表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/304

娯楽の町は夢の町

 

 第一に、音楽。


 コミカルなメロディを奏でる音楽隊が、ゆっくりとした足取りで練り歩く。その風貌は独特で、男女問わず黒のタキシードに身を包み、のっぺりとした白色の仮面を被っている。

 町のどの場所にいても聞こえてくるこの音楽は頭の中に残りやすく、もはや刷り込みに近い。俺だけでなく、頭の上に乗る部長もそのリズムに身体を合わせているのが分かる。

 音楽に合わせ同じ格好をした従業員が優雅に踊る様はどこぞのテーマパークに来たようで、歩くのをやめ、踊りに見入って手拍子するプレイヤーの姿も多く見られた。


 第二に、施設。


 港さんが言っていた“遊園地”という情報に嘘偽りは無く、現実世界にもあるような観覧車やジェットコースター、コーヒーカップやメリーゴーランドなどなど、定番のマシンが忙しなく稼働している。

 マシンに搭載された過剰なまでの照明が町全体を照らし、赤青黄色の光が人々の身体を包み込む。

 視線を移せばトーナメントの祭にあった出店の類も立ち並び、その奥には“(お金)”のマークがデカデカと掲げられた巨大な施設が圧倒的な存在感を放って佇んでいた。

 入り口に立つ、同じ仮面を付けたバニーガールが道行く客に愛想を振りまいているのが確認できる。


 第三に、規模。


 マップを確認して驚いたが、ここ、娯楽の町は冒険の町とは比べ物にならないほどの広大な面積から成っているのだ。そして、その面積を惜しげも無く使い隅々までアトラクションを張り巡らせてある部分、経営者の規格外さが窺える。

 入り口にて受け取った簡易な地図に目を落とすと、施設を表すポップなイラストと共に、町の紹介が書き綴られていた。


「ヒト種族の欲望の全てを叶える事ができる幻の巨大テーマパーク。一度入れば病み付きになる夢の楽園へ……なるほど。こうして見ると、なかなか信憑性のあるキャッチコピーだ」


 特設ポータルに触れる以前の俺が見たら、この胡散臭い謳い文句を鼻で笑っていただろう。けれど、この光景を見てしまった後から読めば、大袈裟という言葉は不思議と浮かばない。


『あの馬のやつ のりたい』

『ごしゅじんー、あそこのキラキラしたリンゴみたいなの買ってー』

『拙者はあれが乗りたい! てっぺんが見えないぞ!』


 やはりと言うべきか、初めて来る遊園地に三姉妹は興味津々。既にあれやりたいこれが欲しいの駄々こねが始まっている。

 今日一日遊ばせてあげようかな――と、無邪気にはしゃぐ三姉妹を眺めながら簡易な地図をアイテムボックスに仕舞い、俺たちはその賑やかで不思議な町を歩き出した。



*****



 ――時間は数十分前に遡る。


 仕事から帰ってログインし、しばらく三姉妹とおもちゃでワイワイ遊んだ後、いつもの状態で宿屋を出た俺たち。

 マーシーさん力作の装備のお陰か、昨日今日で写真をお願いされる事がかなり増えているように思えたが……彼のお店の良い宣伝になるし、丁寧に対応しながら王都を探索。目標としていた娯楽の町を開放したのだった。


 娯楽の町までは簡単にポータルでひとっ飛びするのではなく、特殊な飛行船に乗って移動するらしい。俺たちは飛行船の船着場へと通される。

 船着場へは、特設ポータルに触れることで瞬時に行く事ができた。


『これはまた、綺麗な景色だなあ』


『みえみえ』


 飛行船の乗り込み口へと続く道が伸びるエントランス部分に着いた俺たちは、その空間に早くも圧倒された。

 船着場という表現が正しいのか不明だが、その場所に留まる一隻の巨大な飛行船。

 エントランス部分は、数百人単位が座れるだけの小分けにされたソファや豪華な絨毯が設置され、外側を見られるようにぐるりとガラス貼りになっていた。

 ガラスに唇までビタリと貼り付けた状態のダリアが言うように、そこからは眼下に広がる景色が見え見えである。


『ほら、部長も見えるか? あそこは……多分火の町だろうな』


『ふーん』


『ダイキ殿! 拙者も拙者も!』


 ダリアとアルデはともかく、部長の身長では景色を見る事ができないため、下に降ろさず抱きかかえるようにして見せてやる――が、特に感動もしていない様子。実に、張り合いのないリアクションである。

