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救援要請

 

 城内――訓練所


 ナルハに会うべく訓練所へとやって来た俺たちは、二階の吹き抜け部分で訓練の風景を見学していた。


 そこには複数人の騎士と王女、王子が見守る中で少年と木剣を交えるナルハの姿があり、一戦ごとに丁寧なアドバイスを挟んでいるのが聞こえてくる。


 横で見守る王女――かなり大人びている事からマリー様のお姉さんと考えられる――は、ナルハへ尊敬するような眼差しを向け、隣に立つ王子は対照的に、さも胡散臭そうな視線を向けていた。


 俺はその光景を見下ろしながら、横で楽しそうに観戦するマリー様へと質問する。


「あの女性と、男性は?」


「えー? ダイキ、第二王女と第一王子の事も知らないのー?」


 すっかり口調が以前のモノへと戻ってしまっているマリー様だったが、本人は気付いているのかいないのか……口を尖らせ俺を馬鹿にするような視線を向け、目を細めた。


 王都の王子や王女を知らないとなれば、馬鹿にされて当然ではある。


「あっちが第二王女のメアリー・ロウ・ダナゴン。こっちが第一王子のエドワード・ロウ・ダナゴン。二人ともわたくしより8つも歳上だよ」


 マリー様の説明を受け、再度、王子と王女へと視線を向ける。


 第一王子のエドワード様は俺と同い年位の見た目であり、顔付きは立派な成人男性のソレである。


 マリー様と同じく金色の髪と青色の瞳を持ち、豪華な鎧を身に纏っている。身長は180くらいだろうか。


 自分より明らかに年下であるナルハが第二王子に稽古をつけているのが納得いかないのか、フレイルさんが言っていた《選ばれし者》への嫉妬なのか……その表情は険しい。


 その隣で目を輝かせているのが第二王女のメアリー様。外見はマリー様やエドワード様とは少し違い、ブラウンの髪と緑の瞳を持っている。


 顔立ちはマリー様より幼い印象を受けるが、体つきは大人の女性そのもの。特にバストは……


『ナルハを見てるんだよね?』


『ナルハも見てるぞ』


 鋭い眼差しを向けるダリアの頭を撫でながら、今度はナルハと対峙している第二王子へと視線を移した。


 第二王子はマリー様と同じ年くらいか幾つか年下……といった印象を受ける、第二王女と似たような幼顔であり、彼女と同じ髪色・瞳の色をしていた。


 ぎこちなく剣を振る様はとても見ていられないお粗末なものではあるが、ナルハは嫌な顔一つせず、反省点とアドバイスを丁寧に教えているのが見える。


「ナルハは《選ばれし者》だから城に呼ばれたってフレイルさんが言ってましたけど……」


「稽古なんて建前だよ、城に呼びつけるための口実。そもそもニールなんかまともに剣握った事ないもん。もし稽古を付けるとしたら、王族で一番強いわたくしになる筈だから」


 と、ややドヤ顔気味で語るマリー様。

 彼女の言葉が冗談なのか本気なのか、今は確認する術がない。


 道行く騎士が「こんにちは、マリー様」と満面の笑みで挨拶し、マリー様はそれにそつなく対応する。


 イベント時に貰っていた《王都騎士装備》を着ていたのが功を奏したのか、それともフレイルさん達が誤解を解いてくれたのか……俺たちにはノータッチだった。


 その騎士が階段を下りていくのを見送ると、マリー様はウンザリしたように溜息を吐き、手すり部分に顎を置いた。


「ダイキならわかるよね? 昔はこんな挨拶なんて向けられなかった。皆、わたくしの力が証明された日から変わってしまった」


 どこか寂しげな彼女の言葉。


 昔は陰で虚言姫などと噂され本人もそれを知っていただけに、今のこの対応の差に戸惑っているのだろう。

