分断部屋
三階のフロアを歩きながら――ふと気付く。
戦争の爪痕により傷だらけだった城内の様子が、ガラリと変わっている。
それも……不気味な程に、明確だ。
「やはり気付くよね! この違和感にッ!」
視線から悟られたのか、得意げな表情でOさんが口を切る。
「戦いの場がこのフィールドという事を踏まえると、討伐戦に備えての修繕作業でしょうか? それにしても、直し方がちょっと……」
「そうなんだよ! まあ、これには理由があるんだけどね!」
先頭を行くヘルヴォルと、その両隣で果敢に話し掛けるダリアとアルデ。花蓮さんはその様子をカメラに収める作業に夢中なため、会話に入ってこない。
「この“廃城”には、通常では行けない特殊な階層が存在するんだ! そこに配置されたあるテクノロジーによって、この決戦城は何度朽ちても蘇る!」
「つまり、そのテクノロジーによって自動的に城が修繕されていると?」
「そう! 上のフロアから順々にねッ!」
そういう話であれば……なるほど、納得できる。
この城は、飛行船や機人族を生み出した天才によって造られた建造物であるし、そもそも、ここは魔法が普通に存在する世界。壊れた城に自動修復機能が備わっていても、理解の範疇だ。
そういう話ならば――
「そのテクノロジーっていうのを、一度見てみたいですね。その特殊な階層っていうのは、今日行けたりしますか?」
行きたくもなる。
Oさんの目が揺れる。
「……近い未来に行けるようになるよ、今は無理だけど。いずれにせよ、あそこに行かなければ物語が進まないからね!」
それじゃあ張り切って、フロア攻略行ってみようじゃないか! と、くるりと方向転換するOさん。
老人への挨拶から今回の意味深な発言まで、今日の彼には少しだけ違和感を覚える――Oさんが言う時が来れば、すべての言葉の意味が分かってくるのだろうか。
*****
先頭を歩いていたヘルヴォルの足が止まり、その原因を理解した花蓮さんが難しそうに呟く。
「分断部屋、ですか」
目の前に現れたのは、離れた場所に置かれた二つの扉。
地面には四角く出っ張った金属製のプレートが設置されており、その外観と花蓮さんの呟きによって、遅れながら分断部屋の意味を理解する。
「この場合、6:5ですかね?」
「ええ。私達がこのまま左の扉に入れば問題ない、ですね」
剣王の墓にもあった、プレイヤー達を文字どおり分断させるギミック。
あの時はかなり変則的な人数割になっていたが、今回は半分半分で進む事ができそうだ。
花蓮さんの方は、召喚獣達を含めた6人パーティ。俺たちの方は、三姉妹に加えOさんを含めた5人パーティ。これで半分半分だ。
「大兵器が承知済みだとは思いますが中では大量の機械兵士が襲って、きます。トラップにも要注意、です」
「任せておきたまえッ!」
自信満々に答えるOさんへ、花蓮さんが意味深げにしばらく視線を送りつつ、左の扉へと移動を始めた。
最後尾を行く風神雷神がこちらへ振り返る。
「負けた方は打ち上げの食費負担だからな!」
「おいおい、この戦力差じゃ可哀想だぜ雷神。あっちはお子ちゃま軍団とその保護者+ダサい服のハイエルフ、字面だけでも弱そう」
この二人は、どうしてこうも発言が自由なのだろうか。
背後で柄を握りながら迫るヘルヴォルの姿が見える。
こんな煽りで腹をたてる人なんて――
「やいモジャモジャ! ダサい服のハイエルフって僕の事か?! 課金で手に入れたこの豪華で強い服がダサいって?!」
ビシッ! ビシッ! と、二人を交互に指差しながら憤るOさんを宥めながら、俺たちは右側の扉の方へと移動していく。
『モジャモジャを焼く』
「ダリアも、杖しまって」
こちらのパーティに煽り耐性が低いメンバーが二人ほどいたものの、なんとか喧嘩が起こる前にギミックが作動、俺たちは花蓮さんパーティと分断された。
そのまま、Oさんに誘導されるがまま、部屋の中心へと足を進める。
静かに怒りの炎を燃やすダリアと、明らかに怒り狂っているOさん。
特に気にしてない様子の部長とアルデ。両極端である。
「ダイキ君――僕はなんとしてもあの小癪な子鬼共に勝ちたいッ! して、小悪魔姉に僕のMP回復を任せたいのだが、お願いできるかい? 攻撃面での手は借りないからさ!」
目の奥の炎は更に火力を増し、金ピカの杖は力強く握られている。
ダリアも張り切っているが……Oさんの様子からして、加勢は不要かもしれない。
「頑張れるか? 部長」
『いいよー』
トッププレイヤーの補助となれば相当忙しい事は明白だが、部長はいつもの調子で返事をしている。
俺はいつでも彼女を補助できるように、回復薬の用意だけしておこう。
分断部屋はかなりの広さで、内部は綺麗な円を描いている。
そして次の瞬間――等間隔で設置された扉が重々しい音と共に開け放たれ、中から剣や槍を持ったロボットが湧き出した。
身に纏う鎧と手に持つ武器――正しく、機械兵士。
「Oさん」
「なんだい?」
静かに剣を抜き、ゆっくりと構える。
「機械兵士と機人族は……別物ですよね?」
俺の問いに、迫り来る機械兵士を見やりながら、Oさんが答えた。
「もちろん。機械兵士は感情のないロボットだけど、機人族は機械の体を持つ“人間”だからね――」
杖を大きく振るう彼の周りに青の球が浮遊する。その球は、彼の指パッチンを合図に周りだし、天井へと広がった。
部屋の天井いっぱいまで敷かれた魔法陣が青く輝き、OさんのMPがみるみるうちに減少する。
――魔法陣から、一粒の雫が地面に落ちた。
「『津波』」
部屋の中心が波紋を描き、湧き立つ水はみるみる増え、天井に届く程の水柱へと変貌する。
Oさんが杖の先端で地面叩き、水柱が巨大な津波となる――そして、俺たちを取り囲んでいた機械兵士達は壁際へと流され、その質量によって押し潰された。
相当量の敵が一気に体を粒子へと変えた影響か……膨大な量の水が影響か、そのどちらもか。画面が一瞬遅くなるのを感じる中で、俺はその圧倒的な光景に目を奪われていた。
入り口とは別の扉が徐々にせり上がり、先へと続く道が開かれる。
「じゃあ、行こうか!」
爽やかな笑みと共に、Oさんは扉の方へと歩いて行った。
トーナメント前の話と最近の話を比べてみて、どうにも文字がギチギチに詰まっているように感じました。実はそれが悩みでもありました。
今回少し書き方を変更してみたので、読んでみた感想などありましたらお願いします。読み易くなっていれば幸いです。