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五年後の卵たち

 

 俺たちはその足で、次なるストーリークエストをこなすため冒険の町へと移動する。

 先ほどの戦闘で得たリザード族の肉だけでは青吉の餌として不十分な量であるが、クエスト内容をよく読めば分かる。次も恐らく、リザード族と戦闘になるだろう。



【ストーリークエスト:リザード族の母】推奨Lv.35


成長したナルハは旅先でとある事件に巻き込まれる。慌ただしいギルド。町の平和のため、立ち上がる白髪の少女。風の町を襲う異常な事態とは……?


灼熱のクィーンリザードの討伐[0/1]


報酬:経験値[12744]

報酬:G[20000]



 ナルハ君のクエストを達成した時と少しだけ内容が変化しているような気がするが……深く気にせず、とりあえずは彼が居るであろう冒険の町ギルドへと向かっていく。

 とはいえこの討伐依頼、どう見ても俺たちが以前トルダと一緒に倒したキングリザードに近いボス――つまり危険な依頼だ。

 ナルハ君は昨日トルダからキツイお説教をもらったばかりだというのに……なかなか懲りない男の子である。


 英雄(祖父)の血が彼をそうさせるのだろうか――などと考えているうちに、俺たちは冒険者ギルドへとたどり着く。

 観音開きの扉を開け、飲み食いするプレイヤーとNPCとがひしめき合う光景が広がる。


『皆、とりあえずナルハ君を探してくれ』


 混んでいるわけではないが、それでも相当な人数が居る。この中で一人の少年を探すのは至難の技ではあるから、ここは一つ三姉妹の目も使って探してみよう。


『ダイキ』


『見つけたか?』


 早速俺に声をかけたのはダリアだった。

 ダリアは無人のボックス席を指差し、俺の顔を見つめている。


『ごはん』


『……依頼が終わったら、でいい?』


 俺の言葉にダリアは『うん』と素直に頷き、今度こそナルハ君を探すべく辺りに視線を凝らしているのが見えた。

 確かに、今日は青吉しか食事を済ませていない。クエストが終わってレベル上げに移る前にしっかり食事をとるとしよう。


『みーつけ』

『たっ!』


 元気よく、そして同時に声を上げた部長とアルデが依頼掲示板の前を指差した――が、そこにナルハ君の姿はない。

 掲示板前には三人ほど人が立っているが、そのどれもが大人である。


 こちらを向いて腕組みをして立つ青年と目が合ったので、波風立てぬよう軽く会釈をした後、部長とアルデに問いかける。


『ごめん、どこにいるって?』


『あっちだよー。木の板の前ー』


『ほら、こっち来たよ!』


 回答があっちだのこっちだので混乱する俺に、何故か先ほど会釈した青年が声をかけてきた。


 胸のペンダントがキラリと光る。


「お久しぶりです、ダイキさん。ダリアちゃん、部長ちゃん、アルデちゃんも久しぶりだね」


『やっほ』


 爽やかな笑顔を向け嬉しそうに手を挙げる青年に、ダリアが答えるように手を挙げた。


 目にかかる程度に伸びた癖のあるプラチナブロンドの髪を後ろで括っている青年。

 以前は短かったポニーテールが背中部分にまで伸びており、声を聞かなければ、その中性的な顔立ちから性別を判別するのは難しいだろう。

 首に巻かれていたスカーフが左腕に移動しており、ボロの鎧は質のいい物へと変わっていた。そしてその手には、紋章の刻まれた金属製の盾が握られている。


 腰に立派な剣を携え俺たちの前に現れたこの青年は――疑うべくもなく、ナルハ君本人だった。


「お、驚いた……随分と成長したなあ」


「お陰様で元気に冒険者を続けられています。五年前の僕は何も知らないただの子供でしたから、我ながらお恥ずかしい姿を晒していたと記憶しています」


 動揺する俺に対し、青年となったナルハ君は恥ずかしそうに頭を掻いてみせた。

 身長はもう俺とほぼ同じくらいまで伸びている。そして鎧の上からでも分かる程度まで鍛えられた肉体から、彼が冒険者業で活躍してきた歴史を感じられた。


 ――五年前、か。


 無謀な依頼を受けてまで遺跡に行きたがっていた昨日のストーリークエストから次のストーリーに至るまで、世界時間で五年経過したと推測できる。その証拠に、あどけない少年だった彼は立派な大人に成長しているのだから。


「皆、ご飯は依頼後に行くつもりだったけど気が変わった。ここで一旦食事にしよう」


「お、いいですね!」


 このまま作業的にストーリー進行に移るのはかなり勿体ない。成長した彼を交え、食事をしながら武勇伝でも聞かせてもらおう。


 当然、三姉妹から反対の声があがるわけもなく、俺たちはそのままギルド内に設置されたボックス席へと腰を掛けた。



*****



「目が弱点というのは事前に知ってましたから、なんとか倒すことができました。それにしても、ダイキさん達も既に一つ目鬼(サイクロプス)を倒してただなんて……やっぱり凄い人達だなあ」


「いやいや、俺たちもすごく苦戦して勝ったのもギリギリだったんだよ。それにしてもナルハ……一人で挑むのは流石に無茶だと思わなかったのか?」


 たっぷりの意地悪を込めた俺の言葉に、「トルダさんが聞いたらまた怒られちゃうんだろうなあ」と苦笑するナルハ。


 話の種は尽きない。


 膝上に座る部長の口元に果物を運びながら、ナルハの昔話に花を咲かせる俺たち。料理を頬張るダリアも興味深そうに視線を向け、アルデは俺たちが話す様をニコニコしながら聞いている。


