集結するレイドメンバー達
王都――ポータル前
ボスに挑戦しようと意気込むプレイヤーや、ギルドメンバーを募集するパーティ。奇妙な踊りを踊り続けているプレイヤーなど、王都ポータル前はいつものように賑わっている。
企画者だからと30分前に集合場所へとやって来た俺たちだったが、ポータル前には既に、見知った面々が雑談しているのが見える。
「よお、ケンヤ。今日はすまないな」
「んお? おお、ダイキか。ゲーム内じゃ久しぶりって感じで妙な気分だな」
今日の昼休みは、いつものように屋上で椿を入れた三人で飯を食べたのだが……ケンヤが言うように、久々に会ったような妙な感覚だ。
ケンヤの装備は赤銅色の分厚い鎧、武器や盾は仕舞っている様子。
「ダイキさん! ダリアちゃん部長ちゃんアルデちゃん! こんばんは!」
「こんばんはライラさん。その……すごい格好ですね」
『わわわ……』
元気よく跳ねたのは、非常に露出の多い鎧を着たライラさん。武器は変わらず大剣である。
全年齢対象ゲームとあって常識の範囲内ではあるものの、その装備を見たアルデは茹でタコのようになって俺の膝に顔を埋めた。
「ほら、だから言ったじゃないの。ダリアちゃん達も居るんだから着替えてきなさい」
「はーい」
保護者のようにライラさんを諭し、物陰へと退場させたのは雨天さんだった。
ウェーブだった髪型がフレンチツイストへと変わり、純粋に色気が増している印象を受ける。どこか顔付きが変わったように思えるが……眼鏡を変えた、のか?
ライラさんへの接し方がすごく自然な感じになっているのは、長く一緒にいたギルドメンバーならではの変化と言える。
「ライラさんもそうですが、雨天さんも印象変わりましたね」
「お? 具体的にどう思うんだ?」
何故か茶化すように、ニヤついたケンヤが肘でつついてくる。
具体的にって言われてもなあ……
「色っぽくなった? といいますか、髪型もそうですが顔そのものが変わった気がしますが……」
「そ、そうですか……」
結局曖昧な感じで返してしまったが、雨天さんはどこか照れたように眼鏡をかけ直す。
「雨天のやつ、こないだアバターの外見作り直したんだよ。で、なんで照れてるのかは知らん」
「老けてるから前の方がいいって言っちゃったケンヤには分からないだろうなー」
期待していた答えを俺が言わなかったのが面白くないのか、やれやれと頭を振りながら肩をすくめるケンヤ。
着替えを終え、建物の陰から戻ってきたライラさんがため息を吐き、同じように肩をすくめてみせる。
今度の彼女の格好は、動きやすそうな布製の服だ。
「こ、こんばんはダイキさん。ダリアちゃん達もこんばんは」
『仲よさそうにしてるねー』
「こんばんは、クリンさん。部長も言ってますが、金太郎丸もガブ丸も仲良しになったんですね!」
小走りで寄ってきたクリンさんと挨拶を交わしながら、腕の中に眠る二匹の召喚獣へと視線を向ける。
前までは距離を取ってお互いを牽制していた二匹だったが、子犬の兄弟のように仲良く寝息を立てていた。
「はい、おかげさまで!」
嬉しそうにそう答えるクリンさんの顔にも、以前の思い詰めた様子は無い。
あの催しが功を奏したのかは不明だが……問題が解決したようで良かった。
「一件落着はしたのですが、私、もうこの子達だけで精一杯だと思ったので、騎士の召喚士さんに相談したんです」
「フレイルさんですか、彼は何と?」
「二匹の召喚獣だけに愛情を注ぐ道もあるって言われて、クエストを受けたんです。そしたらこの子達の親密度も目に見えて上昇するようになって……」
なるほど。俺が部長についての悩みをフレイルさんに相談した時のように、その後クリンさんも彼に相談していたのか。
考えてみれば、フレイルさんもあのレベルに対して召喚獣は二体だけ。彼が言うように、召喚獣を一定数で打ち止めして育てる方法もあるようだな。
面白い情報だ。
「今日は花蓮さんも来る予定なので、彼女にも報告してあげてください。きっと喜びますよ」
「はい! ありがとうございます!」
彼女の服装はモコモコの付いた白のコート。熊の金太郎丸と狼のガブ丸、動物つながりで、彼女はどこか兎のようだ。
とはいえケンヤの話では《八枠》、つまり残り二人来ることになっているはずだが……
「おいお前ら、いつまでそこで隠れてるんだよ。レイド前に全員に挨拶、常識だぞー」
ひとしきり挨拶が済んだ所で、ケンヤがポータルの後ろに隠れていた二人に喝を入れ、おずおずといった様子の二人組が俺たちの前へとやって来る。
「す、すみません。一緒にレイド組むのがまさかお義父さん達とは思ってなくて……」
「幼女神様が、少女神様になってる……?」
見れば、二人とも会ったことのないプレイヤーだった。
一人は緑のラインが入った黒いローブという出で立ちで、背中に大きな杖を装備しているのが確認できる。
ショートカットの女の子、先に発言したのは彼女である。
もう一人は両足に巻かれたホルダーにナイフを忍ばせている盗賊タイプの職業で、全体的にベルトの多い防具で固めていた。
ウルフヘアーの女の子。アバターなので何とも言えないが、どちらも可愛らしい顔付きで、年齢は15歳くらいに見える。
「ちょっとしたドッキリのつもりだったんだが……想像以上に動揺しちゃってな。魔法職がルーイ、盗賊職がエミリ。俺たちのギルドでは強い方のメンバーだ」
二人の紹介と詫びを同時に済ませ、満足そうに腕を組むケンヤ。
いや、俺たちよりも、この後来る面子を見た時の方が心配だ。会うだけじゃなく、この後共にレイドを組むのだから。
俺が緊張した様子の二人に声を掛けるよりも先に、アルデが動く。二人の間に入って手を繋ぎ、『よろしくね!』と笑顔を向けた。
二人の体がビクッと跳ねる。
「初めまして、俺は召喚士のダイキ。こっちがダリアで上のが部長、そして二人の間にいるのがアルデ。彼女がよろしくねって言ってます」
「よ、よろしく、おねがいします」
「う、やべ……」
まだ緊張が解れていないのか、ぎこちなく笑ってみせる魔法職のルーイさん。対するエミリさんだが……消えた?
「あれ? エミリさんは?」
「あー、ログアウト中ってあるな。まああれだ、察してやってほしい」
俺の言葉に、ケンヤが苦笑しながら答える。
タイミングから考えて、強制ログアウトってやつだろうか? 確か似たような光景を紋章ギルドに行った時に見たような……
まあ、いいか。
「そうだ、紅葉さん元気にしてますか? 確か、Seedに加入したって言ってましたよね?」
「ええ、紅葉は生産組ビギナープレイヤーの教育係をしてもらっています。最近は何か忙しいようで、あまりログインして来ないようですが……」
俺の質問に、雨天さんが答えてみせる。
学生や社会人問わず、リアル優先というのは仕方のない事だろう。ゲームはあくまで息抜きなのだから。
ともかく、活動自体は問題ないようなので安心した。
彼女が今日来るのであれば、葉月さんの様子を聞こうと思っていたのだが……やはり葉月さんには直接会って確認してみるとしよう。
しばらく雑談している間にエミリさんが戻って来る。心配するように再び手を伸ばすアルデから距離を取り、深呼吸している姿が印象深かった。
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