 その代わり、新たに高い所好きという事が判明したアルデが足元で『抱っこ抱っこ』のポーズとなり、部長共々抱き上げてやると、三女(アルデ)は目を爛々と輝かせながら感動しているのが伝わってきた。

 

〈娯楽の町行き、エルスターク・ウェアレス二号は間もなく出航いたします。ご利用のお客様はお忘れ物のないよう、速やかにご乗船くださいませ〉


『よし。それじゃあこれに乗り込もうか』


 しばらく景色を楽しんでいると、エントランス内にアナウンスが響き渡る。

 パスポートがあれば何度でも行き来できるらしいので、俺たちは特別切符なども買わないまま乗船口へと足を進めていった。


「はい、確認しました。お足元、お気をつけてご乗車くださいませ」


「ありがとうございます」


 王都のNPCに気前よく渡されたパスポートを掲示し、笑顔の従業員の指示に従いながら滞りなく飛行船へと乗り込んでいく。

 中には特に決まった座席が無いらしく、俺たちは木製の床を歩きながら適当な席へと腰を掛けた。


〈エルスターク・ウェアレス二号は王都が誇る機械技術の結晶です。内蔵動力装置は空気中の魔力を吸収し、船を動かします。開発者のW・ステルベンは、実現化させた機械技術の応……〉


 飛行船内のアナウンスを流し聞きしつつ、マップを開いて全体図を見やる。


 この飛行船は全通船楼型――いわゆる客船のような形をしており、ファンタジーよろしく両サイドに設けられた大きな翼と後方に付いている二つのプロペラによって浮上・移動できる仕組みであると考えられるが……中の詳しい構造は分からない。

 先ほどのアナウンスでもあった通り動力は魔力であるし、現実のソレとは全くの別物だという事だけは理解できた。


「あの、すみません」


 道行く従業員に声をかけ、少々気になった部分を聞いてみる。


「はい。どういたしましたか?」


「先ほどのアナウンスで、この船の名前の最後に“二号”って番号が付いていたのですが……娯楽の町へは随時何台かの飛行船が出ているのですか?」


 見たところ、相当な人数の乗客を運搬できるように思えるが……それ程の規模の飛行船が何隻も飛び交っていると考えると、王都は娯楽の町をかなり重要な場所と考えている可能性が高い。

 船着場に留まっていた飛行船はこの二号だけであったが、時間をずらし、この場所から何隻もの飛行船が出航しているのかもしれない。

 物語とはあまり関係のない町だと考えていたため、ちょっとした観光とガチャを回すだけに済ませる予定だったが、重要となれば話が変わってくる。それに、船着場からの行き先が娯楽の町一択というのも妙な話だ。


 俺の質問に従業員は少し答えにくそうな顔で視線を泳がせた後、再び笑顔を作ってそれに応対してみせた。


「王都にある飛行船は、このエルスターク・ウェアレス二号のみとなります。なぜ二号という番号が付くのかといいますと、実はこの船より前に完成した“エルスターク・ウェアレス号”は昔、飛行途中で制御不能となり……」


「ごめんなさい、不謹慎でしたね。全く知りませんでした」


 とても言いにくそうに語る従業員に、素早く謝罪すると同時に頭をさげる。


 まさか一号が事故で壊れてしまっていたとは……。

 考えたくないが、二号の制御装置の方もいささか心配である。まあ、それもそれである種イベントやクエストに近い扱いになるだろうから、皆仲良くゲームオーバーなんて事態にはならない――と願いたいが……


「ですが不思議な事に、今でもエルスターク・ウェアレス号が飛んでいるのを見たと言うお客様がいらっしゃるんです。事故があったのは十数年も前なのに、なんだか怖いですよね」


 事故関係の会話をした全ての乗客に同じように返しているのか、従業員は複雑そうな顔を見せながらも、慣れた風に、そして怖い話をするかのようにヒソヒソ声で云う。

 隣に座るアルデから『ひっ!』と短い悲鳴が漏れ、ぶるりと身体を震わせたのが分かった。


 娯楽の町までの所要時間は15分間。それまでは自由であるため、俺たちは乗客席から移動し、別の部屋に繋がる扉を開ける。

 マップを確認しつつ移動していくと、どうやら乗客席を通り過ぎて出たこの場所はレストランのフロアになっているようだ。そして、船着場のエントランスと同じように、両サイドは分厚いガラス貼りの壁となっていて、食事をしながら外の景色を見る事ができるようになっていた。


