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隠れんぼの果て

 

 鼻歌交じりに歩くマリー様と、辺りを見渡しながら彼女の隣に並ぶダリア、アルデ。

 行き交う人、飛び交う声、食べ物の匂い。

 城下町さながらの風景の部屋――ではなく、俺たちは城を抜け出し、外を歩いていた。


「オールフレイさんになんて言い訳したらいいのだろうか……」


「だいじょうぶ。わたくしが奴にいっぴつ書いてあげるから!」


 恐らく、マリー様の一筆は何の効果も無いだろう。逆に火に油を注ぐことになりそうだ。

 フレイルさんの前で約束した手前、なんとしてもマリー様の脱走は阻止しなければと思っていたのだが……まさかあんな方法で抜け出しているとは驚きだ……


「誰に作ってもらったんです? あの滑り台」


 第四王女の部屋から城下町の中腹までを繋ぐ、長い長い滑り台。

 城から一直線に、尚且つ外部から全く気付かれない構造の滑り台など俺の理解を超えているが、現に俺たちが使ったルートは存在している。

 まさかマリー様がここまでの装置を自分一人で作ったとは考え難い。誰かに協力してもらったに違いない。


「ステルベンだ! あいつはいい奴だ! 滑り台は、あいつとわたくしとダイキたちだけの秘密だからね! オールフレイにいったら酷いからな!」


 と、俺への忠告もそこそこに、何かに引っ張られるように移動し始めるマリー様。

 まさかNPCとアドレスの交換なんてできないため、オールフレイさんの連絡先も、フレイルさんの連絡先も知らない。

 このまま彼女を放っておくことはできない。責任を持って、俺がこの子を城に戻さなければならないだろう。


『二人とも、マリー様を見失わないようについて行ってくれ』


 俺の言葉に頷くダリアとアルデ。

 歩くペースを早め、彼女の後について行く。


「やっぱり、これだよなぁ……」


 画面の半分ダリアの視界を借り彼女達を見失わないようにしながらメニュー画面を操作、受注中のクエスト一覧を開き、王都のクエストをスライドしていく。



【ストーリークエスト:お転婆王女マリー】推奨Lv.30


城の中は大パニック! なんと、第四王女のマリーが城を抜け出してしまったのです!「わたくしにはしめいがある!」夢にでも見た物語の続きなのか、自分の使命を果たすべく、お転婆マリーは今日も王都を駆け回ります。王都の何処かにいるマリーに話しかけ、彼女の使命に耳を傾けましょう。


マリーの好感度:現在[47%]


経験値[2309]



 焦る俺とは対照的に、マリー様はとても楽しそうにしている。好感度上昇が何よりの証拠だ。

 好感度が連動していると考えるに……十中八九、これもストーリークエストの一環だろう。

 部長の問題もなんとか解決したところだし、このままマリー様のクエストを進めてもいいかもしれない。



*****



 遡る事8分前――


 側近であるオールフレイさんを呼び出したマリー様は、彼を部屋の外へと立たせ、「けいごよろしく!」と手を上げる。

 それに対し、オールフレイさんはただ一言「お任せください」と答えたのだった。


 扉の横で仁王立をするオールフレイさんの横を通り、俺たちはマリー様の部屋にお邪魔した。


 しかし……いくらダリア達とマリー様の仲が良いとはいえ、同伴者たる俺は異人で冒険者。オールフレイさんからしたら俺は、得体の知れない人間に映るだろう。


 そんな俺をすんなり通してしまっていいのだろうか……などと考えながら、改めてマリー様の部屋を見渡してみる。


 青色で統一された、可愛い家具たち。

 そして動物のぬいぐるみ。


 見た目年齢的に考えれば年相応のレイアウトともいえるか……全体的に可愛い系の物で統一されていた。


「きめた! いまからかくれんぼします!」


 ぱんッ!と、手を叩き、悪戯な笑みを浮かべるマリー様。室内とはいえ、彼女の部屋ほどの面積があれば隠れんぼも相当エキサイトできると考えられる。

 ダリアとアルデに視線を向けると、彼女たちもやる気満々らしく、目の奥に炎を燃やしていた。


 ――部長はやりたがらないだろうし、俺と一緒でいいか。


『勝負に関しては手加減しなくてもいいけど、夢中になりすぎて置いてある家具にぶつからないように。尖ってる部分に当たると危ないからな』


『気をつける』


『はーい!』


 羽目を外しすぎないよう釘も刺した事だし、そろそろ鬼を決めようじゃないか。


「じゃあオニはわたくしがやるね! 皆、隠れていいぞ!」


 まさかマリー様が進んで鬼を買って出るとは思わなかったが、どの道遊び場が彼女の部屋である以上彼女有利には変わりない。

 一応シンクロによるトランシーバー的な会話もできるのだが……これは使わないようにしてあげよう。


『あの箱の中がよさそうー』


『お、じゃあそこにしようか』


 マリー様が壁に体をくっ付け数を数えるのを合図に、俺たちは一斉に移動を開始する。


 自分では歩かないものの参加したい気持ちはある部長の指示に従い、俺は大きなおもちゃ置き場の中へと隠れた。

 ぬいぐるみに紛れ、部長の頭がひょっこり出るような状態である。


 そして――


「……くーう、じゅう!」


 カウントダウン終了を知らせる元気のいい声が部屋へと響き渡り、たたたたー! という足音が部屋の中を移動し始める。


『あ。あねきが捕まった』


 おもちゃ置き場から鬼の動きを観察していた部長が悲しい知らせを告げた。


『はやいな』


『お菓子いれに居たみたいだけど、食べてる音で気付かれちゃったみたいだねー』


『同情の余地もないな』


 捕まるべくして捕まったダリアを連れ、マリー様が再び移動を開始する。


『ごしゅじん』


『なんだ? 見つかったのか?』


 真剣な声色から、ピンチを予想。

 部長は声色をそのままに、続ける。


『ありがとうねー。わたし、結構嬉しかったんだー』


『相談しに来た事か? そんなの、当たり前じゃないか』


 意外な言葉に、少し照れながらも真面目に返す。

 三姉妹の抱える悩みの解決は、何よりも優先事項だ。


『ごしゅじん』


 もう気にしなくていいぞ……そう答えようとした瞬間――部長がヒョイと持ち上げられた。


「ダイキたち見っけー!」


 俺たちを見つけ、満面の笑みを浮かべるマリー様。

 抱えられる部長は、大人しく腕の中でぶら下がっている。


『見つかったー』


 鬼には捕まってしまったが、不思議と悔しくはなかった。



*****



 ベッドの中に隠れていたアルデも無事見つかり、鬼であるマリー様が牢屋スペースの前で高笑いしてみせる。

 捕まった俺たちは牢屋スペースにて正座である。


「ほっほっほー。わたくしのてにかかればこんなものよ!」


 誰よりも部屋の構造を知っている彼女が勝つのは必然とも言えるが、それを口にする野暮はこの場に居なかった。

 てくてくと、俺の前まで来たマリー様が、その得意げな表情で見下ろしてくる。


「罰ゲームです!」


「マリー様。それは勝負の前に言わないとズルいですよ」


 即座に反論してみるも、「はいしゃに口なし!」という理論を展開するマリー様によって壁へと押され――



「へ?」



 辺りが暗闇に包まれ、数十秒の絶叫滑り台の後、俺たちは折り重なるようにして城下町の路地裏へと放り出されたのだった。

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