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ストーリークエスト『リザード族の母』③

 

 振り下ろされる片刃の剣を盾弾き(シールドパリィ)し、続く槍を剣で弾く――そして俺の目の前を交差(クロス)するような軌道で放たれた二発の魔弾がリザード族を撃ち抜き、後続の敵もろとも吹き飛ばす。


 頼もしいダリアとタリス(後衛陣)に感謝しつつ、しかし進む足は止めず、今や攻撃態勢へと移っているクィーンリザードの姿を捉える。


『アルデ、相手の武器から考えて魔法が飛んでくる可能性が高い。《魔法武器付属》をいつでも使えるように心に留めておいてくれ』


『わかった!』


 青い鱗に黄色い瞳。

 周囲に湧くリザード族、ハイ・リザード族とは体の色からして明らかに異なる存在――クィーンリザードは羽根の付いた巨大な杖を掲げ、明らかな魔法詠唱を開始した。


 ボスの頭上に、LPバーが三本並ぶ。


 俺は先行くアルデに短く指示を出しつつ、一度戦場の状況を確認していく。


 付近の敵は強くても30未満――単調な攻撃パターンも相まって、剣での弾き(パリィ)もほぼ問題なく行える。取り巻きに関しては、はっきり言って数以上の脅威は無い。

 ダリアも前に属性の相性を確認したお陰で、相性の悪い火属性を封印し、闇属性魔法で戦ってくれている。そのため、撃墜効率(げきついこうりつ)は非常に高い。

 大剣で戦うアルデは俺と部長による強化(バフ)に加え、自身で掛けた《闘気》によってステータスは底上げされ、敵への攻撃は正に一撃必殺。火力は充分だ。


「レヴィは彼等の援護に回って! 私はダイキさん達と根源を叩く!」


 タリスの指示にレヴィは大きく頷き、入り口付近で奮闘する冒険者達の方へと駆けていく。

 相棒が合流するのを見届けたタリスは緑のローブを翻し、鬼気迫る表情のまま、ダリアの横へと並んだ。


「……正直言うと、自信ないかな」


 流れる汗で頬に張り付いた白色の髪を払いながら、タリスは圧倒的な存在感を放つボスモンスター、灼熱のクィーンリザードへと視線を向ける。

 元々時間稼ぎを目的として飛び込んだ戦場の退路が断たれた今、タリスを含め冒険者達の精神が不安定になっているのは容易に想像がつく。


「おいおい、成長したのは背丈だけじゃないだろう?」


「も、勿論! 色々なところが成長したよ!」


 攻撃に入る前の、束の間の冗談話。

 俺の言葉に、あたふたと自分の体のいたる所を触りながら、タリスは口を尖らせ反論した。


 ここに来るまでの戦闘を見ていた俺からしてみれば、タリスの実力はボス相手に充分に通用する。故に、彼女には本調子に戻ってもらう必要がある。


 洞窟内の温度にやられたのか、はたまた羞恥によるものか……顔を熟れたトマトのように紅潮させるタリスは一度深呼吸をし、真剣な面持ちで口を開く。


「あの扉がどちらから(・・・・・)も開かなければ、希望も何もなくなる。この場にダイキさん達が居てくれたのが、唯一の心の救いかな」


 一連のやりとりで緊張がほぐれたのか、固かった表情が普段通りの物へと戻ったタリス。けれど、一度冷静になり、改めて現在自分達が置かれた状況を把握したためか、彼女の口からは弱音が溢れていた。


「もう諦めモードか。英雄になりたいんじゃなかったのか?」


「それは! なりたい、けど」


 考えてもみれば、俺たち(プレイヤー)相手の強さ(レベル)を正確に知る事ができるが、彼女達にはそれができない。その上、死んだらそれまでの命。俺たちとの間に気持ちの余裕の差が生まれるのも無理はない。


