召喚獣のあれこれ
アクセサリーが完成したという知らせを受け、俺たちは紅葉さんのいる露店へと向かっていた。
南ナット平原や北ナット林道に比べ、レベルの高い敵が出現する東ナット洞窟。そして特殊な敵が湧く西ナット森林。
冒険の町付近のフィールドは大体把握できたな……次はそのもっと奥にいるフィールドボスに挑んでみるか、若しくは風の町周辺に行ってみるかだな。
「お、来た来た! こっちこっちー」
俺たちの姿を見つけるや否や、紅葉さんは大きく手を振って声を上げた。
「遅くなりました」
「いいよいいよ。で、これがそのアクセサリーなんだけど!」
紅葉さんからのトレードで掲示されたのは二つのブレスレット。
性能は一つが耐久+10、もう一つが筋力+5と耐久+8だった。
一つ目鬼の特徴が上手く反映されてるな。心強い。
「一個目のやつは、ちょっと失敗しちゃったのよ」
声のトーンを落としながら言う紅葉さんの一つ目とは、耐久+10の事を指している。
正直俺には良し悪しが分からなかったが、普通に使える装備だから別段問題ない気がする。
「いえ、十分な性能だと思いますよ。ありがとうございます」
そう、なら良かった! と、安心したように呟く紅葉さんに、予め言われていた金額を支払った。
まだまだ弾きの成功率が安定しない俺にとって、数を練習できるように耐久は少しでも多く欲しかったし、筋力も上がって火力もアップだ。
「まいどあり! 今度ともご贔屓に」
「勿論です」
親しき中にも礼儀あり。
そういう事だろう、紅葉さんは深く頭を下げて笑顔を見せた。
「そうだ、紅葉さんに聞きたいことがあったんですよ」
「ん?」
売り買いも終わったので、雑談タイムだ。
俺は前々からの疑問である魔力の解放について、同じ召喚士仲間である紅葉さんの意見を求める。
「召喚獣についてなんですが、紅葉さんは魔力解放で減ったままになったMPの管理ってどうしていますか? ああ、解放しないという選択肢もありますが……」
俺の言葉にピンと来ていないのか、紅葉さんは唸るように首を傾げて眉をひそめる。
「魔力解放? ……というか、召喚の際に減ったMPは時間経過で回復するか薬で回復してるよ?」
「それとは少し違うような……俺は召喚獣を強くする代償として、MPが恒久的に減っているんですが、紅葉さんは何か心当たりはありますか?」
少し言い方を変えてみると、紅葉さんはなんとなく理解したような表情を浮かべる。
「あたしのMPはしっかり満タンまで回復するから、ダイキ君の言うその現象についてはわからないな。友達に召喚士がいるけど……うーん、どうだったかなあ……」
困ったように首を傾げながら、紅葉さんは何かを考えるようにステータス画面を開く。
「一応これがクロっちのステータス画面。何かの参考になればいいけど」
そう言いながら、紅葉さんは召喚獣のステータスを見せてくれた。
名前 クロっち
Lv 6
種族 盗賊鴉
筋力__15
耐久__17
敏捷__40 (+6)
器用__29
魔力__19
召喚者 紅葉
親密度 16/100
レベルは六と、ダリアとは一つしか差はない。けれど、ステータスで比べてみると大きな差があるように思える。
俺は自分のステータス画面からダリアのステータス画面へ切り替え、紅葉さんに見せた。
ダリア
Lv 7
種族 魔族
筋力__26
耐久__26
敏捷__26
器用__26
魔力__82 (+37)
召喚者 ダイキ
親密度 24/100
「……なるほどなるほど」
二つを比較した紅葉さんは、興味深そうにメニュー画面を操作し始める。
「ダイキ君。これはあくまであたしの推測なんだけど、クロっちとダリアちゃんのステータスを比べてみてもわかるように、差が開きすぎてる。試しにこれらを計算すると……」
