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ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー⑦』

 

 レイドメンバーが支援部隊からの強化(バフ)を受けている間に、アルデの武器を剣王の大剣から黒鉄の大槌へと入れ替えていく。


 敵のタイプに合わせて武器をその都度替えなければ火力が落ちてしまうアルデと、武器交換の必要がないダリア。


 前者は、全ての種類の武器を揃えていれば――性能による差は出るが――安定した火力が出る。後者は武器交換を必要としない分、数は少ないが苦手属性の敵と出会うと一気に不利になる。


 さて、ヘルヴォルの属性が何かを花蓮さんに聞いていいものかどうか……


「三女ちゃんの武器、替えたんですか? また体にそぐわない大きな武器ですね……」


 二、三度武器を振って具合を確かめるアルデを眺めていた俺に、強化(バフ)を受けたルーイさんが声を掛けた。

 口数の少ないエミリさんとは対照的に、彼女はかなりの話し好きと見える。


「標的は鎧を着込んでいるので、斬撃属性の武器よりも打撃属性の武器の方が相性いいんです。武器の大きさは……同感ですけどね」


『全然重くないよ! 物足りないくらい!』


 参考までにと装備に対する相性などを解説しつつ、大槌を元気よく持ち上げるアルデの頭を撫でた。


 しかし物足りないとは……アルデのレベルもかなり上がってきているし、武器の新調を考えるべきか?

 そうなると三姉妹全員の装備を新調してやりたくなる訳で、結果としてまた金欠に陥るのは明白だ。


 あぁ、夢のマイホーム計画が遠のいていく……


「どうしたダイキ。なんか遠い目してるぞ」


 ルーイさんの後ろから現れたケンヤが、ガチガチに固めた装備を鳴らしながらこちらにやって来る。


「ああ、娘の成長に俺の財布が追いつかなくてな」


 準備万端と言わんばかりに張り切るダリアとアルデを眺めつつしみじみ語る俺に、ケンヤも同情するような声色で答えてみせる。


「あー……はは。そりゃ魔獣使いと召喚士の宿命だわな。プレイヤー1人でパーティ単位の装備を整えるって考えただけで、相当な額の金が飛ぶのは想像に難くない」


 無駄遣いをしているつもりはないのだが、日々の食費や娯楽費が原因で一向にお金が貯まらない。


「でも今回のダンジョンで全部の隠しボス撃破が達成できれば、ある程度まとまった金が手に入ると思うぞ」


「らしいな。けど、討伐記念でこの子達に美味しい料理をお腹いっぱい食べさせたら……幾らも残らないかな」


「……育ち盛りだからな」


 昔からずっと、ダリアも部長もアルデもかなりの食いしん坊だ。それに、うちにはもう1人、飛び抜けて食いしん坊の金魚が居るのである。


「俺たちのホーム裏に畑でも作ってみるか?」


 唐突な提案に、思わず「畑?」と言葉が漏れる。


「生産職用の作業場にする目的で土地を買ったはいいが、資材が足りなすぎて空き地になってる場所があるんだよ。上手く育てば食料採り放題だ」


 管理は全面的に頼むがな――と、持て余した土地をちゃっかり押し付けたようにも思えるケンヤの提案。


 が、この会話に聞き耳を立てていた彼女の体がピクリと跳ねたかと思えば――既に鼻息を荒くした部長が、俺の頭をゆさゆさと揺すっていた。


『ごしゅじん。リンゴ、リンゴ育てようよーリンゴー。わたしも手伝うからー』


「部長、リンゴは植えてから3年くらい経たないと収穫できないんだよ。栽培方法も良く分からないし……」


 畑と聞いて、リンゴの栽培までを連想した部長の頭の良さに驚きつつも、冷静に考えて農業を始めるだけのお金すら無い俺には手の余る提案である。


「安くしておくって。友情割りな」


「うちの子を使って契約を迫るな」


 悪戯な笑みを浮かべ寄ってくるケンヤを押し返し、準備を終えた皆がいる場所へと足を進めた。


 農業か……確かに楽しそうではあるが、うちの野菜嫌い(長女)がなんて言うかな……




*****




 作戦は、シンプルだが難しい。


 チェインという、息を合わせて行わなければ普通に失敗するテクニックを、今日初めて会った人もいる中で成功させる。

 失敗すればヘルヴォル(ボス本体)の反撃も来るし、アリスさん達が他の兵士達を抑えていられなくなる可能性もある。


「最初の一撃は戦乙女の大技。それが決まり次第、3秒間隔で(アーツ)を叩き込むだけだ。皆、落ち着いてやれば大丈夫だから」


 輪の中心で、銀灰さんが柔らかくそう告げた。とはいえやはり、ルーイさんやエミリさんの表情には不安の色が見える。


「失敗しても、慌てず距離を取るだけでいいからね。僕が絶対弾き(パリィ)で隙を作るから」


 その自信に満ちた台詞によって、皆の表情からも緊張が解けていくのがわかる。この作戦のメインタンクが銀灰さんだからこそ、ここまで安心できるのだろう。


「ダイキさん、僕達も同じように動けばいいですか?」


「ナルハとマリー様は全体のサポートに回ってほしい。ここは他の皆に任せてもらって大丈夫だから」


 後方に控えていたナルハとマリー様が表情を強張らせながら俺の近くまでやって来る。


 今回はプレイヤーの専売特許たる技能(スキル)(アーツ)が軸となる作戦であるため、NPCたる2人を最前線に置くことはできない。

 ピンチに陥ったプレイヤー――特に初心者の2人を補助してくれるよう動いてもらえれば十分と言える。

 この後も戦いが続く。ナルハには罠の警戒、マリー様はアネモネさんの場所把握という大役をこなしてもらわなければならないのだから。


 俺の言葉に納得してくれたのか、不満を漏らすこともせず、潔く一歩引く2人。


 ――この2人を死なせるわけにはいかない。


 そのまま、2人との会話を終えた俺が再び輪の中に戻ると、ちょうど花蓮さんが発言する場面に遭遇する。


「ヘルヴォルの属性は光、1つだけです。魔法攻撃役(アタッカー)は闇属性魔法での攻撃をお願い、します」


 ぽつりとこぼす花蓮さんの一言に、周りが一瞬ざわついた。


「あ、ありがとう。でも、良かったの?」


「はい。作戦を成功させるためなら仕方ないと考えます」


 自らの召喚獣の弱点を皆に教えた彼女へ、アリスさんが動揺した様子を見せる。

 一緒に戦っていれば、普段使っている魔法などからある程度の予想は立つが……


「ヘルヴォルと同じ姿をした存在に攻撃しなければならないという状況で既に覚悟はできて、いました。ここでわがままは言えませんから」


 気丈に振る舞っている花蓮さんだったが、その表情には少しだけ、悲しみの色が見えた。


 仮にボスがダリアや部長、アルデの姿を真似ていたら、偽物だとしても自分の手で攻撃するのはつらい。他の人へ、弱点を教えるのだってつらい。


 花蓮さんの気持ちはよく分かる。そして、その感情を押し殺して皆の勝利を選んだ彼女の強さを俺は評価したい。


「銀灰さん。この作戦、絶対成功させましょうね」


 できれば素早く、そして確実に終わらせてやりたい。


 決意の篭った俺の言葉に、銀灰さんは静かに頷き答えてみせた。


 ――俺たちの反撃が始まる。

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