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進化のかたち

  

 赤色の騎士が構える盾を砕き、剣を突き出した状態のままヘルヴォルがこちらへと目配せをする。

 すかさず援護に回る青色の騎士の斧を素早く弾きながらダリアとアルデに合図を送り――花蓮さんとの視線が交差した。


「《十文字の光(クロス・レイ)》」


 視界がまばゆい光に覆われた次の瞬間――赤色の騎士の体が、十字形に貫かれた。


 花蓮さんの魔法とほぼ同時に起こった粉砕音はダリアの《竜爪》によるもので、半透明の手に押し潰された青色の騎士の鎧にバキバキとヒビが刻まれる。


『《断頭剣》ッ!』


 トドメとばかりに放たれたアルデの一振りによって青色の騎士は粉々に砕け散り、二体の騎士は同じタイミングで光の粒子となり、消えていった。


 視線を移すと、先の道に掛かっていた(かすみ)が徐々にその色を無くしていき、数秒後には綺麗さっぱり消え失せたのだった。


「同時討伐でのみ倒せる中ボスですか……純粋なステータスの強さではなく、こういった特性の強い敵の方がやり辛いですね」


 苦戦とまではいかないまでも、相当厄介な敵だった事には変わりない。騎士達の特性を知る花蓮さんが居なければ、討伐に倍以上の時間を要したと推測できる。


「適正レベル55のエリアですからちょうど折り返し地点。今後は厄介な敵ばかりが待って、います。単なる火力だけではなく、様々な技能(スキル)や戦略を織り交ぜた戦闘が望ましい、です」


 両手持ちの杖を背中に戻しながら、花蓮さんは涼しい顔で腕を組んだ。


「――けれど二人の連携は文句無し、でした。飲み込みも早い」


『もっと褒めていいよ』


『作戦大成功!』


 ダリア達を褒めるための演技か否か、驚いたような表情で二人の頭を撫でる花蓮さん。

 身内びいきも入っているだろうが、俺から見てもこの子達は戦闘センスが良い。最近では、戦闘において俺が口出しする事もほとんど無くなってきている。


『ふあーぁ』


「部長はもうちょっとだけ、緊張感を持とうな」


 頭の上で眠りこけるカピバラの頬を突き、思わず苦笑。

 部長は基本、戦闘の時もお構いなしに寝ているか怠けているので声掛けは必須ではあるが、彼女の周りを見る能力は高い。

 昔はダリアへのMP供給だけでもてんてこ舞いだったが、今ではパーティ全員のステータス管理を一人でまかなっている。人一倍、スイッチが切れるのは早いが……


 今回は同じ回復役(ヒーラー)でレベルの高いコーラルが居るため、いつも以上に怠けている――こういう上手な立ち回りは、三姉妹1と言えるだろうか。


 小さな勝利を体いっぱいに喜ぶアルデと、ドヤ顔をこちらに向けるダリア。


 三姉妹は平常運転である。


「そういえば、Oさんが先に来たはずなのに中ボスが居るというのは……」


「恐らく再湧きしたのかと。大兵器の範囲魔法に関しては、ボスの特性も関係ありませんからね」


 あの人は何のために先導しているのでしょうか――と不満を漏らしながら、不機嫌な様子で歩き出す花蓮さん。

 肩に乗るコーラルはどこか楽しげで、隣を歩くヘルヴォルは変わらず無表情。ウルティマと風神雷神は後ろをのんびり付いて行っている。


 ――間近で見れば見るほど、彼女達とのステータスの差をはっきりと感じることができる。


 ダリアとアルデは騎士に向け、自身の最高火力でもって挑んだのに対し、盾を破壊したヘルヴォルは単なる通常攻撃、花蓮さんのは簡単な魔法だった。


 そして、Oさんはこの敵を一人で倒している。


 やはりというべきか、まだまだ遠い。



*****



 風化した女神像を背に、鍵の空いた扉を開く――と、次のフロアへと続く大きな階段が現れた。

 Oさんが先導するのはF3までと言っていた事から考えるに、この階段の先でやっと彼と合流することができそうだ。


 女神像に見送られながら、階段へと足を進めていく。


「この城は、いつの時代の建物なんでしょうか」


 辺りに階段を上る足音と、俺の声が響き渡る。


「一世紀前だと記憶して、います」


「一世紀前……」


 思ったよりもずっと新しい建物だ。


 ――たった100年前の建物なのに、城の至る所にある兵器は古代か中世程度の技術。現在の王都の技術力は一世紀では利かない程に進歩しているように思えるが……


 たった100年で、飛行船や部屋の拡張機能が搭載された装置が作れるのだろうか?