パネル上で計算するように手を動かしながらステータス画面と電卓とを見比べ、紅葉さんは納得したように頷いた。
「まずクロっちのステータスだけど、軽く計算してみると合計値は丁度120。レベルアップによるボーナスが六ずつ入るから、五回分の合計30。つまり、クロっちがレベル一の時ステータス合計値は90になる」
合計値か。気にもしてなかったけど、多い少ないがあるのか。
「そしてダリアちゃんの現在の合計値は186。レベルは7だからボーナスの36を引くと150になるわ」
「えっ」
「そう。クロっちとダリアちゃんには、ステータスに生まれた時から実に60もの差があるわ。それを踏まえた上でのあたしの推測なんだけど、種族による差だったり同じ種族間でも個体による差だったりが存在するのかも」
人型で魔族のダリアと、鳥型で盗賊鴉のクロっち。確かに種族もタイプも全く異なる二体だ。
でも、その理屈だと鳥型の召喚獣はかなり不遇なのではないだろうか。
「ダリアちゃんと同じ型、そして種族の別個体でも、合計値に差が生まれるかもしれない。まあ、今わかるのは、ダリアちゃんが強力なポテンシャルを持って生まれた個体であり、強い力を解放する事により普通の召喚獣よりも必要なコストが多い。そんな所かなー」
「一度に消費する魔石の数も、強い個体ならではのコストって事ですか……」
「あくまで推測だけど、あながち的外れじゃないと思うよ。現に、同じ召喚獣同士にもステータスに大きな差があるんだから」
あたしってば名探偵! と、自信ありげに笑う紅葉さん。
まだまだわからない事が多いが、ダリアたち召喚獣の事を少しだけ知る事ができた気がするな。
「あ、クロっち帰ってきた」
そんなこんなで長話をしている間に、また何処かへ行っていたのか、クロっちが光る石を咥えて戻ってきた。
そう言えば、主以外の人が作った魔石って食べるのか?
同じ召喚獣だから、餌感覚で食べるかもしれない。
「クロっち。魔石あげるよ」
「あら、よかったねークロっち!」
俺はアイテムボックスから魔石を取り出し、手のひらに乗せてクロっちに近づける。
と、
「って! いたっ! こら!」
するどい嘴でクロっちが……ではなく、先ほどまで大人しかったダリアが急に暴れ出した。
何度も頭を叩いて足をばたつかせている。
「急にどうしたんだよ!」
「ふふふ。ダリアちゃんってば、嫉妬してるんだよ。ダイキ君がクロっちに魔石あげようとするから」
どうだろう。
ダリアの魔石を他の誰にも渡したくなかったようにも思えるが……。
「そうなのか? ダリア」
「あらあら、むくれちゃって。可愛いなあ!」
ダリアの顔を見ているであろう紅葉さんが身をよじっている。肩車のため、俺は顔までは見えないが、なにやら機嫌を損ねているらしい。
お詫びの印に持っていた魔石を渡すと、ダリアはひったくるように俺の手から奪い、口の中で転がした。
食欲に関してだけなら素直なんだよなあ。
「あはは。他の召喚獣にも俺の魔石は使えるのかと思いまして」
「んー、餌としてあげるなら食べるかもしれないけど。再召喚にはどうなんだろうね」
なんにせよ、ダリアの機嫌を損ねるのは良くないな。当面は自重しよう。
「じゃあ紅葉さん。装備から何から色々ありがとうございました。またねクロっち」
「いえいえ、こちらこそありがとね! ダリアちゃんバイバイ。今ならご飯いっぱい食べさせてもらえるかもね!」
紅葉さん、余計な事言わなくていいんですよ! ただでさえ装備の新調にお金飛んでるんですから!
クロっちは相変わらず、馴れ合いを好まないようでクールに背を向けているものの、首に巻かれたバンダナを大人しく付けている所を見るに、親密度は良好らしい。
俺たちは冒険の町の露店を後にして、風の町に向かう。
道中ダリアが肉屋の前で暴れ出した事に関しては、紅葉さんを恨むばかりである。