いの剣を取り出し装備した。
――右の掌に光が集まると、それは剣の形を形成していく――
光が弾け、剣が現れた。
初心者が使うための簡素な剣ではあるものの、その質感や重みは本物のそれだ。柄を握る手に、思わず力が入る。
二、三度振って具合を確かめた後、俺はフィールドに向け歩き出した。
南ナット平原には多くのプレイヤーの姿が見える。
召喚士である俺には現在、召喚に必要な最低限のステータスしか振られておらず、残りのポイントは自分好みに振る事ができる。
戦士スタイル、魔法使いスタイル。
どちらも捨てがたいから、とりあえず何も振らないまま戦闘してみて、スタイルを決めようと思う。故に戦闘で役立つ技能、武器技や魔法技なども覚えていない。
俺は近くに湧いた鼠型モンスターに剣を向ける。
――いくぞ。
「参ったな、思ったより苦戦したぞ」
初の戦闘を終えた俺は、出もしない汗を拭い溜息を吐いた。
相手は最弱の敵とはいえ、こちらもまだレベルが1なのもあって、五分もの時間、格闘を繰り広げてしまった。
それもそのはず、召喚士は本来魔法職寄りの職業だ、初期ステータスも魔法職寄りに振られている。その上、一番弱い剣で技能も使わず格闘戦を挑めば、この結果になるのも無理はない。
視界の端で戦士職であろう少年が、鮮やかな赤い閃光と共に剣を打ち出しているのが見えた。
敵の鼠型モンスターが爆散する。
あれが剣術技か、一番弱いフィールドの敵とはいえ見事な威力だ。
やはり純粋な戦士職と対等に渡り合うには、召喚獣と共に連携しながら戦う事が鍵になりそうだ。
俺はメニュー画面を呼び出し、自身のステータスを改めて確認した。
名前 ダイキ
Lv 1
種族 人族
職業 召喚士
筋力__5
耐久__8
敏捷__8
器用__8
魔力__12
残り29ポイント
筋力とは物理攻撃力や装備の重量制限に関係するステータス、耐久は防御力やLPに関係するステータスだ。戦士職は主にこの二つのステータスを伸ばし、強くなっていく。
敏捷や器用も絡めると、自分独自の戦闘スタイルが確立できるともあった。軽剣士などは敏捷も上げるといいだろう。
なんにせよ、今の俺は魔力の値が突出している。魔力は魔法攻撃やMPに関係するステータスであり、魔法職の強さに直結するステータス。これが高くても剣を使った物理攻撃には影響しない。
が、剣での戦闘のやり方は、さっきの格闘でなんとなく掴めた。後は手助けになるスキルや魔法を把握しておこう。
技能
【召喚術 Lv.1】【調教術 Lv.1】
残り8枠
召喚術、調教術、は召喚士に必要不可欠な技能らしく、最初から組み込まれていた。となると残りの技能だが……。
数万あるとされる取得できる技能一覧を見ていくと、《火属性魔法》の技能を発見した。
火属性魔法は文字通り火属性の魔法が使えるようになる技能。技能を取得することで、そのレベルに応じた魔法が欄に出現するらしい。
とりあえず火属性魔法のスキルを選択し習得。同時に魔法技を覚えた。
「次は魔法で倒してみるか」
剣での戦闘は男なら誰もが夢見るもの。そして、魔法での戦闘も同等の憧れがあった。
メニューから見習いの杖を取り出し装備。杖による物理攻撃に加え、魔法の威力に補正がかかる。
近場にいた鼠型モンスター。名前をナットラットと言うらしいが、それに照準を合わせて魔法を発動する。
「『火弾』」
左下の青いバーが減少し、杖の先からバレーのボール程の炎の球体が出現。ナットラットめがけて杖を突き出すと、勢いよく飛び出した火弾はナットラットに直撃、爆発を引き起こす。
甲高い悲鳴と共に、ナットラットのLPが目に見えて減少。一撃で1/4ほどまで削りとった。
「まだまだ。『火弾』」
火傷状態になっていたのか、Dotを受けながら此方へ反撃にでるナットラットだったが、向かってくる火弾に直撃し、後方へと吹き飛ばされる。
「なかなかの威力だな。魔法の追尾性も高いから当てやすい」
その後、危なげなくナットラットの討伐に成功した俺は、剣を取るかか魔法で行くかで悩んでいた。
どちらも非常に魅力的だ。剣での戦闘は戦士職じゃないから完全にPSありきとなる。火力も本職には劣る。
順当に考えれば魔法だが、シビアなMP管理が要求されそうだ。かなり気を回さないと、MP切れで棒立ちになる可能性もある。勿論、回復薬も存在するようだが……。