 人は価値のある人間の前だと、こうも態度を変えてくるものだ。


「変わらず居てくれてるのはダイキ達だけだよー! 次また何処か居なくなったら許さないから!」


 そのまま、無邪気な笑みで俺の腕を取るマリー様。

 お決まりのようにダリアが止めにかかると、マリー様はヒョイと抱き上げ頬ずりをしてみせた。


 完全に、体が大きいだけの子供である。


『やりづらい』


 呟くダリアに苦笑いし、再び視線をナルハの方へと移す。


「ナルハは気付いてないですよ。求められているのは剣の技術ではなく、自分の“力”だって事に。第二王子に稽古を付けられるって嬉しそうにしてたのに……」


「……」


 掲示板を見る限り、ストーリークエストはいくつもの分岐点がある。


 マリー様の力を信じてやれなければ、恐らくこの状況・会話は発生しない。そもそも、マリー様とここまで仲良くなる事も無かったかもしれない。


 タリス達と洞窟内で共闘していなければ、ナルハの不思議な力を知る事も無かった。


 選択肢が違えば――もしくは、ストーリーの進める順番が違えば、今回のクエスト内容は単に《第二王子にナルハが稽古を付ける》という平和なものになっていた可能性がある。


 プレイヤーの行動によって、異なったエンディングが用意されているに違いない。



*****



 城内――テラス


 後ろでガシャガシャと足音が聞こえるのを感じながら、壁に寄りかかり、やり過ごす。

 王都騎士の格好をしたダリアとアルデは駆け回る騎士達を確認するように、そーっと顔だけ覗かせている。


「……マリー様。本当は俺たちを大罪人にしたいだけなんじゃないですか?」


「な! ちがうもん!」


 俺の言葉に、マリー様が顔を赤らめ声を荒らげる。


 違うも何も、彼女から接触してきてもアウトという謎の規則の所為で、またもや俺たちは牢屋へ送られる危機に陥っていた。原因は、彼女に腕を取られた姿を騎士達に見られたためである。


「さっきの言葉ですが、あの建物に行くにあたり、ナルハを連れて行きたい訳とは?」


 逃走中に呟いていたマリー様の言葉を思い出し、この状況をやり過ごすまでの話の種にとして聞いてみる。


 彼女の目的は五年前と同じく少女を助けるという使命。乗り掛かった船だ、もちろん俺たちもマリー様に協力するつもりだ。


「実はあの建物には何度か進入した事があって……でもあまりにも危険が多いから、ずっと進めないでいたの」


「モンスターとか、その類いですか?」


「それもあるけど、一番は侵入者撃退用の罠の数」


 クエスト内容にもあるように、あの建物の正式名称は《機械仕掛けのトラップタワー》。罠で苦戦する理由も分かる。


 ナルハの力は《危険察知》であるし、彼が居れば罠避けも相当楽になると考えられるが……


「彼じゃなく、彼の力だけを頼っているのは他の人達と一緒ですよ? 俺たちは手伝うつもりですが、彼の意思も尊重してあげてくださいね」


「……わかった」


 一応、釘を刺しておく。


 彼女もまた、自分の力を知った人達にゴマを擦られる毎日を送っているためか、俺の言葉がかなり心に刺さった様子。


 気の毒だが、無理にナルハを付き合わせるのも可哀想だ。仕方がない。


『あ』


『き、きたよ!』


 城内を監視していたダリア達が突然騒ぎ出したと同時に、「あそこだ!」と声を荒らげた騎士達の足音が近付いてくる。


 見回りの騎士達がどの程度のレベルなのかは分からないが、ここは強行突破しかないか……?


 テラスの遥か下に地面があり、とても飛び降りられる距離ではないと悟る。

 俺たちは素直に姿を見せ、騎士達と対面した。


 数は三人……どうだ?


