ストーリークエスト『リザード族の母』④
冒険者達がナルハの登場に歓喜と安堵の声を上げる。反応を見るに、ランクB冒険者という存在は想像以上に凄い人間のようだ。
ナルハとタリス、そしてレヴィが並ぶその様は確かに頼もしい。現に、タリスとレヴィはここに居る冒険者達とは比較にならない程強かった。
俺や三姉妹が蚊帳の外なのは仕方無いが、やっとこれで面子が揃ったことになる。
「ナルハ殿、他の冒険者達は?!」
「安全な場所まで送り届けたので問題ありません。恐らく時間は掛かりますが、緊急で討伐隊を組んで来てもらうよう指示も出しました」
爽やかな笑顔を見せるナルハの言葉に、タリスはホッと胸を撫で下ろす。これで、二次被害の心配はほぼ無くなったと言っていい。
「とはいえ――誰一人負傷することなく、あの量をこの部屋で食い止めるなんて……正直、英雄様の偉業と言われても信じられます」
「誰が凄いとかじゃないさ……敢えて言うなら、タリスがこの場に居てくれたから戦場の士気が保たれていた。そして彼等が扉の前を防衛してくれていたから、外にリザード族が溢れるのを阻止できた」
もちろん、俺たちも全力で頑張ったぞ――と一言付け足しつつ、改めて視線を戻し、こちらの出方を窺っている敵の軍団を見やる。
「残りのリザード族は軒並み力が上がっている。親玉は手負いだが、敵の増加が止まったのを見るに、何か仕掛けてきそうだな」
溶岩が流れ、弾ける音がはっきり耳へと届く程に、不気味に沈黙した敵の軍団。
いつでも対応できるよう深めに盾を構えつつ、横目でナルハを確認した。
――攻める気か。
敵を見据え、ゆっくりと剣を抜いたナルハの瞳に、“ボゥ”と、金色の炎が灯る。
次の瞬間――場にいる全ての味方に同じ金色のオーラが発生、思わず視界右下にあるLPゲージへと視線を向けた。
「全ステータス強化? これはナルハの……」
彼が戦闘の意思を示した瞬間、俺たちの全ステータスが大幅に上昇したのだ。
具体的には20%の強化が行われている。
状況がいまいち飲み込めない俺は再度ナルハへと視線を戻すが、ナルハは動揺した様子で隣に立つタリスを凝視していた。
「共鳴……している?」
ナルハの体から発せられた金色のオーラと同じように、タリスの体からも白色の強い光が発生していたのだ。
タリス本人も自分の体に起こった現象に理解が追いついていないらしく、ナルハと俺の顔を交互に行き来しながら目を回している。
金と白のオーラが入り混じった俺たちの体は更に強い光に包まれ、結果として全ステータスが40%上昇している事に気付く。
ナルハ本人は、自分の身体に起こった現象を理解している様子が見て取れるが、それがタリスにも起こった事に驚いているように見える。タリスはこの現象自体、全く初体験と言わんばかりの慌て様だ。
「だ、ダ、ダイキさん、ナルハ殿、これは一体……」
「タリスさん! 敵が動きます!」
一人の冒険者の声に、皆がハッと我に帰る。
長い沈黙を保っていたリザード族達、そしてクィーンリザードがこちらに向け進軍してきたのだ。
俺たちは余計な考察を止め、目の前の敵に集中する。
「『疾風迅雷』!『雷轟』!」
タリスの魔法がレヴィに落ち、紫電を纏った白虎が吠えた! タリスは次の魔法へと詠唱を移している。
『俺が敵の隙を作るから、アルデとダリアは連携を意識しつつ随時追撃! 部長は二人のステータス管理を優先、次点でレヴィの援護を頼む!』
素早く指示を飛ばしながら、振り下ろされた草なぎの刀を盾で受け、同時にLPを確認――減少していない事を確かめた後、状況を選ぶ片手剣技を繰り出す。
右半身を引くように動かし、剣先を相手に向けるように構え、敵の心臓部目掛けて捻るように素早く打つ!