『せっかくだし、何か食べていくか?』


 返事は言わずもがな、満場一致で賛成となり、俺たちは外の景色を楽しみながら、優雅なひと時を過ごしたのだった。



*****



 時間は戻って娯楽の町。


 豪華な飛行船でのフライトだけで充分な体験だったのだが、召喚獣達はまだまだ元気が有り余っている様子。

 先ほどマップでガチャコーナーを把握しておいたから目的はいつでも達成できるし、ログアウト予定時間までの残り三時間をアトラクション巡りに充てようと思っている。

 便利な事に、町内はアトラクションの場所までポータル移動が可能となっており、たとえ地図の端から端まで距離があったとしても、一瞬でたどり着けるのは有難い。俺たちはまず、ダリアが所望する《メリーゴーランド》へと移動した。


『拙者のお馬さんが一番速い!』

『チカチカするけど楽しいー』


『アルデと部長のうま 抜かせない』

『ダリア。不満そうにこっちを見ないでくれ』


 一言で言えばメリーゴーランドであるが馬は現実世界のそれとは違い、どこかのエリアで出てきそうなモンスターの形をしていた。

 アルデと部長ペアが黒色のペガサス、俺とダリアペアが王冠を被ったアマガエルである。普通に駆けっこしてもカエルと馬では勝負にならなそうだが、メリーゴーランドの構造上、前にいる人は終わる時までずっと前だ。

 少し不服そうな顔でアルデと部長ペアの馬を指差しながら、こちらを見上げてくるダリア。

 ともあれ、これが既に三回目の乗車であるため、三人ともかなり楽しんでくれている事が分かる。


 続いて、部長ご所望の《ミラクルキャンディ》売り場へ。


 見た目的には、リンゴ飴に近い。ただ、こちらは歪さの無いまん丸で、色も非常にカラフルだ。

 各々が好みの色を手に取るのを確認しながら、笑う仮面を付けた店主に料金を支払う。

 メリーゴーランド代とトータルして既に5,000Gが消え去っているが――ガチャで装備代が浮くと信じようと思う。最初から、三人の引きに賭かっているからな。


 近くのベンチに腰掛け、三姉妹がカラフルな飴に口を付けるのを眺める……が


『これは……しょっぱい! ん? 甘い?』

『美味しいー、まずい、美味しいー』

『ダイキにあげよう』


 どうやら、ただのフルーツキャンディではないらしく、特にダリアの飴はハズレだったのか早々に飴を俺に渡してきている。

 試しに舐めてみると、梅干しとパイナップルを混ぜたような……それでいて最後に鼻奥を抜けるハッカのような香りが、とても不味かった。


 続いて、アルデが行きたがっていた《ヘブン・タワードロップ》へ。


「高くない?! これ、高すぎませんか!!」

「なるほど……これは正しく天国(ヘブン)

「頂上で何十秒も焦らすのやめてー!!」


『すごいすごい! 飛行船と同じくらいよく見えるぞ!』

『ごしゅじん、寒いの?』

『顔色 わるい』


 同じ組になったプレイヤー達の悲鳴が聞こえるが、俺自身も既に余裕はない。

 胸の前に設置してもらった部長用の特設シートベルトを抱きしめながら、平常心を保つべく真っ直ぐ前を向く。そして数を数える。


 風にあおられタワーが揺れる。俺の体も小刻みに震える。

 近くのプレイヤーが恐怖のあまりログアウトした。

 

 キャッキャとはしゃぐアルデのためを想うと、俺にログアウト脱出という手段はとれない。隣のシートで足をぶらつかせるダリアが、俺の顔を覗き込みながら心配そうに呟いた。

 飛行船では感じなかった空気と風、眼下に広がる米粒のような景色も相まって、このアトラクションは濃厚な恐怖を再現することに成功していると言える。


『皆、下に行って俺が泣かなかったら褒めてほしい』


 三人の返事は、落下に伴う轟音と共に掻き消えた。



*****



 時刻は21時37分。


 たっぷり二時間半近く遊んだ俺たちは、当初の目的だった《景品取り替え所》に来ていた。仮面を付けたバニーガールが出迎える。


 ここは、隣にあるカジノに似た施設で得たポイントをアイテムと交換してくれる場所であり、俺が今持っている《プレミアムガチャチケット》や《ゴールドガチャチケット》を使える場所でもあるらしい。

 受付に立つ、またまた仮面を付けたバニーガールと挨拶を交わしながら、彼女の後ろに表示されている景品の方へと視線を向けた。


【専用馬セット】700.000P

【タキシードコスチューム】300.000P

【バニーガールコスチューム】250.000P

【シルバーガチャチケット】10.000P

【ゴールドガチャチケット】30.000P

【プラチナガチャチケット】50.000P

【オシャレな仮面】80.000P

【空のコンパス】1.000P


etc……


 恐らく、トルダが言っていた馬は一番上にある70万ポイントの景品だろう。確かゲームポイントは10Gで1Pだから……700万G相当か?