「王女様と接触したお前達は罪人だ。牢屋へ連行する」


「ダイキたちはわたくしの友達だもんっ! ……い、いや、違う! 友達じゃなくて知人だ! この件は例外だ!」


 口調がもうめちゃくちゃである。


 騎士達は揃いも揃って頭が硬いのか、聞く耳持たぬといった様子でこちらに詰め寄ってくる。


【王都騎士 Lv.46】

【王都騎士 Lv.43】

【王都騎士 Lv.44】


 戦闘の合図と共にレベルが表示され――少しだけ、ホッとする。

 フレイルさん達のようにレベル100であれば倒すのも逃走する事も不可能だったが、ちゃんと適正レベル程度にまで調整してあるようだ。


 意を決し、剣を抜く――と同時に、彼らの背後で三度何かが煌めき、騎士達が糸の切れた人形のように倒れこんだ。


 後ろに立つ彼を見て、俺は剣を鞘に収める。


「……これで僕も罪人ですかね」


「 仲良く捕らえられたら、今度は牢屋で俺に稽古付けてくれ」


 肩を竦める俺に対し、ナルハが木剣を下ろしながら、苦笑を浮かべた。



*****



 城内――来客用個室


 用意された椅子に座りながら、マリー様の話を真剣に聞くナルハ。俺もこの場で、マリー様の計画の全貌を聞くこととなる。


「つまり、目的はその建造物の最深部に向かう事……これで合ってますか?」


 話を整理するナルハの言葉に、マリー様は大きく頷いた。

 ナルハとしては、初対面であるこの第四王女の言葉を信じるか否か、かなり迷っているように思える。


「僕もあまり詳しくはないのですが、その建造物に立ち入る事は禁止されていると記憶しています。これはエヴァンス王が決めた規則、破れば大罪人です……まあ、もう罪人みたいなものですが」


「無理を承知でお願いしています」


 実際、王が欲しがる程の力を有したナルハが加われば心強い事この上ない。


 五年経った現在も、彼女の使命は続いている。はるか昔に亡くなった筈のアネモネさんの声が何故今も聞こえるのか、マリー様自身も分かっていないようだ。

 仮に、彼女があの建物に居たとしても、既に五年も放置された建物だ……生存は絶望的だろう。声自体が罠とも考えられる。


 彼女の力を理解した上でも、めちゃくちゃな提案である。


 普通に考えれば断られるような頼みだが――何故か彼は違っていた。



「ダイキさん達が行くのであれば、僕もお供します。マリー様の話も、信じます」



 王からの信頼と俺たちへの信頼を天秤にかけた彼は、迷わず俺たちへ協力する事を選んだのだった。



*****



 城内――実験室B2


 五年前にも見たその建造物は今もなお、変わることなくそこに建っていた。

 黒塗りの外観はどこか不気味で、所々から突き出たケーブルは生物のようにうねっているのが見える。


「ここが……その場所ですか。確かに、異様な雰囲気ですね」


 道中にあったガラスケースの中身等を見たナルハは、既に只事ではない事を悟っている。

 心の中は、恐らくここに来るまで半信半疑だったのだろう。今はもう、何かを確信したような顔付きに変わっている。


「わたくしは入り口を開けてきます。ダイキ様達は戦闘の準備を」


 マリー様の言葉を合図に、俺の目の前に現れた半透明のプレート。

 そこには、この場所が多人数攻略型のダンジョンである事を意味する内容が書かれていた。



【ダンジョン:機械仕掛けのトラップタワー】


参加人数:6/30

参加条件:なし

クエスト失敗条件:時間切れのみ

クエスト期限:残り47:59:56

ストーリーボーナス:マリー、ナルハが参加しているためボーナス値最大。全ステータス200%アップ。全属性耐性中アップ。獲得経験値量増加。


突入しますか?【 はい / いいえ 】



 読み解いてみると、どうやらこのクエスト――及びダンジョンアタックでは、他のプレイヤーを助っ人として呼ぶことができる仕様になっているようだ。

 参加人数は俺たちに加えマリー様とナルハで合計6人。更に、あと24人呼ぶことができるとある。


 レイドであるから当然だが……そういう事なら。


 俺はそのままメニュー画面を操作し、フレンド画面を呼び出す。

 フレンド画面の下の方にある《チャットルーム》というボタンを押し招待メールの所へ内容を記載、送られた数件のメールを見送った。


 協力できる人が居ればチャットルームに顔を出してくれるはずだが……さて、どうだろう?

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