胸部に空いた穴からポリゴンの欠片が溢れ、突き放った威力は尚も衰えず、後方のリザード族二匹を巻き込み吹き飛ばす。
――『弍ノ型・鎧抜き』
盾の防御から始まるカウンター技の一つ。使える状況が少なく、相手は人型限定の技である代わりに、決まれば必殺の威力を誇る。
貫かれたリザード族はその体を光の屑へと変え、巻き込まれた二匹も続く黒色の塊に押し潰される形で消滅した。
――『闇落とし』
着弾までの時間がやや長い点が使い時を選ばせる要因となるが、当たれば敵をその場で押し潰し、連鎖的なダメージを与える凶悪な魔法だ。
ナルハとタリスによる不思議なブーストにより、ダリアの魔力も大幅に上昇しているのが分かる。
冒険者達が六人で連携し二匹のリザード族を葬るのと同時に、紫電と共に残像が残る速さで駆けるレヴィが一匹のリザード族を撃破。
タリスの作った竜巻がクィーンリザードを巻き込む形でリザード族二匹を吹き飛ばし、ナルハの剣が残りのリザード族を一閃、返す刃で最後の一匹を斬り伏せる。
クィーンリザードによる強化を物ともせず、むしろこちらの強化の方が充実しているように思える状況。残されたクィーンリザードがここに来て初めて焦りだす。
『アルデ ダリアが隙をつくる』
『じゃあ突っ込む!』
ダリアとアルデの短い会話の後に、クィーンリザードの足元が沈んだ。
駆けるアルデが剣を下段の形で構え、そこへダリアの魔法が付属される。
『大車輪!!』
飛翔し、回転を加えたアルデは小さなコマのように加速。無防備となったクィーンリザードの大きな腹を、勢いよく斬りつけた!
一回! 二回! 三回! 四回!
ダメージは追撃ボーナスによって回数を重ねるごとに増えていき、幾重にも掛けられた強化の恩恵でボスのLPが異常な速度で削れていく。
「決まれ!!」
駆けるナルハが右斜め上から一撃、体を捻り掬い上げるようにもう一撃、そして両手で柄を握り真ん中から一刀両断! 怒涛の三連撃はクィーンリザードのLPをミリ単位まで削り、後方から放たれた黒色の矢が、ボスの命を刈り取った。
「アルデちゃん、お疲れ様」
『さっきの何?! かっこいい!』
空中でアルデをキャッチしたナルハが労いの言葉と共に華麗に着地し、ちゃっかりトドメを刺したダリアは満足そうに武器を下ろした。
大量のリザード族を倒した事に加えボス討伐による経験値が一気に流れ込み、俺たちのレベルが一つ、アルデのレベルは二つ上がる。
クィーンリザードの体が光の屑となり消滅していく様を見届けたタリスは大きく息を吐き、安堵の表情と共にその場にへたり込んだ。
「す、すげえ!! 本当に倒しちまいやがった!」
「貴方達は町の恩人だ! 助かった!」
「タリスさん、お怪我はありませんか?!」
まさか倒せるとは思ってもいなかったのか、俺たちの最後の攻撃を見守っていた冒険者達が一斉に沸く。囲まれるタリスは寄ってきたレヴィの頭を撫でながら、皆に感謝の言葉を告げているのが見える。
「お疲れ様です、ダイキさん、ダリアちゃん、部長ちゃん」
「ナルハもお疲れ様。すまないな、大役を任せてしまって」
あの輪に割って入るのは気が引けたのか、ご褒美の魔石をダリアと部長に食べさせていた俺の方へナルハがやって来た。
彼の腕の中で嬉しそうに手を振るアルデを受け取りながら、勝利の余韻に浸る。
「僕よりも、あの軍勢相手に少人数で食い止めるどころか、大幅に数を減らしていたダイキさん達の方が大変だったに違いありませんよ。僕は正直、皆さんとの最後の別れになると覚悟していましたから」
俺の言葉に、申し訳なさそうに額を掻くナルハ。
どちらがどれだけ大変だったか、この際関係ない。どちらも命賭けの作戦だったのだから。
「それにしてもタリスさんのアレは……」
「光の事か? それを言うなら、ナルハだって不思議な光に包まれてたよね?」
真剣な表情でタリス達の方へ視線を向けるナルハに、話のついでだと俺も彼に聞いてみる。
俺の言葉にナルハは「なんというか、説明できないんですよね」と、困ったような笑みを浮かべ曖昧な答えを返す。恐らく、異常な広範囲索敵と同じように、彼自身よく分からない力の一つなのだろう。
俺は一言「そっか」と返し、メニュー画面からクエスト内容へと操作していく。
【ストーリークエスト:リザード族の母】推奨Lv.35
成長したナルハは旅先でとある事件に巻き込まれる。慌ただしいギルド。町の平和のため、立ち上がる白髪の少女。風の町を襲う異常な事態とは……?