 想像以上の高さに戦慄しつつ、俺はアイテムボックスに収まる四枚の紙を取り出した。


『また高いの乗りたいぞ!』


『俺、今度下で見てるのじゃダメかな?』


『えらいえらい』


 あの後、お約束のように三度も天国へと連れて行かれ、その後も怒涛のアトラクションラッシュによって心身ともにボロボロとなった俺。

 召喚獣のご利用は召喚士同伴というルールのお陰で、留守番が根本的に不可能となっている。

 アルデを始め、部長もダリアも絶叫マシンは平気らしい。

 一度も泣かなかった俺を褒めるダリアの頭を撫でながら、受付にチケットを手渡した。


「ありがとうございます。因みに、ジャンルから《武器》《防具》《アクセサリー》《お楽しみ》から選べますが、どういたしますか?」


 これは有難い。俺たちが今欲しているのは武器であるし、盾もジャンルとしては武器であるため、狙うならココだろう。

 引くジャンルを決めつつ、別に気になった部分を質問していく。


「ええっと、お楽しみとはなんですか?」


「お楽しみは武器、防具、アクセサリーに加え、消費アイテムや特殊アイテム、更には乗り物系モンスターやホーム専用グッズ等、色々な物がランダムで当選します!」


 受付の言葉を合図に、目の前に表示されたパネルにずらーっと並ぶ景品一覧。

 一応、武器や防具等もこちらで手に入るらしいので、本当に完全ランダムといった感じだ。

 了解した旨を伝えつつ、早速ガチャへと意識を向ける。


「では、まず《ゴールドガチャチケット》から、お願いします。ジャンルは武器で」


「かしこまりました。ゴールドガチャチケットは高い確率で《ランクB》が当たり、少ない確率で《ランクA以上》が排出されます」


 ともあれ、取り敢えず必要なのは武器だ。


 受付はどこからか金色のガチャ台を取り出すと、俺の眼の前に差し出した。

 三姉妹にはプラチナガチャの方を頑張ってもらおうと考えているため、これは自分で引く分だ。


 取っ手に手をかけ、ぐるりと一回転。




【鏡の盾】


 一見して普通の盾ではあるが、状態異常効果を跳ね返す特殊な鏡が使われている。その昔、英雄ノクスが石の怪物と戦った際、使っていたとされる盾の模造品。


ランク:B


耐久+102

魔力+34

状態異常反射(大)


分類:片手盾




 一発目にして、当たってしまった。


 白の玉が割れ、中から現れたのは欲していた念願の盾。早速、手持ちの物と交換する。

 鏡の盾とあるが、説明にもあるように見た目は艶のない無骨な鉄のカイトシールド。けれども、灼熱の盾よりも高い耐久に加え魔力の上がりもかなり良い。筋力の値が下がるのは少し残念だが、この状態異常反射という効果も相当期待値が高い。

 正直自分の引き運には期待していなかっただけに、盾が出たのは相当嬉しい。

 残りの理想としては、ダリアの杖と大剣以外のアルデの武器。積極的に攻撃には加わらないため、俺の剣と部長の武器についてはあまり重要度は高くない。

 ともあれ、これで本当に武器の料金が少し浮いたのは大きい。俺の防具が新調できる可能性が出てきた。


『次やるー』


「はい、ありがとうございます。プラチナガチャチケットは高い確率で《ランクA》が当たり、少ない確率で《ランクS以上》が排出されます」


 続いて名乗りを上げたのは部長。身長の関係で机に届かないため、抱っこしてポジショニングしてあげる。

 受付が取り出した七色のガチャ台の取っ手に手をかけ、鼻をヒクつかせながら、ゆっくりとそれを回していく――と




(みかど)のマジック・ワンド】


 その昔、ある国に君臨していた帝の宝。特殊な宝石が埋め込まれており、魔法の威力を増幅させる効果がある。


ランク:A


魔力+127(107+20)

魔力強化(中)


