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声のする家の主

 

 クエストクリアを告げる鐘と、新しいクエスト受注を告げる音が同時に鳴り響き、俺は表示された内容へと目を通していく。



【ストーリークエスト:嘆きの少女】推奨Lv.35


何かの声を聞く事ができるという不思議な力を持つマリー。彼女の言う使命は、どこかで助けを求める少女の救出だった――


経験値[3901]



 クエストは順調に進行しているようで、既に内容が変わっている事がわかる。

 とはいえ、今回はヒントが無いため完全に手探りとなるだろう。


「まずはその“声”がする方へ行ってみませんか?」


 マリー様の力だけが唯一の手掛かりと言っていいだろう。彼女に頼るほかはない。

 俺の言葉を受けたマリー様は俯き、表情を暗くさせる。


「わからない」


 力なく言う彼女を見て、今までずっと助けに行けなかった理由もこれではっきりした。

 声そのものは聞こえるが、どの場所からの声なのかはわからない――これでは探しようがないだろう。


 しばらく考えた後、とりあえずの案を彼女へと伝える。


「本人がダメなら“物”ですね。何か、その少女と似たような声を発している物が、王都のどこかにあるかもしれません」


 彼女が聞こえるのが“音”ではなく“声”という要素が重要である。

 これが“音”であったのなら手掛かりは出処だけ。あてもなく移動し、音が大きくなる場所を探さなければならないからだ。

 声ということは、語りかけてくるようなイメージだろう。

 傷んだおやつを例としてみるなら『私はとっくに消費期限の切れた食べ物です。食べてはダメです』といったような言葉が、彼女の頭の中へと直接送られているのかもしれない。


 消息を絶った少女の家でもわかれば、持ち物から何かヒントのような声が聞ける可能性があるのだが……


「こえしつの似ているのをさがせってことか!」


 彼女もこの年齢にしてみれば、かなり察しのいい方だろう。

 俺の言いたいことを理解したマリー様が表情を明るくさせる。


「そうなりますね。できますか?」


 俺の提案に、マリー様は名案だと鼻息を荒くしている。

 できるかも! と、曖昧な返事をしつつ目を閉じ、集中してその声を探りはじめた。


『あっち見張ってくる』


『お、おう。頼んだぞ、ダリア』


 そう言って、ダリアが大通りの方へとゆっくり歩き出す。


 確かに、マリー様を探すためそろそろオールフレイさん辺りが王都中を駆け回る頃だろう。路地裏とはいえ、見つかる可能性は高いが……ダリアの機転に思わず動揺してしまった。

 

 最近は話し方もはっきりし始めているし……体だけでなく、比例して知能も成長しているのだろうか。


 路地裏と大通りの境で腕を組みながら仁王立ちをする、たくましい少女の姿に苦笑しつつ、俺たちは引き続きマリー様の様子を見守る。


 そして――



「あった! 声、あったよ!」



 ずっと探していた声の手掛かりが見つかったのが相当嬉しかったのか、バンザイをして喜びを爆発させるマリー様。


 常に聞こえていたのであろう少女の声に対し、物の声を探し出すのにはかなりの集中力と時間を要していた事から、声の種類によって探すための難易度が変わってくるのかもしれない。


 なんにせよ、新しい手掛かりが見つかったのは大きい。


「声がするのは……にかしょ。ここからずーっと先にあるおうちの中と――おしろの中」


「お城の中?」


 まさかお城に手掛かりがあるとは思ってもいなかったが、それはマリー様も同じらしく、少し不安そうな表情を見せる。


「おかしいよ。おしろから声がすればいつもわかるはずなのに!」


 彼女の言う通り、彼女の家たるお城から声が聞こえていたのであれば、マリー様が今まで気付かなかった事に違和感を覚える。


 なぜ今になって……お城では集中が足りなかったから聞こえなかった……のか?


 そして何より、必死に助けを求める少女の所持品がお城にある事に、何か陰謀めいたものを感じた。


 まさか王族……それとも騎士の誰かが少女を誘拐したなんて事は、無いと信じたいが……


「――とりあえずお城は後回しにして、先に“おうち”の方を探してみませんか? お城に戻れば、しばらく身動きとれなくなりそうですし……」


 身動きがとれなくなるくらいならまだ良いが、王女を誘拐した犯罪者だと捕らえられても不思議ではない。


 名声が下がる以上のペナルティを受ける覚悟をしておく必要がありそうだ。


「わかった。では、あんないしよう!」


 俺の心配を他所に、居ても立っても居られないマリー様はさっそく目的地の方へと歩き出す。


 俺は見張りをしてくれていたダリアを呼び寄せ、マリー様の後ろをついて行く。


『あれ? この道……』


『どうした? アルデ』


 何かに気付くアルデだったが、しばらく首を捻った後『気のせいかも』と訂正する。

 王都の路地裏となれば似たような道は沢山あるだろうから、既視感を覚えても仕方がない。


 そしてマリー様がたどり着いた一軒の家を見て、俺とアルデは同時に声を上げた。


 俺たちは一度、この家に来ている。


「はいるよー!」


 古ぼけた木製の扉を開け、堂々とお邪魔するマリー様。

 椅子に座り本を読んでいた住人は突然の来訪者に驚いた顔を見せたが、俺たちの顔を見て、即座に笑顔を見せたのだった。


「おやおや。賑やかな子達が来たと思えば……ダイキ君達じゃったか。ほっほっほ」


 ロッキングチェアに揺られながら読んでいた本を机に置き――嬉しそうに髭を撫でる、獣人族のお爺さん。


(「僕がやっているのは挨拶じゃなく――懺悔なんだよ」)


 Oさんの言葉がフラッシュバックする。



「こんにちは。アバイドさん」



 そこに居たのはOさんの懺悔の相手、老いた獣人族のアバイドさんだった。

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