灼熱のクィーンリザードの討伐[1/1]
※冒険者ギルドにて報告後、クエストクリアとなります。
報酬:経験値[12744]
報酬:G[20000]
見れば、ちゃんと討伐完了となっており、このまま冒険者ギルドまで帰れば無事終了という流れになるようだ。
別のボスが再配置――などという、難易度の高いクエストではないようだ。
「ナルハさん達ー! 町へ帰りましょー!」
タリスとの会話がひと段落したのか、俺たちへ手を振る冒険者達。ここにはもう溶岩と扉しか無いので、早いところ町へ戻ろう。
「行きましょう、ダイキさん」
「ああ」
笑顔を見せるナルハが踵を返し、彼等の方へと歩いていく。アルデにもご褒美の魔石を食べさせた後、二人を抱き上げ俺も彼に続く。
『……達よ、私の…………ますか?』
不意に頭の中で響く、女の人の声。
シンクロでの会話と似た感じではあるが、ダリア、部長、アルデの声とは別の声。
「!」
振り返り――気付く。
一瞬にして姿が消えてしまったが、部屋の真ん中に、確かに今、女の人が立っていた。
酷く、悲しげな顔をしていた。
もう、声も姿も確認することはできない。
『……今の、見たか?』
『なにがー?』
慌てて部長に確認するも、俺の頭の上にいた部長は彼女の姿を見ていない様子。
腕の中に抱かれるダリアもアルデも俺の顔を見つめクエスチョンマークを浮かべており、幻聴か何かだったのだろうかと自己完結するに至る。
確か、剣王ノクスとの戦いの後、今のようなメッセージを彼も残していた。
となれば、風の町所縁の英雄、ウェアレス絡みのイベント――という説も出てくる。もちろん、見間違いじゃなければの話ではあるが。
*****
殺伐とした空気に包まれていた風の町は、俺たちの帰還により一気に宴モードへと移行していた。俺たちは例を見ない数のリザード族を倒し、町の救世主としてギルドに表彰される事になる。
「一緒に戦った六人の冒険者は皆一階級昇進。まだまだ身に余る名誉だと自覚はしているが、ナルハ殿と共に、私もAランク冒険者の仲間入りだそうだ」
嬉しそうにモジモジと体をよじらせ語るタリスは、胸に“A”と刻まれた赤と金のバッジを付けていた。
備えがなければ間違いなく町は壊滅していた規模の数だったと後からギルド職員に聞き、今回の昇進は妥当な配慮だと理解する。
ちなみに俺は冒険者として登録してあるだけであまり献身的に依頼をこなしてなかったため、今回でランクがCまで上がったそうな。と言っても、ストーリー上の設定であるから、事前に上げる事もできない。
俺のランクに対しナルハとタリスが抗議しギルド側と一悶着あったものの、飛び級でランクCになった時点でかなり特例だと言われ、俺のランクはCに落ち着くこととなる。
「ちっちゃい頃の夢が叶ったじゃないか」
「子供扱いしないでほしい!」
にやけ顏の俺に、プンスカと怒るタリス。
レヴィはそんな俺たちのやり取りを、尻尾をくねらせ満足そうに見守っている。
「あの、私……」
『出世 おめでと 何かたべたい』
「え?!」
『出世祝いー』
『出世? 出世! 出世ー!』
なんとなくタリスが前より偉くなったというのを理解したのか、ダリアと部長が露骨にたかりだす。アルデは意味が分かっていないのか、とりあえず嬉しそうにはしゃいでいる。
「ま、まあご飯くらいは全然ご馳走するけどさ……」
「お、いいですね。じゃ僕も肖ろうと思います」
「え、いや、ちょっと!」
ギルドから受け取った報酬を数えているのか、不安そうに巾着袋の中身を確認するタリス。ナルハもなかなかにちゃっかり者である。
「よし、今日はタリスの奢りだ! お腹いっぱい食べるんだぞ!」
「ダイキさんの意地悪っ!」
その後――俺たちは初めて友人となったNPCと席を共に食事を楽しんだ。
クエストはとっくにクリアされているのに、彼等にも俺たちと交流できる程度の自由が与えられている事に驚いたが、改めて、彼等がゲームの操り人形ではなく一人の人間として生きているという事を感じる事ができた。
ストーリークエストの行く末がどうなるか現段階では分からないけれど、俺はプレイヤーとしてではなく、一人の友人として、彼等の冒険を見守っていきたいと思った。
*****
《出現》
【ストーリークエスト:機械仕掛けのトラップタワー】推奨Lv.40
第二王子の剣術の稽古を付けるため王都へやって来たナルハは城内部にて、巷で噂の絶えない“虚言姫”に出会う。彼女の言葉を聞いたナルハは……?
※現在受注不可※
《王都》ストーリークエストを三段階まで進めている必要がある
???[0/0]
報酬:経験値[31055]
報酬:G[50000]