分類:片手杖




 またまた当たり。しかし、今度は引いた本人用の武器ではなく、どうやらダリア用の武器のようだった。

 見た目は細長い銀色の金属に、白色の魔石のような宝石が埋め込まれた美しい杖。握る部分には黒色の革が巻いてあり、子供(ダリア)でも扱えそうな大きさである。

 当たった景品を一瞬眺めた部長は、『これ、姉貴が使える武器みたいだよー』とあっさりダリアの手に渡し、何事もなかったかのように俺の頭の上へと登って行った。

 帝のマジック・ワンドを受け取ったダリアはしばらくそれを観察し、柔らかい口調で俺の頭の上にいる部長へ『たいせつに 使う』と伝えてみせた。


 他の家では喧嘩でも起こるのだろうか。

 (うち)の子達はいつも平和で助かってしまう。


 トントン拍子に武器が揃っていく流れのまま、次は気合十分のダリアが引くようだ。恐らく、心の中でお返しに部長の武器を狙っているのだろう。

 同じように抱きかかえてやり、部長が引いたガチャ台へと手をかけるダリア。


 転がった玉は――銀色。




【ローランド・ソード】


 八人の偉大な英雄が、この世に二度目の平和をもたらした記念に製作されたという貴重な武器の一つ。人族の英雄ローランドが愛用していた武器を模して作られたこの剣は、彼の剣がそうだったように、竜殺しの力が宿る。

 

ランク:S


筋力+115

竜殺し(大)


分類:片手剣




 出てきたのは部長用の武器ではなく――俺用の片手剣だった。少し残念そうにしているダリアへの申し訳なさから露骨に喜べずにいるものの、俺としてはかなり嬉しい。


 ステータスを見るに、相当高性能な武器であることが分かる。高い筋力値に加え、竜属性モンスターへのダメージが増加する《竜殺し》という特殊効果まで備わっていた。

 現在装備している炎のハイメタル・ブレードに比べ刀身がやや長く、剣刃の幅はやや狭い。剣格の部分は鷹の翼のような形になっており、シンプル且つ美しい一品となっている。


『残念賞 あげる』


『とんでもない。大切に使うよ』


 品質への愚痴ではない事は分かっているものの、部長の武器が出なかった事が余程悔しかったのか、不服そうに口を尖らせるダリア。

 さて、残るはアルデだが……


『拙者は何を出せばいいんだ?』


『別段、気張らなくていいぞ。部長の武器もアルデの武器も、オルさんに頼んで作ってもらえるからな』


 連続した当たりに戸惑うアルデが困ったようにこちらに視線を送ってきたため、安心させるように頭を撫でた。

 俺の剣と盾、そしてダリアの杖まで当たったとなれば、これだけで相当の費用が抑えられる。正直、何が来てくれても全く問題はない。

 俺の一言でホッとした様子のアルデを抱き上げ、ガチャ台の前へと移動。『よーしっ!』と、気合を注入したアルデが勢いよく取っ手を回し――黒色の玉がこぼれ落ちる。




【魔力の錫杖(しゃくじょう)


 大規模な魔力奔流を打ち破ったとされる錫杖の模造品。魔力を消費する事で、所有者を守る結界を展開する事ができる。


ランク:A


特殊技能『魔法結界』


魔力+104

闇耐性アップ(小)


分類:両手杖




 アルデが当てたのは、またしても杖。しかし、部長が当てた帝のマジック・ワンドとは違い、こちらはかなりの長さを誇る両手用の杖だ。

 形は名前の通り、お地蔵様が持っている杖――錫杖そのもの。全てが鈍く輝く金でできており、先端の大きな輪っかに小さな輪っかが通してあるのが分かる。

 魔力奔流というものが何なのかは不明であるが、この特殊技能(スキル)の《魔法結界》はMPを支払う事で魔法防御力を上昇させる事ができるようだ。


 片手か両手かの違いはあれど、違うタイプの杖。

 アルデは嬉しそうに『姉御! あげる!』とそれを渡し、ダリアは部長へ向けたような柔らかな声色で『ありがとう』と受け取ったのだった。


 武器のダブりはあったものの、結果としてみれば大成功である。残る部長の武器と、アルデの補助用武器、そして俺の防具を所持金の許す限り揃えれば、一先ずの装備は確保できそうだ。


 個人的に三姉妹のやり取りがたまらなく可愛らしかったので、最後にレストランにて楽しく食事を済ませた後、俺はもう一度、天国へ続く塔へ付き合うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