特性と相性
戦闘開始から、既に20分もの時間が経過している。
ボスの剣を俺が受け、出来た隙にアルデが大槌を叩き込む動作の繰り返しだが――ブラッディ・ナイトのLPは未だ半分以上が残っており、未だこちら側が不利だという状況に変わりはない。
その主たる理由だが……
「小悪魔姉! 薬が切れたら遠慮なく僕に言うんだぞッ! 僕の仕事は薬の支援! 特別大サービス無料の薬屋さんさ!」
『ダリア達のぶんも頑張って』
先ほどからうるさい外野達である。
「Oさん! 魔法っ、攻撃っ、以外の技はっ、無いんですか?!」
嵐のように繰り出される剛剣をいなしながら念のための確認をとるも、Oさんは爽やかな笑顔を浮かべ親指を立ててみせた。
「エールを送るっていう、優しい技なら今も既に……」
「結構です!」
二度の攻撃を体に受けつつも、やっとの思いで盾弾きが成功。すかさずアルデが鈍い一撃をお見舞いし、ブラッディ・ナイトのLPが6%程削れた。
本来であれば、ここでダリアの魔法が追撃を与える場面だが――飛んでくるのは声援だけである。
「ブラッディ・ナイトが《魔法攻撃無効モンスター》なんて、ダリアやOさんの天敵じゃないですか!」
「いやー、この場所に連れて来たいっていう事だけ考えて選んだから、ボスの特性を忘れちゃってたんだよね! 手も足も、魔法も出ないってのはまさにこの事だよッ!」
ボスフィールドの隅で、ダリアと並んで体操座りをしているOさんが得意げに語った。
一つ前のエリアでは物理攻撃無効のモンスター、そしてここのボスは魔法攻撃無効のモンスターであることから、ここら一帯はかなり特殊なモンスターが湧く傾向にあると考えられる。
以上のことから、ボスの特性によって火力担当の二人が完全に封じ込められてしまったため、アルデの物理攻撃だけが頼りとなっていた。
俺はできる限りボスの攻撃を盾弾きして隙を作り、アルデの火力支援を行っている。
ブラッディ・ナイトの攻撃は全て剣によるものだが、実に多彩な技を織り交ぜてくるためパターンは多い。
特に――突進振り上げが曲者だ。
「ッ?!」
血で染まったボロの剣が目の前を通過し、大きな風切り音と砂埃が駆け抜ける!
前髪が数本切られた感覚と共に、背中にひやりとしたものが流れた!
ブラッディ・ナイトの通常攻撃を盾受けした場合、部長による強化に加え自身の鼓舞術と防御技を展開した状態で、削られるLPは一割と少し。
それに技が乗れば、最大三割近いLPが失われる。
嵐のような連続攻撃の中でパターンを見出し、なんとか盾弾きが可能な通常攻撃を誘えてきたものの、ランダムに繰り出される《盾崩し技》に手を焼いていた。
トーナメントの混合戦にて銀灰さんと対峙した時に受けた、盾崩し。
ガードが崩されるだけでなく、続く相手の攻撃が確定でcritical判定となる最悪のコンボだ。
即死ダメージを一度だけ回避できる《偽りの鉄壁》を使わなければ、恐らく俺のLPは一撃で全損すると推測できる。
ボスのLPが減るにつれ、次の攻撃までの待機時間が短くなってきている事も分かる。
『す、隙が……』
『アルデ、欲張っちゃダメだぞ。確実に当てられるタイミング――俺が盾弾きしたタイミングだけ、攻撃してくれればいいよ』
肩に担ぐ大槌の柄を上下に動かしながら、視線を俺とボスとで行き来させるアルデ。
そもそも、盾弾きしたタイミングくらいしか安全な隙が無いというのが正直なところ。
こういう時こそ焦らず確実に……だ。
『部長は精神面でまだ余裕あるか? 結構忙しいだろう?』
『うーん』
Oさんからの薬の支援を受けているからとはいえ、部長のサポートが物凄く頼もしい。しかし、回復・強化・弱体化を一人で賄うのはやはりかなりの負担となる。