 クエストには関係のない部分だとは思うが、ナルハの空白の五年を知らぬまま共に冒険するのは気持ちが悪い。

 試しに掘ってみれば出るわ出るわ武勇伝の数々。

 活動拠点が冒険の町であるからか、この付近の討伐依頼を重点的に受けていった結果、以前俺たちが倒した一つ目鬼(サイクロプス)をはじめ、死の一角装甲虫(デス・カブトムシ)剣闘士の石像(ストーンゴーレム)まで討伐したと語ったのだ。


 そのどれもを一人で倒したのだというから、なおのこと驚きである。

 しかしながら、彼のレベルを見れば挑む自信が付くのも納得だった。


【ナルハ:レベル40】


 彼がこの五年の間にどれほど努力し、死闘を生き抜き、鍛錬してきたのかが数字に出ている。遺跡ではたったの8だったレベルが、既に俺たちと並ぶ勢いまで上昇しているのだ。


 システム的不死者(俺たち)とは違い、一度の死も許されないこの世界の住人(ナルハ達)はどの戦闘も命懸けである。ここまでレベルを上げるには並大抵の努力では不可能だろう。


 俺は彼の五年間を知り、認め、態度を改めるため“君呼び”を止める。

 年齢こそまだ成熟とは言えないが、彼はもう立派な冒険者である。


 しばらく談笑しているうちに、ナルハは遠慮がちにストーリークエスト関連の話題を口にした。


「ダイキさん。この後受けようと思っている依頼があるんですが……どうでしょう。一緒に受けてくれませんか?」


 聞けば隣町である風の町にて、リザード族達が頻繁に家畜を狙って攻めてくる事件が増えているらしく、その原因を調べるため、奴らの住処たる灼熱洞窟探索の依頼を受けようと考えているらしい。

 ナルハの実力から考えて灼熱洞窟自体は問題無さそうだが、冒険の町から殆ど拠点を移動していない彼からしたら多少の不安が残るのだろう。


 なんにせよ、これこそ今回のストーリークエストの内容である。これを断る理由はない。


「いいよ、一緒に受けよう。ナルハの方は準備出来てるの?」


「受けてすぐ発つつもりだったので、準備は万端です! いやあ、ダイキさん達とまた依頼が受けられるなんて夢のようだなあ!」


 俺の問い掛けに元気よく答えてみせたナルハは、まるで子供のように小さくガッツポーズをしてみせた。



*****



 俺たちは冒険の町から北ナット平原を越え、風の町を目指して足を進めていた。

 NPCであるナルハは別枠のパーティに換算されるため、統率者の心得の影響は受けていないようだ。もちろん、部長の援護は問題なく届く。


一つ目鬼(サイクロプス)は倒してあるので、風の町までは安全に進めますね」


 ダリアとアルデと手を繋ぎながら歩く俺に、隣を歩くナルハが胸を張って語る。


 ゲーム的に考えるなら、ダリアと一緒に倒した日から一週間以上経っているため一つ目鬼(サイクロプス)は出現する筈だが、ストーリークエスト等のイベントに参加している場合はその適用外なのかもしれない。


 一つ目鬼(サイクロプス)が立っていた忌々しい場所には無数の人骨以外何もなく、まっすぐ先に風の町を見ることができた。


「そうそう、今回の依頼には依頼主自ら調査に加わるって聞きましたよ」


 周囲の警戒も怠ることなく気を張りながら、しかし口調は穏やかに、ナルハが思い出したように口を切る。


 依頼主で連想する人物像は年配の非力な民というイメージだが、自ら付いてくるとなれば、ナルハが受けた依頼を発注した人物は割と武闘派なのかもしれない。


 リザード族は家畜を狙うといっていたから、畜産関係の町民が仇を討ちに同行する――というパターンだと、私怨が絡む分危険度が増すし、ちょっと気乗りはしないが……


「ナルハ的に、その依頼主は同行しても問題なさそうなの?」


 これから初めて会う依頼主について彼が知るわけないか――と、この質問自体が愚問だったなと反省する俺に、ナルハは得意げな表情で答えてみせた。


「大丈夫ですよ。その人はギルドランクBの風の町が誇る期待のエース! 彼女達の功績は冒険の町に居る僕の耳にも届いてますし、腕は確かだと思います」


 風の町が誇る期待のエース……という言葉から連想される、白髪の少女の姿。

 昨日まで少年だったナルハがここまで成長した事から察するに、俺の予想はほぼ確信に近いものに変わっていく。


「召喚士のタリス、召喚獣のレヴィ……か?」


「さ、流石はダイキさん。別の町の冒険者の情報まで知ってるとは」


 がむしゃらに力を求める、芯の強い女の子。無理せず可能な範囲の依頼をこなすようアドバイスした俺の言葉を、月日が経っても彼女は守ってくれているだろうか。


 湖の畔で二人、戦闘の鍛錬をしていた彼女達の姿を思い出しながら、俺たちは依頼主が待つ風の町へと足を踏み入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こちらからすればあっという間に5年間が過ぎて、ナルハ凄い成長した!ってなるけど、ナルハ目線からすると「ダイキさん、まるで成長していない……」となってしまうね。
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