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召喚士とお転婆姫様

 

 合計10分程の長い検査の果て、俺たちはやっと城に入る事を許可された。

 重々しく開く分厚い門をくぐり、城内へと進む。


『王都騎士の召喚士が居るのは二階って言ってたよね?』


『うん、言ってた!』


 俺の確認にアルデが元気よく返事をしてみせた。


 Oさんや花蓮さん達と食事をした後、部長が進化せずに済む方法を教えてもらうべく、俺たちは王都の城へとやって来ていた。


 掲示板で見た、熱心に検証してくれている人の書き込みや同じ境遇の召喚士の言葉はかなり興味深い。

 故郷が見つかっていない七種類の獣型の中にカピバラも存在していて、同じ並びに居たフェネックを召喚したプレイヤーは“進化を嫌がる”とも言っている。これは無視できない共通点だ。

 部長達の故郷は引き続き彼らが調べてくれるとの事だったし、しばらくは続報待ちで大丈夫だろう。それよりも先に、俺は進化拒否の理由を調べ、あの掲示板に投稿する必要がある。


 豪華な階段をゆっくりと上りながら、頭の上で寝息を立てる部長の頬をつついてみる。

 睡眠を邪魔され不機嫌そうに『んー んー』と唸っている。可愛い。


 掲示板の人々や花蓮さんでも分からなければ頼れる人物が居ない。王都騎士の召喚士が答えを知っていれば良いのだが……他の人が既に聞いている可能性の方が高いだろう。正直、望み薄である。


「ここだな……」


 門番達が教えてくれた部屋には分かりやすく対応した職業名――つまり《召喚士》と書かれており、見つけるのにはさほど時間は掛からなかった。

 軽く二度ノックをし、返事を待つ。



「あぁーー! ダイキだー!」



 声は扉の中から――ではなく、斜め後ろの方からだった。

 聞き覚えのある声に体を向けてみれば、そこには、ちゃんとしたお召し物を纏ったマリー様が嬉しそうにこちらを指差し立っていた。


 本人サイズの可愛い冠と、宝石が付いたイヤリング。そして、ペンダント型のネックレス。

 白を基調としたドレスは、美しい装飾が施されており見るからに高そうだが……お転婆な彼女に着せたのが運の尽きか、よく見れば所々汚れていたり、破けていたりと残念な状態になっている。


 側に玄人(くろうと)騎士のオールフレイさんの姿は無く、少しだけ嫌な予感を覚える。


「マリー様、こんにちは。今日はちゃんとお城に居るんですね」


「おやつの時間だからな! 町の方へはこの後行くつもりだったのだ!」


 やはり抜け出す計画を立てていたマリー様。ダリアとアルデが彼女の所へ駆けていく。


『やっほーマリー』


『マリー! 服可愛いの着てるね!』


「ダリア! おぬし……ちょっと大きくなったか? アルデは相変わらずちびっこだな!」


 まるでずっと一緒に育ってきた友達かのようにワイワイと盛り上がる三人娘。言葉は通じなくとも、その場の雰囲気で既に楽しそうにしているのが伝わってくる。


 ここは城で、マリー様の家だ。

 彼女に会うのはごく自然な事だった。


「オールフレイさんは居ないのですか?」


「おしっこするって嘘ついてまいてきた! 今ごろ、ちまなこになってわたくしを探しているにちがいない!」


 得意げにそう語り、うししと笑うマリー様。

 本当に手の掛かりそうな子であるし、無邪気に何処へでも駆け回る彼女について行くのは大変だろう。オールフレイさんの心中を察した。


「そういえばダイキ、何しにしろへきたんだ?」


 きょとんとした様子で首を傾げるマリー様。

 彼女の登場で、本来の目的をすっかり忘れていた。


「ここへは召喚士の――」


「俺様を訪ねに来た冒険者ってのはお前の事だよな?」


 俺の言葉を遮るように後ろの扉が乱暴に開け放たれ、不機嫌そうな声色の人物がこちらへ歩いてくる。

 ゆっくりと振り返った俺の額をガシリと掴み、思い切り力をいててててて!


「お前! ノックしておいて呑気に立ち話とはいい性格してんじゃねえか!! わざわざ二回も返事して待ってた俺様の気持ちを考えろコラ!!」


 鎧を身に纏った若い男。金色の前髪を上げたツンツンヘアーで、獣のような鋭い眼光が印象的だった。

 彼が王都騎士の召喚士――フレイル。

 ファーストコンタクトは正に“最悪”である。


「す、すみませんすみません! すっかり忘れてました!」


「忘れてたぁ?! ノックしてから待つまでのほんの数秒間で記憶を失うっておかしいだろうが!」


 まあいい……と、俺へのアイアンクローを止めたフレイルさんは不機嫌そうな瞳を動かし、俺の後ろに居たマリー様を見つける。

 退け――と、俺の横を抜けたフレイルさんは、怯えるマリー様の体を持ち上げた。


「また部屋を抜け出したのかこのじゃじゃ馬! お前が抜け出すせいで騎士の仕事が更に増えるんだよ!」


「ふ、ふんだ! かんけいないもん! わたくしにはしめいがあって、それはしろの中じゃできないことなんだ!」


 物凄い剣幕で怒るフレイルさんに対し、マリー様は僅かに動じながらも、その手から逃げようとジタバタ暴れ出す。


「こないだ仕方なくついて行ってやったのに……お前の言う“使命”は野良猫と遊ぶ事か?!」


「かわいかったからつい遊んでしまっただけだ! しめいは別だぞ!」


 もう知らん、お前をオールフレイの旦那に引き渡す――と、暴れるマリー様を捕獲したままフレイルさんは歩き出し……思い出したかのように、頭だけを俺の方へと向けた。


「おう、そこのお前。このじゃじゃ馬を部屋にぶち込んできたら相手してやるから、中で待っててくれや」


 ぶっきらぼうにそう言うと、フレイルさんはマリー様と「オールフレイの所へは行かない!」「お前が逃げ出すと王様に怒られるんだよ」などと言い合いをしながら、騒がしく階段を下りて行った。


 言葉使いは悪いが……悪い人では無さそうだな。

 彼の言葉に甘え部屋の中へと入る――と、そこには高級そうな椅子に腰掛け優雅に紅茶を飲む女騎士と読書を楽しむ黒猫が居た。


 なんだろう、不思議な世界に迷い込んだ気持ちだ。


「客ですか。まあ何もない部屋ですが、どうぞくつろいで下さい。お菓子もあります」


「さっきのはマリー様? あの子も大概ねぇ……」


 金色のショートヘアを指でくるくると弄びながら俺の方へと視線を向ける女騎士。そして、またかとため息を吐く黒猫。


 とりあえず、挨拶をしておこうか。


「突然訪ねてしまい申し訳ないです。フレイルさんに相談があって参りました。俺は召喚士のダイキ、そして召喚獣のダリア、部長、アルデです」


 三姉妹も各自挨拶をし、それを満足そうに聞いた黒猫がテーブルから静かに降り俺たちの前に座った。


「これはご丁寧にどうも。私はフレイルの召喚獣のビビアン。あっちののんびりしたのも召喚獣のローズマリー」


「召喚獣! そうでしたか」


 もはや言葉を喋る猫には驚かなかったが……二人共、フレイルさんの召喚獣だったのか。


 ビビアンに紹介されたローズマリーはティーカップを軽く上げ、「よろしくー」と挨拶してみせた。

 フレイルさんも含め、結構濃いメンツが揃っているな……

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