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ダンジョン『機械仕掛けのトラップタワー②』

 

 銀灰さん曰く、最初の隠しボスがいる部屋まではまだまだ距離があるようだ。俺はその間にレイドメンバー達へ全ボスへの挑戦を提案していく必要がある。


 まずは俺たちの後方を歩いていたドンさん、そして眼帯をした無口な男性プレイヤー――クーロンさんへと声を掛けた。


「ドンさん、二番隊隊長のクーロンさん、今日はダンジョン攻略に参加していただきありがとうございます」


 改めて挨拶する事も忘れずに、今この場に居ない召喚獣達の分もまとめて彼らに紹介。ドンさんは懐かしむように笑みを浮かべ、クーロンさんはむすっとした様子をそのままに「よろしく」と呟いた。


 その流れで二人に隠しボスを全て攻略する旨を伝える……と、こちらを睨むようにしてクーロンさんが反応する。


「お前、そういう事は募集の内容に記述しておくべきだぞ。ここに居る多くは最深部のボスのみを討伐する頭で参加しているだろうし、いくら銀灰さんが居るからってそれは難易度が変わってくる」


 静かに怒りを露わにするクーロンさんの言葉はもっともだった。


 全ボス撃破を持ちかけてきたのが銀灰さんだったためか、ちっとも自分の頭で考えずに言葉に出してしまった。しかし……少し考えれば、これに伴う他の参加者の負担が大きくなる事も容易に予測できただろう。


 攻略するボスが増えればダンジョン攻略時間も伸び、当然、全員の拘束時間も長くなる。参加してくれた人の中には俺の提案を断れず、無理して付き合ってしまいそうな人も居る。


 軽率だったな……今一度、銀灰さんに内容と勝率、予測される時間等を聞いてくるべきか……


 言葉を失う俺を庇う為か、ドンさんはクーロンさんの肩に手を乗せ、銀灰さんの背中を指差した。


「クーロン、どうやらそのサブマスターがこの提案をしたらしいぞ」


 俺たちの会話が聞こえていたのか、事情を把握していたドンさん。


 彼の言葉を聞き、クーロンさんが目を細める。


「なんだと? じゃあ参加する」


 眼帯の無い目をにっこりと細め、クーロンさんは途端にやる気満々になった。


 先ほどとは打って変わる態度に困惑する俺へ、ドンさんが面白そうに耳打ちする。


「こいつは銀灰の崇拝者だからな。基本的に何事も否定的だが、この一言で大概なんとかなる」


「そ、そうなんですか。でも、彼が言っていた事はすごく正しい気がします」


 クーロンさんが全ボス討伐に意欲的になってくれたとはいえ、彼の主張は正しい。皆が快く参加してくれて今回がある以上、多数決ではなく、満場一致でなければ全ボス討伐を進める事はできない。


「確かに――皆が皆、同じ時間に寝起きしているわけじゃないから、押し付けは良くないな。ただ、サブマスターもそれは分かっていての提案だと思うぞ」


 分かっていての提案……つまり……


「――全ボスを討伐するためにはそこまでの時間は掛からない……という事ですか?」


「前代未聞だから、確実とは言えない。でも、彼は無茶な提案を絶対しない」


 先を歩く銀灰さんの背中へと目を向け、ドンさんはクスリと笑う。


「あの人の本気は、マスターよりおっかない」



*****



「驚いた。みんな、結構好戦的なんだな」


「そりゃ隠しボス撃破なんて美味しいイベントを逃そうって人はいないでしょ。提案したのが紋章ギルドのサブマスって部分も効いてるんだと思うよ」


 とんとん拍子に話が進んでしまい、逆に不安になる俺の呟きへ、悪戯な笑みを浮かべるトルダが反応してみせた。


 結果、俺の気持ちとは裏腹に、レイドに参加してくれた全員が隠しボス討伐に意欲的だった。特に名持ちボス討伐専門のギルドを立ち上げたブロードさんとマイさんは今からやる気満々といった様子をみせている。


