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天才発明家W・ステルベン

 

 城内――実験室


 一階までは中世らしく石造りの建造物だった城は、地下に降りるにつれ、その姿を近未来的に変貌させた。

 階段を造る材料は石材から金属へと変わり、必然的に足音も大きくなる。

 マリー様は何度か来ているのか、かなり慣れた足取りで先頭を歩いている。


(「じっけんしつ? なんでステルベンの部屋から?」)


 少女の手掛かりが残されているその場所は、城は城でも城の地下。彼女曰く、ここには発明家の《W・ステルベン》がいるらしい。


 W・ステルベンといえば、確かストーリーでもかなり名前の出てきた人物だ。

 王都を発展させ飛行船や機人族などを生み出した、まさに天才発明家。マリー様の部屋にある隠し滑り台も、彼が作ったと言っていたな。


「ステルベンはものしりだから、何かじゅうような事をしってるのかもしれないな!」


 少女の手掛かりが示す場所に信頼を寄せる人物が住んでいるともなれば、彼女の中では既に、少女発見に近い所まできていると推測できる。


 そしてマリー様の隣を歩くアルデは、マリー様とはまた別の意味でソワソワした様子。

 恐らく、視界いっぱいに広がるメカメカしい外装の部屋に、乙女心をくすぐられているのだろう。


 彼女は可愛いものも、格好いいものも好きだから。


『なんかすごく嫌な感じがする』


『嫌な感じ? この実験室にか?』


 ぽつりと呟くダリア。

 聞き返してみるも、彼女は再び沈黙する。


「ステーールベン! いーれーてー!」


 重厚そうな扉の前までたどり着き、マリー様は横に備え付けられたパネルの上に勢いよく手を乗せた。

 すると――パネルが淡く光を放ち、その光はマリー様の中指からゆっくり下までを通過する。


 ガコンッ! シューーッ!


 次の瞬間、金属製の扉が螺旋状に開き、中へと通ずる道が現れた。


「ステルベンの部屋はおもしろいぞ! よくわからない物がたくさんある!」


 マリー様はこの場所が好きなのか、上機嫌な様子で中へと入っていく。


 彼女の指紋、もしくは別の何かをスキャンして扉のロックが解除されたのか……となると、やはり彼の発明力だけ異常に進んでいる事がわかる。

 王が城の地下に彼を住まわせ、その発明力を独占しているのも合点が行くな。


 扉が閉じる前に慌てて中へと進み、先を行くマリー様を追う。


 W・ステルベン……一体どんな方なのだろうか?



