ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー⑤』
とにかく雑魚敵の数を減らすこと――アリスさんからの指示を受け、俺たちは戦場を駆ける。
ドンさんの盾に槍を突きつける機械兵士へ、三光剣の技繋ぎを叩き込む!
挑発の効果はそれでも解けず、機械兵士は続く一太刀によってポリゴンと化した。
「スイッチ!」
怒号のようなドンさんの合図を受け、大きな盾を持つケンヤが敵の前へと躍り出た! そのまま敵の群れへと《挑発》を発動、無事にスイッチが完了したのを確認する。
初めての組み合わせなのに、盾役達の息が完璧に合っている事に驚きつつ、再び俺は《空間認識の目》に意識を戻す。
――ボス個体はウルティマが担当してるのか……やはりOさんや花蓮さん達の制圧力は頭一つ出てる印象だ。
戦場全てを見通す目を手に入れた俺は、いつ・どこで・誰が・何をしているかを同時に見ることができていた。
戦場を二分するような形で敵を引きつける銀灰さん・ドンさんがメインタンクを担い、ケンヤとブロードさんが彼等の補助としてサブタンクを任されたのが、一連の動きで見て取れる。
物理攻撃役のアリスさん、ライラさん、エミリさん、金太郎丸・ガブ丸ペア、紋章ギルドの二番隊隊長であるクーロンさん、そしてアルデは盾役が引きつけた敵を一体ずつ潰して回っている。
俺の指示無くとも、既にアルデは自分の役割を把握していることが素直に嬉しい。
物理アタッカーは攻撃力こそ高いものの攻撃対象は基本的に単体のため、敵からのタンクに対する敵視が彼等に移ることは少ない。
先ほどの俺の攻撃がいい例だ。
対象的に――
「《荒ぶる水竜巻》!」
魔法アタッカー……特に、Oさんが放つ大規模且つ強力な魔法が炸裂した後のヘイト移動が目につく。
一度安定したヘイトをいとも簡単に剥がすその火力は圧巻の一言に尽きるが、タンク組はその都度必死に《挑発》をかけ直す作業に追われていた。
「デタラメだなあ……」
「でもお陰で私達にヘイトが移ることもないし、奇跡的に敵の群れを撹乱できているのよね」
宙に舞う機械兵士の塊を見て、苦笑気味に放った俺の言葉に、たまたま背中合わせになったアリスさんが答える。
《竜化》を発動させていない彼女。
まだまだ余裕がありそうだ。
「それにしてもダイキ君の友達のトルダさん、物凄い命中精度ね。普通は魔法より当たらないはずなのに……」
と、敵を二体同時に切り飛ばしながら
後方へ向け、顎をしゃくってみせるアリスさん。
彼女の見つめる先には後衛陣が――そしてその中に一人、何本もの矢を指で挟んだまま射るトルダの姿があった。
空間認識の目のお陰で、彼女が放った矢の行き先までも知ることができる……その恐ろしいまでに正確な当たりどころまでも。
「ほとんど額の石に刺さってますね」
自分が納得できるまで弓を作り込んだり、ナット平原でひたすら矢を射る練習を続けていた彼女は、必中の射を会得していたのだった。
「弱点の核ね。ダイキ君も、攻撃する時はそこを突いた方がダメージ出るわよ」
そう言い残し、アリスさんは後衛陣へヘイトが移った個体を破壊するため駆けていった。
同僚の成長にも驚かされるとは……
「第一波、そろそろ終了だ! 鬼門の第二波来るぞ!」
ケンヤと再びスイッチを済ませたドンさんは、兵士の槍を盾に受けながら声を上げる。
彼の見つめる先、ウルティマが対峙するボスに異変が起こる。
「え……あれ?」
両手に握った短剣を落としそうになりながら、ボスのその姿に驚きの声を上げるエミリさん。
ウルティマの盾へ突きつけられた武器は槍から短剣へと変わったかと思えば、次の瞬間――ボスの姿がエミリさんの物へと変わっていた。
【鏡の兵士 Lv.40】#HIDDEN BOSS
50体以上も蠢いていた機械兵士達も既に半数以上が倒されたため、戦闘のパターンが変わったのだろう。
兵士達も水銀のようにドロリと体を溶かし、俺たちの誰かへと形を変えたようだ。
ズドン!!
落雷にも似た轟音の後、拳から立ち昇る煙をふぅと吹くウルティマ、そして花蓮さん。
「敵のコピーが弱いうちに叩く、です」