 心配する部分としてSeedの二人――雨天さんは場の空気を読んで、クリンさんは雰囲気で断れなかった可能性もあるが……一先ずは満場一致で全ボス撃破が決定された。


 そして一行は現在、明らかに怪しい部屋の前までやって来ている。


「この先……どうやら罠を発動させなければ進めない仕掛けになっているようです。どうしますか?」


 景色はドーム型のだだっ広い空間へと変わり、先頭を行くナルハが困ったようにこちらへと振り返る。隣に立つマリー様も同様に困り顔を浮かべ、しきりに辺りを見渡しているのが見えた。

 天井には今にも何かが飛び出してきそうな金属製のハッチが並び、異様な威圧感を放っている。


「この部屋は僕に任せていただけませんか?」


 緊張の表情を浮かべる二人にそう切り出したのは、隠しボス討伐を提案した銀灰さんだった。

 彼の言葉をナルハもマリー様も二つ返事で了承し、銀灰さんは二人に「ありがとう」と頭をさげる。


「僕のワガママに付き合ってくれたお礼じゃないけど、今から皆に、僕のとっておきの技能(スキル)を見せるね。これ(・・)は僕の戦闘の要、スキル習得の参考にしてほしい」


 そう言い、ドンさんとアイコンタクトを交わした彼は、そのまま部屋の中心へ向け歩き出す。俺を含め、他のメンバーは黙って彼を見守っている。


 何が始まるんだ?


「……これが扱えるようになると、ゲームのうまさ(プレイヤースキル)が一つ上がる。俺も取ってはいるが、まだまだだな」


 「見ものだぞ」と言わんばかりの顔でそう告げるドンさんは盾を構え、レイド全体へ(アーツ)を発動した。


「『石の心(インビジブル)』」


 二つに割れた石像にぴったりと包まれたようなエフェクトと同時に、右下に現れる『石化』と『透明化』のアイコン。

 体のほとんどは動かないものの、不思議と首だけは動かせる。銀灰さんだけは何事もなかったかのように歩みを止めない。


 十字架のような剣を抜き、盾を構えた銀灰さんは、部屋の中心にある大きな出っ張りを足で踏み、技能(スキル)を唱えた。



「『空間認識の(まなこ)』」



 バンッ! バンッ! バンッ! と、連続して開かれるハッチから現れたのは、犬のような形をした機械達。俺たちに気付いていないのか、それらは真ん中に立つ銀灰さんのみを獲物(ターゲット)として認識しているように見える。


 その数――約20


 威嚇するような声と共に、そのうちの何匹かが銀灰さんへと襲い掛かる! 当然、方向やタイミングはバラバラだ。


 ギャンッ?!


 悲痛な断末魔の叫びを合図に、そのどれもが敢え無く斬り伏せられていく。当然、銀灰さん一人の力によってである。


 四方八方から襲い掛かる機械達の猛攻を、まるで未来が見えているかのごとく無駄なく避け、そして斬る!


 避けられないと判断した攻撃はしっかりと盾で受け、すかさずカウンターを叩き込む!


 踊っているようなその華麗な戦闘はものの数十秒で終わりを告げ、銀灰さんが剣を収めるタイミングで石の心(インビジブル)の効果も切れた。

 周りに目を向けると、紋章のメンバーと花蓮さん、そしてOさんだけは“当然”といった表情をみせている。


「う、後ろに目でも付いてんのかよ……」


 動揺の色を隠せないまま、先ほどの数十秒への感想をこぼすケンヤ。その一言へ、銀灰さんが笑顔で答えてみせる。


「後ろじゃなくて、厳密には“上”かな? うまく使いこなせれば隙はかなり減るし、他の人の動きも正確に把握できるようになるよ」


 盾を背中に戻しながらこちらへと戻ってくる銀灰さん。

 とっておきの言葉の通り、確かに有用そうな技能(スキル)であることが窺える。


「あ、あれ? 罠はどうなったのですか?」


「無事に処理できました。道もほら、開かれてます」


 訳がわからない様子のマリー様に、銀灰さんは涼しい顔で答えてみせる。

 辺りの危険を探っている様子のナルハだったが、銀灰さんの言うように全て処理されているのか、安心したような表情を浮かべた。



 

*****



 