 ジャンケンで勝ったアルデが六段程先へと進み、負けたダリアは羨ましそうに立ち止まっている。

 そんな和やかな風景を眺めながら、花蓮さんは俺の疑問を読み取った。



「W・ステルベン」



「え?」


 不意の言葉に、思わず間抜けな返事が出る。

 W・ステルベン……どこかで聞いたことのある名前だ。


「オーバーテクノロジーたる機械達の生みの親。たった50年足らずで世界を変えた男」


「あぁ、飛行船を造った人!」


「飛行船も彼、ですね。そして機人族も――」


 表情を曇らせながら、花蓮さんが語りだす。


「次のイベントのキーマンは彼です。ストーリーを進めていけば遅かれ早かれ会うことになる、でしょう」


 天才発明家――というやつか。それも、50年程で世界をあれだけ発展させたのは流石に驚きである。


 とはいえ、そうなると機人族の歴史は相当短い事になる。


 たった50年で人と遜色ない受け答えをする種族を作り、世に溶け込ませる――驚きを通り越し、恐ろしささえ感じる。


「機械の親かあ……どんなすごい人なんだろう」


「……」


 結局――階段を登りきってからも、花蓮さんがその疑問に答えることは無かった。



*****



「遅かったじゃないかダイキ君ッ! 折角僕が君達のための道を切り開いていったと言うのに! どこで道草を食っていたんだいっ?!」


「時間経過によって再湧きした敵と戦っていたから、です」


 プンスカと怒るOさんに対し、ひどく冷めた表情を向ける花蓮さんがぴしゃりと言い放つ。

 時間経過による再湧きという要素を失念していたのだろうか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で止まるOさん。


「……そ、そうだッ! 君達にコレをあげよう! 課金キャンディーーぃ!」


 咄嗟に取り出した金色の飴を召喚獣達に素早く配り、この場をなんとか取り繕おうとするOさん。

 花蓮さん同様に冷めた目で彼を見るヘルヴォルだけ、飴を受け取らない。


 ――助け舟を出そう。


「ま、まあ、気にしてませんから。次からは一緒に攻略していきましょうよ」


 早速、包みから飴玉を取り出し食べ始めるダリアとアルデを眺めながら助け舟を出し、俺は俺で貰った飴を部長の口へと運んでやる。


 課金キャンディ……いったい一つ幾らの代物なのだろうか……


 その後――花蓮さんがOさんへ「慣れた人が正しいダンジョン攻略法を近くで教えてあげなければダメ」とか、「不用意に罠を発動させるのも良くない」などと説教した後、俺たちは改めてフロア攻略を開始した。


 美味しい飴玉を貰えて三姉妹は上機嫌だが、花蓮さんにこってりと怒られたOさんは元気がない。

 とはいえ彼の事だし、すぐにまたいつもの調子を取り戻すとは思うが……


 長い渡り廊下のような場所を歩きながら、先行く花蓮さんへ、是非聞いておきたい質問を投げかける。


「召喚獣が進化せずに済む方法というのは……存在しますか?」


 俺の問いにいち早く反応したのは部長だった。

 ピクリと体が動き、伏せてた顔をムクリと持ち上げる。

 どうやら会話に耳を傾けている様子だ。


 花蓮さんは俺の方へと振り返り、少し驚いたような顔でそれに答えてみせる。



「まさか……別ルートの進化先を示している子が居るの、ですか?」


 

 別ルートの進化先――いや、違う。部長は進化自体、したくないと言っているのだから。

 問題を抱えているのが部長である事を伝え、それを興味深そうに聞いていた花蓮さんは小さく頷いた後、語りだす。


「過去に……掲示板で戦闘を拒む子が居るという報告があり、ました。私はその子の言葉を聞くため投稿者に会いに行き、ました」


「戦闘を、拒む……」


「はい。直接話を聞き、“このまま進化するのは嫌”という気持ちが原因で戦闘拒否をしているのだと分かり、ました」


 当時の事を細かく思い出しているのか、花蓮さんは立ち止まり、目を瞑りながら続ける。


「今回のイベントでも助言をくれる召喚士達の師――王都騎士の召喚士に相談しあるクエストが発生、しました」


 それが、別ルート進化先の解放クエスト……と、花蓮さんが言う。


 彼女はそのまま部長を抱き上げるようにして目線を合わせ、優しく語りかける。


「進化先は一つじゃありません。大丈夫、きっと素敵な姿になれます、から」


 彼女の目をじいっと見つめていた部長が、目をパチクリさせそれに答える。



『進化がいやなのー』



 子供が駄々をこねるように体を揺する部長に対し「えーっと……」と、困ったように俺へと視線を移動する花蓮さん。


「れ、例外もあるよう、です」

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― 新着の感想 ―
部長の場合、他人に乗れなくなる大きさに進化したくない感じかなあww
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