ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー⑧』
十字架の剣と黄金の剣が交差し、激しく火花を散らした。真空波を生み出す程の衝撃。しかし、そのどちらもが動じない。
銀灰さんと鏡の兵士の打ち合いが開始したと同時に、ドンさんチームとアリスさんがそれぞれ鏡の兵士と鏡の兵士に攻撃を仕掛ける。
「ライラさんのコピーが……ッ!」
俺の後方から、エミリさんの悲鳴にも似た声がこだました!
大きく三つのグループがそれぞれ一体ずつ鏡の兵士と対峙している現在、当然ながら自由に行動できる鏡の兵士が数体存在しており……それらはウルティマやマイさんのコピー体には目もくれず、迷わずボス本体に加勢すべく動いていた。
中でもライラさんのコピー体は飛び抜けて足が速い。サーフボード程の大きな剣をひきずるようにして構え、此方に駆けてくるのが見える。
「銀灰さん!」
敵は既に、目前まで迫っている!
鏡の兵士の大剣に、メラメラと火が灯る。
「――大丈夫」
〝ギャリリッ!〟と、金属の悲鳴を響かせながら黄金の剣を盾で受けた銀灰さん。振り返る事もせず、自信ありげに言葉を続ける。
「こっちにはね――」
突如、吹き上がる水柱が鏡の兵士を宙へと吹き飛ばした!
そして至る所から吹き上がる雷・炎・氷の柱は、全て正確に、他の鏡の兵士達を貫いていた。
「な、なんか印象が……」
「確かに……」
ルーイさん、そしてライラさんが見つめる先に居たプレイヤー。
そこにいつもの彼の姿は無い。まるで、表情が変わらない機械のよう。
豪華な杖を小刻みに動かし、炎が揺らぐその瞳は兵士達のいる空中へと向けられていた。
「大兵器は僕が知る限り――最も〝空間認識の目〟を使いこなしているプレイヤーだから。彼の真価は多対一の時こそ発揮される」
盾が剣を弾く〝ギャリィィイン!〟という音を合図に、Oさんの目が更に見開かれる! そのまま杖を縦に振り、新たな魔法を完成させた。
「《光と闇の封印剣》」
鏡の兵士達の体へ纏わりつくように楔文字が二重に踊り、現れた白と黒の双剣が敵の腹を貫いた!
流星の如く地面へと突き刺さったその魔法は鏡の兵士達の動きを封じ、更に頭上に並んだ二桁にも及ぶバッドステータスが一連の魔法の凄まじさを物語っていた。
「恐ろしく正確な魔法展開位置……いや、恐ろしいのは満タンに近いLPをごっそり削るその威力もか……」
まさに、兵器の如し――
ケンヤの小さな呟きは、不思議とこの広い戦場へ響き渡ったように思えた。
「今っ! 戦乙女!」
スローモーションになっていた全ての風景が速度を取り戻し、再び、戦場のBGMは飛び交う金属音へと戻された。
体勢を崩す鏡の兵士と、盾を振り上げるような形で声を飛ばす銀灰さん。
「ヘルちんをいじめてるみたいで気が引けるぜ、なあ相棒?」
「日頃の恨みを晴らすチャンスだと思って思い切りやれよ相棒」
「あれは偽物、あれは偽物」
念仏のような声、そして下卑た笑い声が止んだコンマ数秒後――ボスの体を、三色の光線が突き抜けた!
盾弾きによる確定Criticalも働き、ボスのLPバーが大きく削れる。そして、鏡の兵士の頭上には〝チェインのチャンス〟を意味するアイコンが点滅した!
「《獣の太刀》!!」
『《闇夜》』
ライラさんから突き出すように繰り出された日緋色の技が牙を突き立て、続くダリアの魔法が渦を作る。そのまま、技の雨がボスを襲う!
作戦の通り、その後も適当な間隔で放たれる技の数々により鏡の兵士は全く身動きが取れず、着実にLPを削られていくのが分かる。
『っドーーン!!』
ダリアから闇属性の魔法を武器に受けたアルデは小走りでボス本体へと駆け寄り、その可愛らしい掛け声からは想像もつかない威力の攻撃を叩き込んだ!
ボスのLPが、遂に3割を切った。
「増援の心配はありません! このまま押し切りましょう!」
雨天さんの鼓舞が飛び、それを受けた小さな影が躍り出る。
「一撃くらいは……ッ!」
二本の短剣を構えたエミリさんが技を展開……しかし――
「まてルーイ! そのタイミングはッ?!」
「へっ?」
何かに気付いたケンヤが咄嗟に声を上げる――が、時すでに遅し。ルーイさんが放つ雷魔法とエミリさんが打ち込む連続攻撃が被り、チェインの間隔が変化する。
「不味い。皆、一度離れて!」
「《無数の星》!」
カバーに入るトルダの攻撃は黄金の剣によって薙ぎ払われ、虚しく塵と化す。
「やばい、やばいやばい! こ、こわっ……?!」
チェインによる無限硬直から解き放たれた鏡の兵士が標的に定めたのは、一番近くに居たエミリさんだった。
ボスの発するプレッシャーを向けられたまらず回避行動に移る彼女だったが――エミリさんが逃げたその場所は不運にも、銀灰さんと鏡の兵士のちょうど中間位置だった。
ズバンッッ!!
黄金の三日月が大地を削り、剣を振り抜いた状態の鏡の兵士が血を飛ばすように剣を払った。
2人のプレイヤーが、冷たい地面に横たわる。