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廃城のフィールドボス

 

 階段を上がった先、玉座にも似た椅子に座る機械仕掛けの巨人兵士。ソレは近付く俺たちにはピクリとも反応せず、まるで壊れているかの如くそこへ鎮座している。


 城の頂上――そこは遮蔽物も何もない平らな空間。辺りを見渡せば、東西南北の向きに造られた攻城塔(こうじょうとう)が確認できる。そしてその先に広がるのは……荒れ果てた地平線。


「ここには城の最大戦力たる“最終兵器”が眠って、います」


 靡く髪を耳にかけ、哀愁を帯びた雰囲気で語りだす花蓮さん。彼女はそのまま、中央で動かない巨人兵士へと視線を移す。


「数ある英雄の中でも、もっとも多くの敵を討ち圧倒的な戦闘力を誇った巨人族の英雄。平和の象徴」


 彼女の言葉を聞き、つられるように視線を動かし――その姿を再度確認する。


 頭の先からつま先まで完全な機械であり、ここまで大きなロボットは過去に出会っていない……が、俺はこのロボットに何故か既視感を覚えていた。


 あれは確か――


「過去最強の英雄であり、王都の最終兵器! 彼の身体の中にはこの城と同じ術式が刻まれている……つまり、壊れても壊れても再生する!」


 整備士いらずの戦闘ロボだね! と、興奮した様子で語るOさん。城と同じ何かが施されているのであれば、この兵士は時間と共に自動修復されるのも説明がつく。


 自動修復機能が付いた巨人ロボットが戦場で暴れ回る……確かに、最終兵器だ。


 俺の既視感の理由を、隣に立つダリアが言い当てた。


『地下にいたおっきい人』


 指差す彼女の言葉にハッとなり、一気に記憶が蘇る。


 剣王の墓にあった分断部屋。マイヤさんと共に降りたその先に、鎖に繋がれ囚われていた巨人とよく似ている。


「この人は剣王の墓の……?」


「おお、ご名答!」


 この一言だけで分かってしまうのは流石というべきか――嬉しそうに即答してみせるOさん。そのまま彼は補足説明を加えてくれた。


「このロボは剣王の墓ダンジョンに幽閉されている彼を“受け継いでいる”。道中の機械兵士(ザコ)はただの量産機だから性能は段違いだね!」


 受け継いでいる……と意味ありげな言い方をしてみせるOさん。


 しかし、それだけの説明では僅かにしこりが残る。


 英雄たる彼が何故、あんな場所へ囚われていたのか。俺たちを獲物として認知しているかのようなあの様子にも、ただならぬ雰囲気を感じた。


 何らかの影響で凶暴化した彼を封じ込め、危険ゆえに力を取り上げたと考えると辻褄が合うのだが……



「動き、ます」



 俺の質問が言葉になることはなかった。


 警戒した様子で武器を抜く花蓮さんに続き、彼女の召喚獣達、そしてOさんが素早く武器を構える。


『頭の上に乗せてくれないかなー』


「この人は……無理だと思うぞ」


 部長と気の抜けるような会話をしつつ、俺も武器を取り出し、目の前に“そびえ立つ”ロボットへと視線を向けた。


 永らく機能していなかったのか、金属が“ギギギギギ!”と悲鳴を上げている。

 分厚い鎧の奥に見える金属の肌、瞳に赤白い光りが灯る。そして、地平線の彼方に向けられていた視線がゆっくりと下り、標的(俺たち)を捉えた。


【英雄 ヴァイクス Lv.55】#BOSS


 表示されたLPバーは……二本。


「『大いなる水』」


 間髪を入れず――Oさんの杖の先から物凄い出力の水が放出され、見上げるほどの巨体が仰け反る。それを合図に、ヘルヴォルが左足目掛けて駆け出した。


「このボスの注意点はただ一つ……巨人族特有のパワー、です。適正レベルの純粋な盾役(タンク)でも大ダメージは免れ、ません。今回はウルティマに任せてください」


 そのまま、彼女はヘルヴォルの後へと続くように駆け出した。