 無責任な発言はプラスにはならない。慎重に、言葉を選んでいく。


希望(ナルハ)はある。もっとも、俺もそうだけど、この子達(三姉妹)は諦めてないよ」


『今日は暑くないから期待しててー』


 俺の言葉に、部長が調子良く同調する。

 前回トルダと来た時は暑さによって思うようなパフォーマンスができなかった彼女。リベンジマッチの意味も兼ねているのだろう。

 俺たちの前に立つダリアとアルデも、タリスに視線を向け、大きく頷いた。


「じゃあ行こうか。もちろん、倒すつもりで戦うんだぞ」


 俺の言葉に、タリスは何かを決意した強い眼光でもって答えたのだった。



*****



 タリスの電撃魔法が、クィーンリザードの腹に突き刺さる。悲鳴にも似たボスの咆哮に、付近のリザード族が共鳴する。


「衝撃波が来る。アルデ!」


『任された!』


 クィーンリザードが杖を掲げ、地面へと突き刺すような形で振り下ろす――と、爆風にも似た赤色の風が発生し俺たちへと迫る。

 攻撃の種類は魔法。故に、アルデが対処可能だ。


『やぁっ!!』


 可愛らしい掛け声とは裏腹に、魔法を喰らう彼女の剣が、凶悪な威力でもって放たれる。

 クィーンリザードのLPが大きく減り、僅かにできる“怯み”。そこへすかさず黒色の槍と電撃の雨が襲い掛かる。


 削れたLPは既に20%を超え、クィーンリザードの攻撃パターンが徐々に把握できてきたお陰でスムーズに戦闘が進んでいた。


「すごい……完全に圧倒してる」


「いや、ちょっと妙だな」


 ボスの行動を封殺している事に驚きの声を挙げるタリス。しかし、俺の中では違和感が生まれていた。


 今の所、クィーンリザードは近付く俺たちを遠くへ吹き飛ばすために、衝撃波に似た魔法を放つワンパターンな攻撃しかしていない。

 ボスの魔法はアルデの魔法武器付属によって無効化できているが……明らかに、相手のLPの減少スピードが落ちてきているのだ。


『戦闘中、何か気付いた点はあるか?』


 恐らくタリスはこの変化に気付いていない。

 俺は三姉妹――主にダリアとアルデに向け、自分の中で芽生えた違和感の正体を探る。


『そういえば、親玉に近付き難くなった気がするぞ』


『周りの敵が 強くなってる』


 戦場を見れば、最初こそアルデの攻撃を受け一撃で葬られていたリザード族が、彼女の攻撃を耐えるようになっている事に気付く。


 敵のステータス――少なくとも耐久値が上昇している?


「タリス。どういう訳だか付近の敵が強くなってきてる」


「えっ?!」


 案の定、俺の言葉に動揺を見せるタリス。

 

 クィーンリザードが吠える。


「全体強化か? 範囲は?!」


 ボスの咆哮には、何らかの強化(バフ)効果が含まれていた。周囲のリザード族は赤色のオーラを纏い、武器を掲げる。

 反射的に後ろで戦っているレヴィと冒険者達へと視線を移し――リザード族に変化が無いことを確認した。


「強化の範囲は狭い! 強化された個体を重点的に攻撃だ!『野生解放』!」


 ダリアとアルデに野生解放を使い、二人の体が赤色のオーラに包まれる。

 火力が底上げされる分リスクを伴うこの技能(スキル)、部長の方が忙しくなるが……


『部長、アルデのLPとダリアのMP管理は頼んだ』


『おっけー』


 再び――激突。


 強化されたリザード族は、野生解放を受けたダリアとアルデの火力の前になす術なく散っていく。

 10秒に一度の再湧きも追いつかず、フィールドのリザード族は瞬く間に枯れていく。


 付近の配下を失ったクィーンリザードが苦し紛れに杖を振り下ろすも、ここは俺の弾き(パリィ)圏内。

 恐らく、魔法に寄ったステータスのボスであるからか難なく成功し、クィーンリザードの杖が宙を舞う。


「『雷鳥の嘴』!」


 そこへ放たれるはタリスの魔法。

 高圧の電撃がバリバリと形を成し、巨大な鳥となってクィーンリザードを貫いた。


 確定criticalも相まって、LPがごっそり減る。


「『大剣山』」


 続く俺の(アーツ)により地面から生えた複数の剣がボスを貫き、頭上に渦巻く黒の塊が地面もろとも飲み込んだ。

 駆けるアルデの剣に向けダリアが黒色の槍を放ち、魔法武器付属による効果でそれを取り込んだアルデが跳ぶ。


 ズガガガガン!!


 爆発にも似た音が洞窟内部に響き渡り、砕けた岩盤の欠片が雨のようにパラパラと降り注ぐ。

 一連の攻撃によりクィーンリザードのLPは残り30%程にまで削られており、後方の冒険者達がその光景に沸き立った。


「すげぇ! 何だ今の技!」

「あんなでっかいの倒しやがった!」

「タリス様最高っす! 一生付いていきます!」


 彼らと戦っていたリザード族は主が倒れた事で大きな動揺を見せた。

 冒険者達との戦闘を放棄し、クィーンリザードの元へと集まっていく。


「まだ終わってない! 皆、武器を下さないように!」


 勝ちムード漂う冒険者達をタリスが一喝、彼らと合流した俺たちは、未だLPの残るクィーンリザードへと視線を向けた。


 ――再び轟く、ボスの咆哮。


 先程までの強化とは別の種類の更なる強化を受けたリザード族が、同調するかのように吠える。


 数は20から変化は無し、再湧きがおさまった分、敵一体一体の強さが増したと考えられる。


「何か仕掛けてくる。ダイキさん、皆へ指示を!」


 レヴィを傍に置き、視線をクィーンリザードの方へと向けたまま、タリスが俺の指示を仰いだ――その時だった。


 何かを引きずる重い音と共に、開け放たれるは後ろの扉。


 金色の髪をなびかせ此方に駆けてくる、一人の青年の姿。



「遅くなりました」



 ランクB冒険者ナルハ――参戦。

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