トラップタワー1F――防衛ルームc


 漏電するようなバチバチという音と共に崩れ落ちる片腕の機械兵と、床に大の字になって目を回すSeedの面々とブロードさん、マイさん。

 彼らを見下ろすような形で苦笑する銀灰さんと、ライラさんの頬をつつくダリア。


「し、しんどい……」


「向き不向きは確かにあるのよ。私もやってみたけど無理だったし、紋章(うち)でも使いこなせているのは一握りだもん」


 抱いたアルデの頭を撫でながら、苦しそうなライラさんの言葉に苦笑し答えるアリスさん。アルデは状況がよく飲み込めていないらしく、ハテナマークを浮かべている。


 いっぺんに襲ってきた防衛ルームbとは違い、防衛ルームcは複数体の敵が定期的に湧く仕掛けになっていた。

 敵も単純な個体ではなく、武器も様々な統率の取れた動きをするため厄介である。


 その敵を対象に、銀灰さんから教わった技能(スキル)を習得したメンバーがこぞって試したのだが……


「強力ゆえに慣れるまでが本当に大変な技能(スキル)とは言われたけど……何日かかっても慣れる気がしない」


 座り込み、目をゴシゴシするトルダ。

 戦闘に関してかなりの実力を持つ彼女でも、この技能(スキル)を使いこなすにはまだまだ時間が掛かりそうだった。


「ゴミスキルを取らされた気分ですらある」


「あはは。ゴミスキルとまで言われるとは思わなかったなあ」


 虚ろな目で天井を見つめるエミリさんの辛辣なコメントに、銀灰さんは後ろ頭をぽりぽり掻きながら笑ってみせた。


 使いこなせばかなり強力な技能(スキル)であることは、先ほどの銀灰さんの戦闘で証明されている。ただ、あの完成度まで持っていくには相応の時間と能力を伴う様子。


「私のセンスじゃとても……スキル習得券が無駄に終わってしまいそうです」


「トッププレイヤーの一人が要とする技能(スキル)と言っていた程の代物ですからね」


 半べそのルーイさんを慰める形で寄り添う雨天さん。彼女の他に、習得券を持っていなかったケンヤとクリンさん、そしてそもそも取ろうとしていない花蓮さんとOさんは、この壊滅的状況に苦笑する。


「ごめんねダイキ君。僕としては、こんな事になると思ってなかったんだけど」


「悪気がない事なんて皆さん知ってますよ。とはいえ……ここは一つ俺も挑戦してみようか……」


 「おかしいなあ」と困り顔を浮かべる銀灰さんにフォローを入れつつ、アイテムボックスに眠るスキル習得券へと視線を移す。


 Oさんと倒したボスが落としたなけなしの一枚ではあるが、トッププレイヤーの人が勧める技能(スキル)だ、成長のために挑戦するのも悪い使い方ではないだろう。



 よし――



「『皆、前方4体の敵を倒すよ』」


 再湧きした機械兵達を目標とし、ダリア、部長、アルデに指示を飛ばす――と共に、先ほど習得した『空間認識の目』をスキル枠にセットした。


 4体がこちらに向かってくる!



「『空間認識の目』」



 発動すると同時に“浮いた”視点が天井へ……そのまま戦場を見下ろすような位置で止まった。


 ズームイン、ズームアウトは共に可能。あらゆる方向に視点移動も可能。


「って……あれ?」


 ダリアが放つ魔法や部長が使う強化(バフ)、アルデの動きや敵の動き、距離感、自分のすべき事――


「『ダリアはアルデの後ろに回り込んでいる個体に対象変更、アルデはそのまま一対一をしながら次のダリアの魔法を魔法武器付属で吸収、部長は俺の耐久を底上げしてくれ』」


 右下にはアイコンが控えめにだが表示されているため、自分が今どんな状態異常であるかも把握できる。シンクロのお陰で遠くにいても問題なく指示が飛ぶ。


 棒立ちの俺を狙う個体が前方に迫り、槍による突きを盾で受ける――強化(バフ)の効果もあり、ダメージは0。


 頭の中で、何かが“カチッ”と嵌る音がする。



「やり、やすい?」



 どういう訳か、俺はこの『空間認識の目』を問題なく使う事が出来てしまっていた。

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― 新着の感想 ―
そりゃ、複数人の主観視点で二窓しながら全体に指示を出して戦い続けた人間に、俯瞰視点なんて『楽』なモノを与えればねえ……()
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