 彼女達のレベルはここの適正を大きく上回っている。確かに、今回はウルティマに全面的に盾をお願いする方が安定すると考えられる。


「ダリア、アルデ。さっきの花蓮さんの注意点を常に意識しながら戦うんだぞ。部長は回復対象がコーラルと被らないよう上手く立ち回ってくれ」


 三人に簡単なアドバイスをした後、数秒遅れて俺たちもボス戦へと加わり――既にボスのLPが半分まで削られている事に気付く。


「Oさん、これは……?」


「気にせず行っていいよ! このボスは合計六回、LPを全損させないと倒せない特殊なタイプなんだ! 何度でも再生するって言ったろう?」


 Oさんの頭上で、楔文字が躍る。

 まるで生き物のようにくるくると円を描き、一つの魔法陣となった。


「『深緑の第一楽章・疾』」


 ドンッ! という衝撃音、吹き抜ける風。

 霧レベルの細かな水がひやりと頬を撫でるまで、魔法の属性すら分からなかった。


 Oさんの魔法はヴァイクスの腹部を穿ち、そこに大きな穴を作る。そして、ヴァイクスの体がぐらりと揺れ、そのまま前のめりに倒れこむ。


 ボスのLPバー1つ分……なんて威力だ。


「今の魔法は通常では覚えられない特殊な魔法なんだ! 水属性魔法Ⅷと風属性魔法Ⅷの……」


 すかさず得意げに解説を挟むOさん――そして再生が済み、立ち上がるヴァイクス。


「Oさん、ボスが……?!」

 

 ズドンッッ! という、骨にまで響く程の轟音と振動。辺りに飛び散る石片がOさんの頬を掠め、彼の目が驚きと共に見開かれる。


「ボス戦中に会話とはお気楽、ですね」


 拳から立ち込める煙をふゥと吹き、手をグーパーさせこちらを睨む花蓮さん。彼女の後ろに立つウルティマの手からも同様の煙が揺れていた。

 全快となったLPが一撃で全損し、ヴァイクスが再び戦闘不能となっている。


「……解説は戦闘後にしようと思う」


「……ですね」


 

*****



 地に伏した巨体が再生する様子もなく、ひしゃげた体はそのままに、レベルアップを告げる音が響き渡る。

 不死身の如く何度も蘇った英雄ヴァイクスではあったが、花蓮さん達からしてみれば格下のフィールドボス。苦戦はしなかった。


 ヴァイクスから得た経験値により、俺たちのレベルは平均して2つ上がっている。心配していた部長のレベルは49まで上がっていた。


「ボス戦中に考えていたのですが召喚獣への詳しいアドバイスは王都騎士の召喚士に聞くのが一番だと思い、ます」


 表示された報酬を確認しつつ、花蓮さんが語りだす。


 王都騎士の召喚士……確か討伐イベントに向け、騎士に志願したプレイヤーを指導してくれるNPCの名前だ。


「少し掲示板で確認してみましたが部長ちゃんのような例外が幾つか存在して、います。とはいえ絶対数が少ないため結果はまだ不明確、ですが」


 掲示板で情報が無ければ、NPCに聞く以外方法はないだろう……というのが、花蓮さんの意見だった。


「へえ、戦乙女でも知らないことがあるんだね! ずっとゲーム内に入り浸ってるくせに」


「……」


 Oさんの発言に対し、「貴方にだけは言われたくありません」という反論を、ぐっと堪えている様子の花蓮さん。

 大人の対応を垣間見た気がする。


「約束していましたし、とりあえず私のホームで食事にしましょうか」


『賛成』


 花蓮さんの提案に対する異論は無く、俺たちはそのまま王都へと転移した。


 王都騎士の召喚士からどの程度助言をもらえるかは不明だが、可能な限り、部長の希望に添えるような道を選んでいきたい。

 NPCに会う前に、花蓮さんが言う掲示板で語られている例外にも一度目を通しておこう。

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[一言] >ずっとゲーム内に入り浸ってるくせに あ、やっぱりそうなんだ。
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