今回が初めてとなるダリア抜きでの戦闘。大なり小なり、不安はあるはず。
今のところ、妹達にはまだ余裕がありそうだが――
「ダイキ君、小悪魔姉は《弱体化魔法》を使うことはできないのかい? 見たところ、強化魔法も同時に操っているようだけど!」
ふと、ダリアの横で同じように体操座りをしながら見学するOさんが疑問を口にした。
意識をボスに向けたまま、俺はそれに対応する。
「部長は弱体化も使えますよ。でもここのボスに魔法は効かないのでは?」
「いやいや、ブラッディ・ナイトの特性は魔法“攻撃”無効だから阻害系魔法は対象外なんだよね。弱体化は直接的なダメージこそ与えられないけれど、強化と組み合わせるだけで凶悪な威力が出るんだ!」
俺の質問に対し、Oさんはさも得意げな表情で人差し指を立てながら語ってみせる。
もう既に、戦闘に参加していないのに態度の大きな彼にツッコミを入れる気はない。
納得した顔を見られたらしく、更に得意げにこちらへ視線を向けてくるOさんが勢いよく立ち上がった。
「はやいところブラッディ・ナイトを片付けて、戦乙女の意見も聞きにいこうッ!」
思い立ったらすぐ行動派のOさんが早くもソワソワしているのが見える。
次の召喚獣のビジョンを固める上で、同じ召喚士仲間の花蓮さんの意見は大いに参考になるだろうが……まずは一言、Oさんに言わせてほしい。
「戦闘の邪魔なので、そこに座っててください」
*****
崩れゆく鎧が無造作に地面へと転がり、何か煙のようなものが中から天へと昇って消える。
針で刺すようなプレッシャーも既に無くなっており、大槌を構えていたアルデが疲れたようにへたり込んだ。
「お疲れ様、部長、アルデ。よく頑張ってくれたな。ダリアも、声援はちゃんと届いてたぞ」
功労者達への労いの言葉と、不完全燃焼のダリアへのフォローも忘れずに行っておく。
今回ダリアは退屈だったろうし、逆に部長とアルデは大変だったに違いない――崩れた陣形のまま、ここまでの戦闘ができたのは確実に過去の経験が活きたからだと言えるだろう。
部長、アルデ、ダリアの順番で頭を撫でて回っていると、揚々とした様子でOさんがこちらへ向かってくるのが見えた。
「やあ! 思った通り、君達3人だけでも十分強いんだなあこのチームは! ブラッディ・ナイトと戦わせて正解だったみたいだねッ!」
面白いものが見られたと言わんばかりに、さも楽しそうに語るOさん。
「……もしかして、俺たちの腕を試すためにブラッディ・ナイトのもとへ?」
「いや、それは単純に僕が忘れてただけ」
でしょうね。
なんとなく、分かってましたよ。
結局俺たちは、合計40分にも及ぶ長期戦闘の末、無事にブラッディ・ナイトを葬ることができた。
基本的には俺たち3人の貢献度によるものだが、部長のMPやSPが尽きずに戦えていたのは偏にOさんの薬支援の恩恵が大きい。
口もよく動いていたが、できる事を全てやってくれている点は流石といえよう。
「じゃあ戦乙女のホームで一旦休憩をいれて、また経験値稼ぎ頑張ろうかッ! 確か彼女のホームは王都中層住宅区5の……ブツブツ」
と、一人遥か昔の記憶を呼び覚ましているかのように首をひねりながら歩き出すOさん。
とりあえず、ボス撃破による報酬でも確認しながら花蓮さんのいる所に向かおうか。
【血塗れ騎士の籠手】#撃破報酬
ブラッディ・ナイトの装備の一つ。
剣一本で何人もの人間を葬ってきた彼の装備は返り血により赤黒く変色し、その怨念により装備するものに不幸を招く。
筋力+24
耐久+55
セットボーナス
[血塗れ騎士装備二つ以上で、LP30%ダウン]
分類:両手防具
【スキル取得券】#MVP報酬
スキルを取得する事ができる券。
11個目以降のスキルは控えに移される。
入れ替え可能。
分類:消費アイテム