*****



 散らばる資料と、禍々しい色の液体。


 人間を模した機械の体と、それに繋がる無数のケーブル。


 実験室の名に相応しい内装に、思わず「それっぽいな」という言葉が溢れる。


 やけに広い空間に、所狭しと置かれた機械の数々。

 筒状のガラスケースの中には石板らしき物が浮いており、そこに並ぶ楔文字のような形の記号達を見て、なんとなく古代の物なのだろうと推測した。


「ステルベン! ひさしぶり!」


 部屋の中央で機械に話しかけるマリー様。


 いや……彼は機人族だったか。


「マリー王女様、また部屋を抜け出されたのですか? ボクが作ったあの仕掛けは、部屋に侵入者が来た時の脱出用だって言ってますのに」


 温厚そうな、初老の男性。

 ブラウンの髪は綺麗に分けられ、耳があるべき場所にはアンテナのような何かが立っているのが見える。


 出で立ちは発明家というより科学者のような、少し油で汚れた白衣を着用していた。

 袖から伸びる手は完全に機械の物で、ラインのように走る黄色の光が行ったり来たりを繰り返している。


「おや? お客さんですか?」


「そう! ダイキとダリアと部長とアルデだよ! 友達になった!」


 遅れて俺たちに気づいたステルベンさんへ、マリー様は自慢するように、得意げな顔で俺たちを紹介していく。


「お邪魔してます。冒険者のダイキと申します」


「おー、君があのダイキ君か。風の町での活躍はボクの耳にも入ってるよ! あぁ、耳というより吸音機だけど」


 と、自分の顔の両端にあるアンテナを指差しながら自虐的に笑ってみせるステルベンさん。


 なかなか面白いジョークである。


 天才発明家と聞いていたので、発明にしか興味がなく……会話もままならない人物かもと偏見的に予想していただけに、いい意味で裏切られた気持ちだ。


 我ながら、失礼な男だと思う。


「そんな期待の冒険者を連れて来て、まさかボクに彼らを見せつけるためじゃありませんよね? ボク、友達いないの知ってますよね?」


「ステルベンが友達いないのはしってる!」


 冗談っぽく笑う彼に、はっきりものをいうマリー様。

 子供故の発言ではあるものの、ステルベンさんの顔は笑顔のまま止まっている。


「あのね、この部屋に探し物があるの!」


 早速本題を切り出すマリー様に、ステルベンさんは少しも動揺する様子も見せない。


「探し物ですか。フレイル氏の机の中と直接繋がっている物盗り装置のスペアでしょうか?」


「し、シーッ!」


 どうやらフレイルさんのオヤツを盗んでいるのは召喚獣のローズマリーだけではなかったようだな。

 自分の悪事を俺たちに聞かれ焦るマリー様は、顔を真っ赤にして大きく手を振った。


「ちがうよ! 女の子のもちもの!」


 彼女の言葉にステルベンさんは一瞬だけ目を細めたが、すぐさま笑顔に戻り、両手を広げてみせる。


「そうですか。とはいえボクもこの部屋のどこに何があるのか把握しきれていませんし、心当たりもありません。捜索はご自由にどうぞ」


 子供とはいえ王女の命である。当然ながら、素直に協力してくれる様子。


 しかし……この広くて入り組んだ部屋の中で、どんな物かもわからない手掛かりを探すのはかなり骨が折れそうだ。


「……」


 無言でマリー様へと視線を向けると、既に彼女はこの部屋にある《声》を探りにかかっており――突然、目を見開いた。


 青ざめた表情は、見てはいけない何かを見てしまった人のようで、俺とステルベンさんは顔を見合わせる。


「どうしました? マリー様」


「い、いや。なんでもない……と、思う」


 途切れ途切れで答えてみせたマリー様の様子は明らかにおかしかったが、彼女はそれについての説明はせず、再び声を探るべく集中し始める。


 初めて見る光景なのか、目を閉じ沈黙するマリー様をステルベンさんは興味深そうに見つめていた。


 そして――


「見つけた! こっち!」


 と、元気よく駆け出すマリー様。

 後を追う俺たちの後ろを、ステルベンさんも付いてきている。


 協力してくれたとはいえ、自分の発明品を勝手に弄られるのは許可できないのだろう。マリー様なら、最悪壊しかねない。


 部屋の隅まで来てもマリー様の足は止まらず何もない壁の前へとたどり着き……そのまま、飛び込んだ。


「!」


 俺よりも明らかに動揺してみせたステルベンさんだが、何故かこれ以上彼女を追う様子はない。


 彼が把握していない隠し扉があった……なんて、そんな事はないだろう。


 彼女一人で行かせるわけにはいかないため、彼に一言挨拶を告げ、俺たちもマリー様の後を追った。



*****



 城内――実験室B2


 扉の奥は滑り台ではなく階段となっていて、それを下りていく途中でマップの内容が変化する。


 実験室B2――以前、草の町にて受けたクエストで指定されていたのは《研究室B4》だったから別の場所ではあるが……近い匂いを感じるな。


 何かに取り憑かれたように歩き続けるマリー様に必死に付いていく中で、実験室B2の様子を見渡してみる。


『ひッ……!』


 マリー様に追いつくべく早足で移動していたアルデも実験室の異様な風景に恐怖し、俺の元へと戻ってくる。

 足にしがみつくアルデを抱き上げながら、再びそのガラスケースの中へと視線を移す。


 様々な人型種族の――死体、だろうか? 緑色の培養液らしき液体に入れられ、体の一部を機械に取り替えられているのが見て取れる。

 その侵食度は片腕一本だけの場合もあれば、ほぼ機械そのものな種族も見受けられる。


 思えばステルベンさんも、顔以外はほぼ機械だったな。


『ここなにー?』


『なんだろうね。あまり見ないほうがいいかもしれない』


 手の届く範囲にいた部長とアルデの目を隠し、引き続きマリー様の後を追う。

 横を同じペースで歩くダリアが、ガラスケースを見ながらぽつりと呟いた。


『嫌な感じ』


『……』


 彼女はこの実験室の存在を、どこかで感じていたのかもしれない。



*****



 城内――実験室B3


 そこに広がる光景に、俺はもちろん、遂に足を止めたマリー様も絶句する。


 まるで地獄への入り口のような深く……ひたすら暗い巨大な穴と、その中心に建つ四角い塔。

 塔の先端から伸びる太い柱は天井を貫通し、何処かへと繋がっているのがわかる。


 なんだ、これは?


「……声が、する」


「あの塔からですか?」


 真っ直ぐ、塔へと視線を向けたまま呟くマリー様に、思わず聞き返す。

 あんな場所に、アバイドさんの恋人――アネモネさんの手掛かりが存在するのだろうか?


「ほんとうはさっきの部屋に声があったけど、こっちからはホンモノ(・・・・)がきこえてくる」


 小さな手をギュッと握りしめ、淡々と語るマリー様。


 ホンモノとはつまり……少女、そのもの。


「でもだめだ。あの中へはまだ行けない」


 そのまま、マリー様は悔しそうに踵を返し、元来た道へと歩き出す。


「マリー様?」


「行っても、わたくしはただ死ぬだけ。もっとつよくならなきゃ……あの子はきっと、ずっとあのままだから」


 果たして彼女には少女の《声》以外、何が見え、何が聞こえているのだろうか?

 マリー様が何かの決意を胸に秘めたと同時に、クエスト完了を告げる鐘が鳴り、一つのクエストが開かれる。


 新しいクエストではなく、既に候補の中に並んでいたクエスト。

 以前の俺は条件を満たしていなかった。そして今回の行動で、その条件がクリアされたようだ。



【ストーリークエスト:機械仕掛けのトラップタワー】推奨Lv.40


第二王子の剣術の稽古を付けるため王都へやって来たナルハは城内部にて、巷で噂の絶えない“虚言姫”に出会う。彼女の言葉を聞いたナルハは……?


???[0/1]


報酬:経験値[31055]

報酬:G[50000]

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